ビジネスに役立つ文例集
最近、メールで済ますことが多くなってきたとはいうものの、ビジネス上、文書を書く機会が少なくありません。現代ではパソコンで文書を書くことが一般的になり、手書きではうろ覚えの漢字も、カナ漢字変換さえ間違えなければ、便利なものです。
ワープロの入力オートフォーマット機能を使いますと、頭語の「拝啓」と入力すると対応する結語「敬具」が表記されます。改めて、ワープロの威力を痛感するものです。
考えてみれば、頭語・結語も、「拝啓」-「敬具」か「前略」-「草々」くらい使えれば十分な時代になりました。畏まった手紙など書くことがなくなった証左です。
「謹啓」という頭語をご存じでしょうか? 畏まった文書の場合、拝啓よりもこの「謹啓」を使います。見たことはあっても、自分で使った経験のある方は少ないでしょう。これも、ワープロの入力オートフォーマット機能を使えば、「謹啓」に対応する結語は、「謹白」と出てきます。便利です。
しかし、昔の人は、必ずしも、「謹啓」に対する結語は、「謹白」とは限らなかったようです。というよりも、「謹白」は少数派です。太宰治の手紙などを見ると、謹啓に対応する結語は「頓首」とか「再拝」を使用していました。実際、吉田精一編「実例手紙の事典」(1969年、集英社)では、「謹啓」に対応する結語は、「謹言、謹白、頓首、再拝」です。確かに、現在でも、日本郵便のホームページは、「謹啓」に対応する結語として「敬具、謹言、謹白、頓首、敬白」で、許容範囲が広いのが特徴です。
これに対して、最近の辞書を紐解くと、百家争鳴です。
「敬白または謹言」・・・角川国語辞典(1986年)
「敬白または敬具」・・・大辞林(第3版、2006年)
「謹白」・・・大修館漢語新辞典(2001年)
岩波の広辞苑(第2版)や国語辞典には説明がありません。
おそらく、インターネット・パソコンの時代では、ワープロの入力オートフォーマット機能の「謹白」が主流派になったのではないかと思われます。
このような状況で、私はどのようだったのでしょうか? 若い頃は、「謹啓」に対して、「再拝」を使用していました。先ほどの太宰治などのモノマネをしていたわけです。
しかし、私が勤務していた銀行が出していたハンドブック「ビジネスマナーポイント集」(1994年)にたまたま遭遇したところ、「謹言」でした。NHKの鈴木健二さんが監修者で、私は、この時点で「謹啓」なら「謹言」と宗旨変えしました。
そして、現在は、ワープロの入力オートフォーマット機能による「謹白」になったのでしょうか? 実は、21世紀になって、「謹啓」など使うことがなくなりました。私にとっては、「謹啓」は死語になったというわけです。
世の中の変化は、このような頭語・結語にも影響しています。齢50も半ばになりますと、好むと好まざるとにかかわらず、いろいろ経験をさせられるものです。
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