■会社の目的を実務的にどのようにとらえるべきか
最初に、ドラッカーの言葉を紹介します。「企業活動の目的は利益追求ではない。利益は結果であり、企業活動の目的は顧客創造にある」。まさに経営哲学者らしい言葉です。
しかし、会社は利益を生まないと存続できない現実を、皆さんは、直視しなければなりません。私は、この点、ドラッカーの言葉を「会社経営の本質」の1つとしてとらえ、会社の目的は、利益を追求することであるととらえています。
利益を生まなければ、会社は、銀行から資金調達することができません。従業員に給料を支払うこともできません。株主に配当を支払うこともできません。
利益を生むことが存続の条件であり、発展するための条件です。この意味で利益は尊いのです。この「尊い利益」をしっかりと追求していくことが"会社価値の最大化"につながるのです。
■尊い利益の社会的な意味
「利益、利益」というと、「もうけ過ぎはよくない」という批判も起きるでしょう。しかし、この「尊い利益」には、社会的な価値を確保するという点も当然含まれています。
会社は、社会との共生を念頭におき、社会に貢献し、"適正な"利潤を追求しつつ、持続的に成長すべき存在です。したがって、会社価値という概念には、自ずと、経済的な価値に加えて、社会的な価値が含まれています。利益が"尊い"という意味がここにもあるのです。
昨今、食の安全への裏切りやリコール隠しなど、いわゆるコンプライアンス(法令順守)問題があとを絶ちません。利益や効率が優先される中で、会社は、コンプライアンスを一種の制約条件と考えているからではないでしょうか。ですから、何か抜け道がないかと考えてしまうのです。
コンプライアンスは社会の利益を守るためにあります。社会の一員である会社が、コンプライアンスの目的である"人の生命の安心と安全"を守るのは当然のことであり、この点、コンプライアンスは、会社の基本目標の一つに位置づけられなければなりません。
■「尊い利益」を生むことが発展のための条件である
さきほど、「利益を生むことが存続の条件であり、発展するための条件です」と述べましたが、この点を深めましょう。
「貧すれば鈍する」という言葉がありますが、利益が出ない会社はまさにこの現象が顕著になります。会議は長くなり、残業が増え、社員は疲弊します。
役員は役員で数字にピリピリし、発想が近視眼的になります。最も致命的なことは、会社の発展にとって不可欠な研究開発や人材育成などに予算を割けなくなることです。一方、業績の良い会社は、頼まなくても、他社からの売り込みが数多く舞い込み、情報を蓄積できます。
また、優秀な人材が数多く集まり、次の戦略や施策をどんどん進めます。まさに好循環が好循環を呼ぶのです。
それでは、会社は、好循環が好循環を呼ぶ状況をいかにして構築すればいいのでしょうか。その答えは、「会社経営の本質」を絶対的な行動指針として受け入れることです。
■「会社経営の本質」を絶対的な行動指針として受け入れる
会社が好循環にあるとは、尊い利益が計上され、この利益の水準が増勢を強めている状態にあるときです。この状態を確保するために、会社は、次の条件を満たさなければなりません。
"会社が提供する価値">"顧客が期待する価値"
この条件が満されていれば、顧客は増え、顧客は喜んで、会社が提供する価値に対価を払ってくれます。つまり、会社は、会社価値の最大化に向けて前進できるのです。
この条件を満たすために、会社には、つぎの3点が不可欠になります。
(1)「利益の尊さ」
(2)「顧客志向の重要さ」
(3)「変革とスピードの重要さ」
です。(1)と(2)は、"会社が提供する価値">"顧客が期待する価値"という図式を成り立たせるために直接作用します。(3)は、他社の攻勢などによって、"会社が提供する価値">"顧客が期待する価値"という図式が常に崩されるリスクに晒されているなかで、これを阻止し、不等号の関係をさらに強化するために機能します。
会社は、(1)から(3)の要件を一つでも欠けば、"会社が提供する価値">"顧客が期待する価値"という図式が成り立たなくなり、利益は減少し、会社価値の最大化への道から外れます。経営者に限らず、ビジネスパーソンであれば、誰でも、(1)から(3)の「会社経営の本質」を絶対的な価値として受け入れなければならないことは明らかです。
■困難に直面したときこそ「会社経営の本質」に立ち返る
業績が悪くなると、「稼げ、儲けろ」という社長がいます。しかし、儲かっていない会社は、そもそも、販売する商品やサービスの内容が悪いのです。
このような中で、社長が「稼げ、儲けろ」と言えば、どうなるでしょうか。営業は、売れない商品やサービスを無理やり顧客に押しつけてきます。しかし、これでは、会社が良くなるはずもありません。社長が、"会社が提供する価値">"顧客が期待する価値"という図式を成り立たせようと、イニシャティブを発揮していないからです。
「会社経営の本質」を熟知している社長は、このようなケースで、何と指示するでしょうか。もちろん、前項の(1)から(3)を意識した指示を出します。
「わが社は今、一番苦しい時だ。主力事業の収益性が低下する一方、次代を担う収益の柱が育っていない。営業部門は大変だろうが、歯を食いしばって顧客の維持に頑張ってほしい。この間、開発セクションは、営業との連携も図り、新製品の早期リリースに全力を挙げて欲しい」。まさに、会社経営の本質に沿った指示です。
皆さんは、ここで、つぎの2点についてしっかりと認識してください。
(1)「会社経営の本質」に立ち返えるとは、「会社価値の最大化」にてらして考えることと同義であること、
(2)だからこそ、困難に直面した時には、「会社経営の本質」に立ち返り、この一つひとつにてらして考えてみること。
(つづく)
※次回は、「課題解決力を鍛えるポイント」というテーマでお届けします。お楽しみに!
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