DX(デジタルトランスフォーメーション)を人材育成で実現する

アフターコロナ・ウィズコロナという大きな転換期において、DX(デジタルトランスフォーメーション)の注目度が高まっています。組織がダイナミックな生産性向上、業務プロセス改善を実現するためには、今いる人材をDX人材に育てあげ、推進の担い手を増やすことが肝要です。しかし現状では、推進できていると胸を張って言える組織は少ないのではないでしょうか。そこで「DXの推進がなぜ進まないのか?」「どうしたら進むのか?」という疑問に対するインソースの考えをお伝えします。

本内容は、インソースENERGY FORUM 2021「DX(デジタルトランスフォーメーション)を人材育成で実現する」の内容を書き起こしたものです。

アフターコロナ・ウィズコロナ時代の「人に頼らない」変革

(1)コロナによる業績悪化

突然訪れたパンデミックにより、大多数の組織が業績の危機に直面しております。コロナはいつ終息するのか分からず、終息後に売上が徐々に回復したとしても、それはコロナ前の水準に戻るだけでしょう。ほとんどの企業においては、売上の100%の回復はないと予想されています。この想定しうる現実に目を背けずに、既存事業の縮小を準備しつつ、新分野の開発へと舵を切らなければなりません。

組織は今、業務改善、営業拡大、新規事業を同時に、急ピッチで進めなければならない大変革期を迎えています。

(2)必要なのは「ヒトに頼らない」仕組み

コロナ危機により、あらゆる場面で、ヒトの力だけに頼ることの脆弱さが顕在化しました。今後は、テレワークが日常となり、教育や医療、金融、営業セールスなど、多様な場面でIT技術を活用した新ビジネスが生まれるでしょう。

アフターコロナ・ウィズコロナ時代に求められるのは、IT技術を活用し、本業の顧客価値を再構築することです。再構築できなれば、本業のマーケットから撤退を余儀なくされます。
組織において業務の効率化はもちろん、事業そのものをデジタル化する、「DX(デジタルトランスフォーメーション)化」を進めなければなりません。そして、この大きなデジタル化への変革に欠かせないのが、「デジタル人材・DX人材」です。

(3)日本におけるDX推進の障壁

組織がDX化を進めるうえで、日本は他主要国に比べて2つの点で特殊な状況にあります。

1点目は、IT・ICT人材はシステム会社に集中しており、事業会社内には非常に少ないことです。日本企業では、IT化が本業務として位置付けされておらず、IT導入の際にはシステム会社へ外部委託しなければなりません。IT・ICT人材は組織の各部署にはおらず、顧客のニーズをくみ取ったサービス開発が迅速に行えないのです。

2点目は、日本企業ではルーティーン業務を非正規雇用労働者が代替し、人件費のコストを抑えてきたことです。米国やフィンランド、デンマークではルーティーン業務はIT技術を積極的に活用してきた一方で、日本ではIT活用より「人」の力を重宝してきたため、他国に比べて、IT導入の体制が整っていません。

これらの2点により、日本企業では自社内のIT・ICT人材の量・質の両面で増強する必要があることが分かります。

DXとは~「IT」でデータを活用し、「イノベーション」を起こすこと

(1)そもそもDXとは

経済産業省では、ガイドラインの中で、以下のようにDXを定義しております。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

出所:経済産業省『「DX 推進指標」とそのガイダンス』 (令和元年 7月)

https://www.meti.go.jp/press/2019/07/20190731003/20190731003-1.pdf(最終アクセス:2020年8月14日)


ここで重要なのは、従来のデジタル技術の活用に加え、「データ」に着目することです。データに着目するとは、ビジネスのプロセスで現れる様々な情報をデータ化し、蓄積することです。そして、蓄積されたデータを加工・分析をするなどし、幅広く組織内外でデータを共有・活用することで、抜本的な業務の効率化やビジネスプロセスの変革に繋げることができます。

(2)まず行なうべき3つのポイント

DXを組織内で強力に推進するために、まず行うべき以下3つのポイントがあります。

経営戦略上、DX活用を具体的に明示すること

想定されるディスラプション(「非連続的(破壊的)イノベーション」)を念頭に、データとデジタル技術の活用によって、どの事業分野でどのような新たな価値(新ビジネス創出、即時性、コスト削減など)を生み出すことを目指すのか。そのために、どのようなビジネスモデルを構築すべきかについての経営戦略やビジョンの提示を行います。

経営トップのコミットメント

DX推進には事業、仕事のやり方、組織、教育、企業文化の変革が不可欠です。よって、経営者・トップが自らDX推進にコミットし、主導する必要があります。

DX推進のための体制整備

DXを推進するには、イノベーションを起こすために挑戦を積極的に評価する組織風土の醸成、データやデジタル技術の活用の取組を推進・サポートする部門の設置、DXの取組をリードする人材、その実行を担っていく人材の育成・確保が必要です。

DXの事例~インソースが取り組む「データの活用」

前述のように、DXを具体的に進めるためには、「データの蓄積・活用」が必要になります。そこで、データの蓄積・活用ついて、株式会社インソースの事例をご紹介いたします。

