■赤信号、みんなで渡れば・・・
どんな仕事にもルール、手順が決められているものです。その仕事の重要性が高ければ高いほど、それは厳格に定められ、モニタリングを受けなければなりません。誰にとっても自明なことです。
しかし、組織全体として「ルール破り」が常態化すれば、ルール破り自体が新たなルールとなります。「赤信号、みんなで渡れば・・・」を繰り返していると、赤信号=横断OKというルールができるということです。そして、それが結果として事故に発展することがあります。
■ルール破りが招いた大事故
ルール破りが原因となった重大事故の中に、1970年代後半に起きたある航空機事故があります。乗客乗員300名弱を乗せたこの旅客機は、左右2機のエンジンの左側1機が離陸滑走中に主翼から脱落し、そのまま離陸するも30秒後、機体の天地を逆転させた状態で墜落しました。
航空機では当然ながら機能冗長性が確保されており、片方のエンジンだけでも離陸も着陸もできるように設計されています。しかし、この事故では、エンジン脱落に伴って、他の操縦機能(具体的には、失速警報と高揚力装置指示計)が完全に失われるという要因が重なったことも原因とされています。
いずれにせよ、事故の主因はエンジンの脱落です。ご存知の方も多いと思いますが、エンジンは主翼に直接くっついているのではなく、主翼とエンジンの間に「連結するパーツ」(パイロンといいます)を挟んで取りつけられています。とてつもなく重いエンジンが、どうして安定してぶら下げられるのか、疑問に感じられる方も多いと思いますが、実は、このパイロンを介して絶妙のバランスを取って、取りつけられています。
この事故を起こした会社では、エンジン整備において、組織として「ルール破り」が行われていました。エンジンは、主翼から取り外して整備が行われますが、事故機のメーカーからは、1.まずパイロンからエンジンを取り外し、2.次に主翼からパイロンを取り外す、という手順が指示されていました。
しかし、事故を起こした航空会社では、作業効率化を目的としてエンジン・パイロン一体のまま主翼から着脱をしていたのです。先にご説明したとおり、エンジン、パイロン、主翼は絶妙のバランスが取られています。とてつもなく重いエンジンを無理に着脱すれば、わずかな位置のズレで重大な損傷が起きるということは、文系の方でも容易に想像がつくことと思います。それが顕在化したのが、この事故でした。
■事故やミスを個人の問題にしない
ミスとは、「すべきことが決まっている」にも関わらず、「すべきことをしない」あるいは「すべきでないことをする」ことで発生します。
ミスが発生したら、失敗を引き起こした因果関係の連鎖は、長く組織のシステムに奥深く絡みついているのではないかと疑うこと、組織全体を見直す機会を持つことが重要です。
☆次回もお楽しみに!