【―日本におけるMBA教育を考える―】
―日本におけるMBA教育を考える― 【3】
◇上林 憲雄氏(Norio Kambayashi)◇
英国ウォーリック大学経営大学院ドクタープログラム修了後、
2005年神戸大学大学院経営学研究科教授、経営学博士。
専攻は人的資源管理、経営組織。
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前回までに,日米間でMBAの内実は大きく異なるというお話をいたしました。日本においてMBAスクールに通う受講生の期待の多くは,MBAスクールで得られる知識や経験を「実践に役立てる」こと,ざっくり言ってしまえばこの一点に尽きます。では「役に立つMBA」とはどういうことなのでしょうか。
■陥りがちな過ち
私が勤務している神戸大学のMBAは,「働きながら学べる」ことを最大のウリにしています。つまり,年齢層としては主として30歳代から40歳代の働き盛りで,将来,その企業を背負って立つクラスの経営幹部になることが期待されている人たちが,勤務のない週末や平日の勤務終了後に大学まで通い,授業を受講します。
私の知る限り,神戸大学に通う大半の受講生がMBAコースに入学する前に期待しているのは,経営戦略や人的資源管理,会計,ファイナンス,テクノロジー・マネジメントなどMBAの主要領域で企業経営に必要な一通りの理論や知識を学習し,それを実際の企業経営にフィードバックして実務に活かすことです。
しかし,実はこの「理論や知識を実務に活かす」という考え方は,注意しないと陥ってしまう罠が潜んでいます。
■理論の罠
MBAで学んだ理論や知識を実務に活かそうと考えている受講生が陥りがちな過ちは,そうした理論がそのまま実務上の問題に当てはめることができ,またその理論を適用しさえすればすぐに問題が解決する,少なくとも解決の方向性がわかり,その方向へ向かって舵を切れる,というように考えてしまいがちなことです。確かに,「理論」は本来ユニバーサル(普遍的)な妥当性をもってしかるべきものですから,そのような期待を受講生が抱いてしまうのも無理のないことかもしれません。
■理論を当てはめても解決しない問題
しかし,経営理論を学習した読者には容易に理解できることと思いますが,授業で習った理論がそのまま当てはめて解ける問題など,現実には滅多に存在しないのです。現実の企業における実務上の1つ1つの問題には,その背後に実に多種多様な要因が複雑な形で絡み合っていて,そう単純には教科書に出ている理論を当てはめることなどできません。
例えば,企業の業種や規模が同一であっても,実際にそこで働いている従業員のトータルな質のあり方は,企業が100社あれば100通り存在するでしょう。とすれば,理論を適用する前にまずは自社の従業員の質の把握をしなければならないことになりますが,何を基準にどうやって人材の質を測定すればよいでしょうか。これまた難題です。
☆次回もお楽しみに!
「きみは営業に向いてない」
周りの人にさんざん言われていながら入社早々営業担当になってしまった中島が伝える、営業の頑張り方