『・・・・・敬愛するトップからこのような態度で迫られれば、部下としては必死に教えざるを得ません。だから寸暇を惜しむように勉強して、よりよい結果を出そうとした。また井深さんもそれを応援するように、「仕事の報酬は仕事だよ」とよく言っていました。いい仕事をすると、もっとおもしろい仕事ができるようになる。これこそ人生最大の喜びじゃないか、というわけです。こうしてエンジニアは純粋に探求心を燃やし、「サムライ」に育っていったわけです。』
『「指導者」研究 ひとを動かす言葉の力 井深大 「仕事の報酬は仕事」』
(天外伺朗、文藝春秋2010年3月号)
ソニーの創業者である井深大氏は「仕事の報酬は仕事」と仰っていました。
「仕事の報酬が仕事なんて勘弁してほしい。仕事の報酬は昇給や昇格ではないの」と考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで以下、「仕事の報酬は仕事」という言葉から、やる気や動機づけについて考えてみたいと思います。
■仕事の報酬は仕事
「仕事の報酬は仕事」とは、仕事自体がおもしろく、それ自体が目的となっている、だからもっとおもしろい仕事が仕事の報酬となりうるという状態です。アメリカの心理学者デシによると、このようにやること自体が目的となっている状態を内発的動機づけといいます。
一方、報酬など、やること以外が目的となっている状態を外発的動機づけとよんでいます。「テストの点数が上がったら、お小遣いをあげる」と親から言われた子どもが、お小遣い目当てに勉強を頑張るとしたら、これは外発的動機づけから勉強していることになります。
内発的でも外発的でも動機づけられればどちらでもいいではないかと考えられます。ところが、外発的動機づけが強まると内発的動機づけが低下し、それ自体への関心が弱まり、結果も内発的に動機づけられているときよりも悪いということがわかっています。仕事に関していうと、外発的動機づけが強まると、仕事そのものへの関心が薄まり、仕事の成果も内発的に動機づけられているときよりも下がるということです。
■自律性と有能感
それでは内発的に動機づけられるにはどうすればいいでしょうか。まずはご自身に引き寄せて考えて頂きたいと思います。仕事それ自体が楽しくてたまらなかったという経験、もし仕事でそのような経験がない場合はプライベートでの、やっていること自体が楽しくてたまらなかった経験を思い出して下さい。
その際、
(1)自分に裁量(自己決定)の余地がどの程度あったでしょうか。
(2)難易度はどの程度だったでしたでしょうか。
内発的動機づけの鍵は自律性と有能感です。ここで自律性とは、自分で意思決定をするということです。仕事に関していうと、上司が事細かに指示を出すのではなく、部下が自分で考え、決定できるようにすることです。但し、これは部下に好きなことを自由にやらせるのがいいということではありません。それでは組織が維持できません。組織である以上、方向性(業務目標など)は上司が示し、部下はそれに基づき業務を行う必要があります。仕事における自律性とは、目標は与えるが、やり方は本人に考えさせるなどして部下の自己決定の余地を残してあげることです。
有能感とは「自分はやればできる」という感覚です。難易度が高すぎて手も足も出ない場合はもちろんのこと、簡単すぎても有能感を感じることはできません。部下の能力や経験に応じた適度な難易度の仕事を与え、それがやり遂げられるように上司がサポートしてあげられれば、部下の有能感を高めることができます。
☆次週につづく!