秋は雲の位置が高いため、天が高く見えるという。
いつもならスポーツの秋・芸術の秋・行楽の秋・食欲の秋などと、イベントの多い時期だが今年はどうだろう。
1年半もの長い間の用心が習慣になって、秋を満喫するとまではいかない。せめて個人的に秋の味覚を楽しもう。
10月16日は世界食料デー。世界の9人に1人が飢餓に直面しているというのに、生産されている食料の約1/3、年間約13億トンが廃棄されている。(FAO:国連食糧農業機関) 日本は食料の6割以上を輸入に頼っていながら、年間2,500万トン以上を廃棄している。このままいけば、2050年には食料を今より6割以上増産しなくてはならないらしい。
必ずしも飢餓対策のためだけではないが、高たんぱくで生産コストが安く、将来の火星移住にも役立つといわれる昆虫食が近年注目されている。 「絶対無理!」と思っていても、上手に加工して慣れれば、おいしいのかも知れない。ただの食べず嫌いなのかもしれない。
うちは祖父も父も早くに亡くなったので、私が子供の頃は近所に住む母の弟が度々顔を出してくれた。
おいしい物・珍しい物好きの叔父は、色々な物をもってきた。
ある日、叔父がもってきたのは、まだ広く知られていなかったコーラ飲料だった。
みんなで少しずつコップに注いで試飲したが、「甘い漢方薬のようだ」といって、家族には不評だった。
その後市場に広まると世の中はすぐに新しい味に慣れて、あっという間に全国的な人気飲料になった。
◆身に余るおもてなし
大人になって、私は広告の仕事をするようになった。
当時、代理店の夕方の打ち合わせは当然のように夕食や小宴席に続き、帰りはタクシー券が出た。
私は仕事をもらう立場だったが、贈り物や接待をしたことがなかった。
逆に外注なのに盆暮れにはメロンや数の子などが送られてきたり、赤坂・六本木・銀座などで接待を受けることが多かった。
それだけ景気のいい時代、飛ぶ鳥を落とす勢いの広告業界だった。
ある日、私をかわいがってくれる取引先の社長が、日本酒の専門店に連れて行ってくれた。広くて贅沢な造りの座敷で、 町の酒店では見かけない選ばれた日本酒と、それに合う酒肴が少量、高級な器に盛られて一種ずつ盆に載せて運ばれてくる。 盆にはそれぞれの由緒書きが添えてあった。通人にはたまらない趣向なのだろうが、未熟な私は通好みの珍味が苦手で、食べるものがなく空腹で倒れそうだった。 おかげで行儀よく静かにお酒をいただいて終わった。貴重な社会見学をさせてもらって勉強になったが、 焼き鳥や刺身で十分な私には過ぎたおもてなしで、かえって申し訳なく自分の見識不足を恐縮に思った。
◆叔父の訓え
後日、叔父にその話をすると、叔父は笑って「好き嫌いもいいが、食べず嫌いや、慣れていないだけで嫌ってはいけない。 本当においしい物を知らないだけかもしれないよ。上には上に本物を知っている人がいるものだ。何でもそうだよ。わかったつもりで決めない方がいい」と言った。
何事につけても、そうかもしれない。慣れた事だけに安住していて、知らないことを学ばないと世界を狭くしてしまう。 それからは仕事でも勉強でも遊びでも、まずは言われたようにやってみる。試してみる。得手不得手、好き嫌い、アレンジを決めるのは、それからでも遅くない、と思うようになった。
◆組織からのおもてなし
環境によっても違うのかもしれない。 山で食べた即席麺がおいしかったので、買って帰って自宅で食べたことがあった。すると不思議なことに少しもおいしくなかった。 精神が高揚している好きな環境で好きな人たちと、しかも食料が選べない空腹時に食べたものは実際よりも貴重でおいしく感じるのかもしれない。
何事につけ、これも同じことなんだろう。人間は感情の動物だ。人間関係の悪い環境で強いられる仕事や勉強は、いくら高給でも辛くて悲しいに違いない。 嫌々することは結果も良いはずがない。組織がハラスメントやメンタルに気を配るのがよくわかる。価値観の異なる人が大勢集まる、職場の人間環境を整えるのは簡単なことではない。
気持ちよく余分なストレスなしで仕事ができることは、組織が提供してくれる最大のおもてなしだと思うようになった。
2021年10月6日 (水) 銀子