いよ草木は生い茂り、虫は穴よりいずる候になった。人も外歩きが恋しくなる。生き物が活動し始める春先に、草を踏み野に遊ぶことを踏青という。転じて瑞々しく世の中に踏み出す歩みをイメージさせる。日差しは暖かくても春冷えの日もある。油断せずに背筋を伸ばそう。

私は小学校から、都心の歴史ある女子一貫教育校に通っていた。美しい制服・長い休暇・贅沢な給食、完備された設備など、厳しかったが庇護された学校生活に不満はなかったが、長い夏休みや冬休み・春休みには、都心より幾分涼しい郊外の伯母の家でよく過ごしていた。

◆何ものにでもなれる自由

そこには男子２人・女子1人の同世代のイトコ達がいて、幼いころから仲良しだった。彼らは、地元の自由教育で有名な私立の一貫校に通っていたが、休暇は私の学校より短かくて、せっかく遊びに行っているのに、私一人が取り残されることになる。すると伯母は皆と同じようにお弁当を作って、1歳上の従姉と一緒に送り出した。不思議なことに従姉が担任に直訴し、クラスが同意して私も通えることになった。仮のクラスメイトに「歓迎の歌」で迎えられ、全く違和感なく同じ時間割で過ごした。

全人教育・国際教育を校是としていた学校には、「労作」の時間というのがあって、「道普請（みちぶしん）の歌」を歌って始める構内の道路整備（といっても、草むしりや大きな石を取り除き、穴を埋め戻すだけなのだが）、飼っている羊を集めたり柵をなおしてペンキを塗ったり、などみんなが同じように汗をかいた。私は普段とかけ離れた学園生活にすっかり夢中になった。帰宅して転校したいと母に訴えたほどだ。しかし結局は、イトコ達も高校は進学校へ進み、別の大学にいった。

のちに当時の学長の話を聞く機会があったが「肥も担げる・英語も話す・男子も女子も隔てなく自分にできることをして、他者とつながる教育でありたい。何ものにでもなれることが大事」と言っていた。確かに開かれた発想で、多くの芸術家を輩出している。時代がやっと追いついたダイバーシティの感覚だった。

◆生きる礎

「子どもの才能を活かしてやりたい」と多くの親は思う、しかし必ずしも天賦の芸術・スポーツまたは頭脳の才だけとは限らない。自分と異なるものへの理解と、率直で柔軟な誠意は、社会的な成功や認証とは関わらずに貴重な才能なのかも知れない。
ある学者が言っていた。「子どもが何で生きてゆくかが見つかれば、それは教育の成功といっていい」世の中は甘くないが、自分で見つけた生き方なら、辛くても我慢できるし乗り越えられる。と言った話が続いたと思う。花形でなくとも、脚光を浴びなくても自分の仕事というものはあるのだ、と共感できた。

まだ自分の生きる礎になるもの が見つからないままに社会に出てしまった若者にとって、素敵な機会になるだろう考え方の1つにタレントマネジメントというものがある。組織が 個人のもつ能力やスキル・経験に合わせて組織で活躍できる場を用意する意図だが、組織の思惑は思惑として、大いに勉強させてもらえばいいと思う。仕方なくの受け身ではなく、自分の栄養にしてビジネスの世界を生きる礎にするといい。スキルというものは使わなくても保存も応用も利くのだから。

1911年、参政権もなく台所に閉じ込められていた女性たちの解放を唱えた雑誌『青踏』創刊号で、平塚らいてうは「元始、女性は太陽であった」と呼びかけた。今はどうだろうか、昔と比べれば女性が活躍できる機会は格段に増えている。しかし今も世界のどこかでは、人生の選択も教育も人権も認められずに輝く機会がない女性たちが多くいる。 今日3月8日は国際女性デー、世界で圧倒的な不利益者である女性への喚起のための名称ではなく、いつか国際全人間デー になる日が来ることを期待しよう。