(1)「データ」の標準化

インソースでは創業当初から、「データ」に着目してきました。研修業にはテキストや資料作成が重要であり、似たような内容の資料を多数のメンバーが作るため、生産性が低いことが問題となっていました。加えて、似たような資料を探すのにも時間がかかる、という二重苦に陥っていました。このような状況に対して、まず行ったことが「ファイル名、保存場所の標準化」です。

例:ファイル名のルール「200218【テキスト】CEOCFOゼミ(舟橋).pptx」

上記のように、「作成日」「内容の種類」「テーマ」「作成者」を必ず同じ順番で、記載するようにルールを統一しました。ファイル名やフォルダ名、保存場所を統一するだけで、誰もが瞬時に、欲しい資料にたどり着けるようになりました。こうして小さな「知の蓄積」ができ、「作業時間」を大幅に削減することができました。

次に、すべての資料作成方法の標準化(フォント、書式、書き方 など)に着手しました。
その結果、加工の時間も削減でき、テキスト作成プロセスの大きな改善を実現しました(ただし、その徹底には3年という期間がかかりました)。

現在、年間55万名のお客さまに2万件以上と膨大な回数の研修を実施し、営業利益率25%(2019年9月期)を維持することができています。これは過去のデータをすぐに活用できるよう、テキスト作成のオペレーションを標準化させたことによります。創業以来行っているこれらの小さな「データの蓄積」の積み重ねがなければ、事業の継続・拡大は実現できておりません。

(2)データの共有

弊社のデータ活用方法についても、事例をご紹介いたします。従来、研修業界ではお客さまへご提案した研修プログラムの詳細や実施した研修のアンケートは一切公表しない風潮がありました。

後発企業であり、知名度や実績がなかった弊社は、自社HPになるべくプログラム内容(カリキュラム)やアンケート結果を記載し、お客さまに共有することを徹底したところ、WEBからのお問い合わせ数が約2倍へと伸びました。

データ活用例

武器になる情報は捨てずに、積極的に開示することで、売上拡大に繋がることが分かりました。また「新鮮な」情報が何より重要であり、日々情報を刷新し、社内外に展開することで、お客さまに商品・サービスを能動的に購入いただく仕組みを構築いたしました。

(3)AI活用による売上拡大

AI(機械学習)を活用した事例もご紹介いたします。弊社では、公開講座(1名から参加できるオープンセミナー)を全国各地で、年間約1万回実施しております。2,000種類以上のプログラムからテーマを選定し、適切な日時・場所を決める「日程設定」業務は、売上を大きく左右する重要な業務です。本業務は、担当者が難解な編成作業に時間をかけて行っておりましたが、現在はAIに過去のデータを分析させ、最適な研修テーマ・日時・場所の組み合わせを算出しております。

結果、AIの導入により売上総利益率が7.6%もアップいたしました。

AIの導入により売上総利益率が7.6%もアップ

このAI活用は、当時公開講座部(非IT部門)に所属していた入社4年目で、システム開発経験のない「文系」社員が1から学び、3か月で実現いたしました。

ここで重要な点は、その業務の工程をよく知る現場の社員が開発したことです。自ら関わる業務の変革に真剣に取り組み、短期間で成果に導いてくれました。

この事例をきっかけに、現在社内ではAIやRPAを活用したい業務を積極的に募るようになり、経験がなくても社内教育で知識やスキルを身につけてもらい、IT人材を増やしております。

(4)個人と組織がつくり出す「知識の集約」を強みに

上記でご紹介したとおり、弊社はデータという減らない財を最大限に活用し、ノウハウの属人化やトラブル防止、業務プロセスの改善などを実現して参りました。各事業を支えているのは、徹底したシステム開発やIT活用です。

「情報・データの蓄積・活用」はDX推進のための第一歩です。社内には埋もれている貴重な情報・データが無限にあり、これらを積極的に活用していくことで、DXへと繋げることができます。

DX人材育成の4つのポイント~固定観念からの脱却、スキルの分解、上流工程の内部化、簡易ツールの利用

前章では「情報・データの蓄積・活用」がDX化をはじめる鍵とお伝えしましたが、本章ではDX化を推進する人材づくりのポイントをお伝えいたします。

(1)DX人材は教育で、容易に増やせる

下図の通り、「AIの導入を先導する組織・人材の不足」を課題と考えている企業が多いですが、背景としては「ITやAIは<専門職>が担うものとの誤解があること」や「IT人材は育成できると知らない企業が多い」ということが挙げられます。

AIの導入を先導する組織・人材の不足

出所:総務省「平成30年版 情報通信白書」よりインソースにて一部編集

http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/pdf/n3200000.pdf(最終アクセス:2020年8月14日)

社内には、「小さな点にこだわりがある」「集中力が高い」など、ITエンジニア向きの特性をもつ人材が意外と多いです。そして、プログラミングはじめ、IT開発で必要な知識やスキルは数多いですが、初級教育であれば、1~2か月で習得することができます。

