■ベータマックス
もう、すっかり歴史の産物となった家庭用ビデオの"ベータマックス"を、私はいまだに持っています。何を隠そう、私が結婚したときの披露宴がベータマックスで録画されているからです。というよりも、VHSにダビングさえすれば解決できるのですから、"ベータマックス"へのある種のノスタルジーがあるかもしれません。
ベータ対VHS。家庭用ビデオテープレーコーダー規格の標準化をめぐる熾烈な争いがされたことをご存知でしょうか?
ディファクト・スタンダードとかグローバルスタンダードとかに日本の企業が血眼になった最初の脚光を浴びた事件だったといってよいでしょう。
■標準化
最初は、ベータマックスが優勢でした。技術的にもベータマックスのほうが上だといわれていましたが、どうして、VHSが最終的に標準化の勝利を得たのでしょうか?
VHSのほうがベータマックスに比べ部品数が少ないため、消費者に安く製品を提供できた点とか、ベータマックスが技術中心に対してユーザーフレンドリに徹した点が、勝利の要因だとよく言われています。
後者について補足すれば、録画時間が長いとか販売店数が多いとかレンタルビデオ店を味方にしたとかという点です。
必ずしも、最高の技術を備えたものが標準化されるわけでない事例として引用されます。
■汎用性
もう1つ忘れてならないのが汎用性です。VHS規格が消費者から支持を受けたもう一つの大きな理由として、互換性があげられます。S-VHSとかD-VHSなど新しい製品が出ても、過去に録画されたものも見ることができるという点は、ある面で重要です。当初VHS機器で録画したテープがずーっと見ることができるのです。
ややもすると独自性を強調すると、汎用性を犠牲にしかねません。ただし、汎用性を強調しすぎると、技術革新に遅れをとることになります。標準化にあたって、独自性と汎用性のバランスは保つのが重要だといえます。
今となっては、DVDとかブルーレイなどの家庭用録画機器が王座を奪った感がありますね。
■規格争い・標準化争いは横並びの銀行業界でも
家電のような競争が激しい業界だけでなく、横並びの業界でも、業界標準を目指す規格争いは避けて通れません。
私がいた銀行業界も、ある面では規格争い・標準化争いがあります。電話・ファクシミリ・パソコンによるファームバンキングも、独自性と汎用性を巡る争いでした。
大手銀行がすすめる独自のファームバンキング。これに対して、NTTデータは、ANSERシステムによる複数銀行のファームバンキングの提供を進めました。一面では、棲み分けの部分もありましたが、規格争いの面は否定できません。なお、日本で最大のトランザクションを誇ったシステムとして、一時、このANSERシステムはその栄誉を担っています。
それはさておくとして、ファームバンキング、そして本格的にホームバンキングをもたらしたものは、オープンネットワークであるインターネットです。
実は、安定な通信状況を重視する銀行業界が、従来のクローズドネットワークから、通信状態として不安定なオープネットワークのインターネットを採用したことは、よく考えると不思議でなりません。私自身、インターネットバンキングの創成期を担った者からしても、メジャーになるとは思っていませんでした。
確かに、セキュリティの面は技術の進化でカバーできると思っていましたが、通信の不安定さは他力本願でした。例えば、インターネットの場合、通過する第三者のサーバーが24時間365日稼動しているという保証が全くないからです。事実、90年代の最初の頃、インターネットメールを発信しても相手方に到着しないことがしばしばありました。
いずれにしましても、インターネットが銀行に及ぼした影響は無視できません。
■グローバルスタンダード化は難しい
日本の銀行がグローバル化できていない象徴的なものとして、キャッシュカードがあります。海外のカードと比べ大きさは同じですが、磁気ストライプの位置が日本では表面に対して海外では裏面です。
よく言えば独自性ですが、逆の見方をすると孤立しているといってよいでしょう。海外のATMでお金をおろすことができないというデメリットがあります。あまりにも早く国内標準化しすぎたために、欧米の後出しじゃんけんで負けたという評価を私はしています。何しろ、1972年に決めたキャッシュカードの規格が基本的なところは変わっていません。
これとよく似た例として、携帯電話の規格についても、日本の技術は誇れるのにもかかわらず、なかなか諸外国から認めてもらえません。ハイビジョンや二槽式洗濯機もしかりです。さすがに、デジカメのフォーマット(Exif2.2) は日本が先導していますが、思ったほど、グローバルスタンダード化したものは少ないです。
以上、標準化とか規格争いがマーケティングに与える影響が非常に大きいことがおわかりになったと思います。
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