今回もバーチャルマネジメント研究所のコンテンツよりお送りします。
◇バーチャルマネジメント研究所
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上林 憲雄氏(Norio Kambayashi)
英国ウォーリック大学経営大学院ドクタープログラム修了後、
2005年神戸大学大学院経営学研究科教授、経営学博士。
専攻は人的資源管理、経営組織。
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今回は,SWOT分析で具体的に自社の強みや弱みがわかったら,「強み」を活かして経営すべきか,それとも「弱み」を克服すべきか,どちらを優先的に考えるべきかを,論理的に考えてみましょう。
■仕事のプロセスに注目する
この問題を解く重要な鍵の1つは,製品やサービスなどのアウトプットが産出されていくプロセスです。即ち,生産の方式が連続生産型か,それとも独立生産型かに着目する,あるいは,もっと単純化して述べると「仕事のプロセスに着目する」といってもいいでしょう。
連続生産の典型例は,いくつかの工程を経て作り出されるような場合,言い換えるなら「流れ作業方式」のような生産形態をとっている場合です。化学工場の装置生産はこの好例です。
こうした連続生産の形態をとる場合,そのプロセス内部のたった一箇所にでもエラーが発生し,そこで製造途中の部品が流れなくなってしまうとどうなるでしょうか?言うまでもなく,以下のラインは全て止まってしまいます。他の箇所がどんなに優れていて,たとえ最新鋭の設備を備えていたとしても,一箇所にエラーがあるだけで,その組織全体のアウトプットが全く無くなってしまうのです。
したがって,こうした連続生産の形態をとるような製品の場合,あるいは前の部署から流れて後ろの部署へと流れるように,連続的に仕事のプロセスが設計されているような場合には,途中のエラーを何としてでも取り除かなければならないということになります。つまり,「弱みの克服」が戦略として優先されるべきなのです。
■強みを活かせる条件
逆に,こうした連続的なプロセスで仕事が設計されているのではなく,各部署の独立度がそれなりに高いような場合を考えてみましょう。典型的には,1つの組織内部に多くの個人プレイヤーを抱えるコンサルティング会社を例に挙げることができます。
コンサルティング会社では,各個人のコンサルタントの力量がものを言います。各個人コンサルタントは,相互に独立性が高く,お互いが仕事で干渉し合うようなことは滅多にありません。(共同作業をするような場合もあり得ますが,ここではそうしたケースは除外しておきましょう。)
個々のコンサルタントは,別々の案件を扱っていますから,会社全体の1~2人なら,たとえ業績の低いコンサルタントが居たとしても,会社全体には大した迷惑をかけるようなことにはなりません。それより,たった1人だけでも極めて有能なコンサルタントが居さえすれば,少数の低業績コンサルタントの不足分など,優に補ってくれるはずです。
説明をわかりやすくするためにコンサルタント会社を例に挙げましたが,コンサルティング会社に限らず,こうした相互に独立性の高い仕事の流れでデザインされているような会社ですと,「弱みの克服」は最初にとるべき戦略ではないことが窺えるでしょう。むしろ,1人で10人分の稼ぎを上げてくれるような「強みを伸ばす」戦略の方が優先されるべきです。
■掛け算の関係か,足し算の関係か
数学の得意な方なら,上記の例は数式を使って表現できると思います。連続生産の場合,組織全体の生産性は,各部署での生産性の"掛け算"で表されます。それに対し,独立生産の場合には,組織全体の生産性は,各部署(あるいは各個人)の"足し算"で表現できます。
掛け算は,1つでもゼロが間に交じっていると全体がゼロになってしまいますが,足し算ではたとえ間にゼロが入っていても全体はゼロになりません。1つ大きな数値が含まれていれば,全体の数値も大きくなります。
以上,理屈っぽく書きましたが,ご自身の職場の「仕事の流れ」をもとに,いずれの戦略をとるべきかの参考にしていただければと思います。
★次回につづく
◇上林憲雄教授 「日本型経営を支える管理職の役割」
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「きみは営業に向いてない」
周りの人にさんざん言われていながら入社早々営業担当になってしまった中島が伝える、営業の頑張り方