弊社では、2019年春に8名の一般社員をITエンジニアとして、再教育いたしました。上流SEとしてだけではなく、プログラミングスキルまでを養成し、現在はシステム開発の部署で活躍している者もおります。それぞれが各部署の業務経験者であるので、現場の声を踏まえ、的確に、スピード感をもったシステム設計・開発を実現しております。

(2)上流工程を内部化すれば、企業のDX導入は大きく前進する

日本においてシステム開発は、外部のシステム会社に依頼することがスタンダードでした。しかし、業務を熟知する自組織でシステム開発の上流部分(下図①~④)を内製化すると、安価で迅速に、高品質(現場にぴったり)のシステムができ、生産性向上に大きく寄与します。

システム活用・開発の手順

(3)ITスキルを分解すれば、担い手は増やせる

上記の工程①~⑤を進めるのに必要なのがITスキルですが、ITスキルは次の5つのスキルに細分化することができます。特にITの専門知識が必要なのは「IT独特のモノづくり力」だけで、それ以外のスキルは高度な知識が不要なため、誰でも身につけることができます。

5つのITスキル

(4)IT開発は簡単かつ廉価になってきている

デザインツール(Figma)、プログラミング言語(Python、Angular)、AIツール(Microsoft Azure Machine Learning)、RPA(WinActor®)などの近年生まれたツールは、従来のプログラミング言語やシステムに比べて、簡易的に使うことができ、操作もGUI(グラフィックユーザーインターフェース)形式で分かりやすいものが増えております。こういったツールを積極的に活用することも重要です。

「WinActor®」はNTTアドバンステクノロジ株式会社の登録商標です

DX人材育成の4つのステップ

弊社では、以下のように、対象者別にDX人材要件を定義し、各スキルを身につけることを推奨しております。

DX人材要件

DXを実現するため、このDX人材育成研修体系をもとに以下4つのステップを進めていきます。

  1. ステップ1.経営陣がDXを理解し、経営戦略に組み込む
  2. ステップ2.全社でDXを理解する
  3. ステップ3.DXの推進者をつくる
  4. ステップ4.外部ネットワークをつくる

(1)経営陣がDXを理解し、経営戦略に組み込む

経営陣を中心にシステムの仕組み・原理を大まかに学び、DX(IT・データ・AIなど)を理解します。そして、DX推進を経営戦略に入れ、DX重点分野を決定します。また、DXを推進する体制を整備し、CIO(最高情報責任者)・CDO(最高デジタル責任者)やDXポリシー、DX推進委員会などを設置します。

(2)全社でDXを理解する

経営者から現場社員まで、DXを全社員が共通認識を持つことで、DXを早く進めることができるようになります。そもそもDXは何なのか、ITツール・AI・RPAなどの効用、限界、費用、利用の前提を知ってもらい、業務改善にデジタル技術を活用できるようになることを目指します。特に自部署の業務の全体像を把握している管理職には、実際に改善策を具体的に考えることを推奨いたします。

(3)DXの推進者をつくる

次に、企画部門や若手社員には、将来DXを牽引する人材として、育成していきます。システム活用・開発を担えるよう、ITスキルを身につけてもらいます。

(4)外部ネットワークをつくる

DX推進を加速、より高度に行なうためには外部のネットワークをつくり、支援体制を構築することが求められます。組織内の人材ではできないDX開発が外部組織の協力を得ることで可能になります。

弊社では、資本提携先である株式会社ピープルドットや株式会社Queueをご紹介することができます。

株式会社ピープルドット

株式会社ピープルドット(旧データミックス)は2017年2月に設立以来、「データサイエンティスト育成コース」を軸としたスクールを展開し、統計学や機械学習、ディープラーニングなどの手法を駆使したデータ分析を通じて、深い洞察やビジネスにおける示唆を提供することができる人材の育成を行ってきました。これまでスキルアップ、キャリア構築を含め約300名以上にデータサイエンス関連の教育を提供してきた実績を有しています。また、データサイエンスについての企業研修やデータ分析コンサルティング、データ分析人材の紹介サービスなどを通して企業の競争力強化に貢献しています。

株式会社Queue

Queueは、人工知能技術の研究開発・人材育成・社会実装の3つの活動を主軸とした東京大学松尾研究室に2016年まで共同研究員として務めていた、柴田直人氏が2016年に設立したAIベンチャーです。機械学習・画像認識の領域で高い技術力を有しており、クライアントの課題解決に向け、その高度な技術を用いたソフトウェア等を提供しています。

いかがでしょうか。激動の時代を乗り越えるためには、組織のDX化は避けては通れない道です。そして、DXを推進する鍵は、データという財を活用すること、また組織の今いる人材で進めていくことです。
弊社では、各組織のご状況やご要望に合わせて、コンサルティングやDXプログラムの提供、ツールの導入支援などを行っております。ぜひ、貴組織のお力に立てましたら幸いです。

DXの実現に挑む人材育成プラン

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経営者・人事の方々を対象に、最新の社会課題やインソースグループのサービスに関するセミナーを多数開催しております。ぜひ、お越しください。

 

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各組織のご状況やご要望に合わせて、最適なソリューションをご用意いたします。

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