企業活動が順風満帆であっても、成長段階では必ず「踊り場」が存在するものです。今の成長に目を奪われて「部下の指導・育成」を軽んじてしまう企業は、この「成長の踊り場」を突破することはできません。成長軌道にある時にこそ、計画的な「部下の指導・育成」プロセスが必要なのです。この指導・育成実践が、企業組織の業績向上に必ず直結し、さらなる成長の糧に寄与します。企業の業績向上と部下への指導・育成は表裏一体といっても過言ではありません。
極端にいえば管理職は、部下の指導・育成に自分が業務に費やすエネルギーの大半を注ぐ気概を持って臨む必要があります。なぜなら、日常的な部下の指導・育成とは正に「自分の代行者を創り出していく行動」であり、適正な世代交代と組織の新陳代謝を生むことが、事業の永続性にもつながるからです。
企業の成長期にはさほど問題視されなかったことも、「成長の踊り場」に至った段階で、一気に矛盾として噴出する場合があります。こうした時に日常的に指導・育成を怠っていた企業は、起こっている状態や事態を正しく分析し、新たな方針の策定や方向性を自ら創り出していく「核」が不在ないし不足することになり、全社的に浮足立った状態に陥る危険性もあります。 部下の指導・育成では、現在の職場環境を冷静に見渡し、部下一人ひとりの課題を設定していく配慮が重要です。
部下指導・育成の基本は、上司・先輩、管理職によるOJTですが、OJTとは名ばかりの単なる「同行」や自分自身の業務アシスタントをOJTと勘違いしているケースが多いのも現実的なところではないでしょうか。確かにこれらは広義の意味でOJTの範疇なのですが、残念ながらこれらはOJTの目的とすることの一部でしかありません。本来のOJTとは場当たり的なものではなく、部下に対してどのような能力を、いつまでに、どのレベルまで向上させるかを明確にした上で計画的で継続的な育成努力の過程です。
そして、このプロセスを通して部下の成長度合いを評価しながら次の課題を提示していくものである必要があります。ある意味でPDCAのマネジメントサイクルと同じです。OJTは、部下に対していかに「自己による目標管理」の習慣をつけさせていくか、という過程でもあるのです。
実際には、OJT担当者が職場での仕事を通じて、どのような知識や技術・態度を身につけさせるのかを考えることになります。マネジメントサイクルである以上は、当然のことながらOJTの実施にあたり、事前にOJT担当者と対象者との間で、しっかりと今後のスキル形成やキャリアプランについて話し合い、何を目標とするかの「合意形成」をしておく必要があります。事前に何を習得すべきか、という一定期間の「GOAL」を明確にすることもなく、ただ「仕事に慣れてもらえばいい」と安易に考えてしまうと、OJTは何時しか「時間があるときに...」という具合に場当たり的になってしまいます。また、何を重点的に指導するのか、相互に話し合いを通じて目標を設定しておかなければ、日々の日常業務行動を通し状況に応じたフォローや指導、支援を行うことができなくなります。同時に習得すべき課題の優先順位を明確にしておくことも必要となります。
OJTを通して業務上のスキルを身につけることはもちろん大切ですが、仕事に対する姿勢や態度を身についてもらわなければ、いつまでたっても一人前の仕事を任せることができないばかりか、将来的に伸び悩む原因ともなってしまいます。
OJTは業務知識や業務スキルだけを教えるものではなく、仕事の基本となる個々人の態度や姿勢を収斂する「場」であると位置づける必要性もあります。若手や新人は業務内容を覚えたとしても、それだけで一人前の企業人になっているわけではありません。
OJTを通して所作、態度、姿勢を身につけさせることは、会社の業績にも直結するものです。「仕事さえできれば...」という態度や基本的な仕事への姿勢が曖昧な者は、これからの社会でビジネスパーソンとして通用しません。OJTの実施にあたり「対人関係」の基本や仕事への積極的な姿勢を身につけさせることも、OJTの大事な役目であることを忘れてはなりません。
◆本間 次郎◆
株式会社ノイエ・ファーネ 代表取締役
1954年生まれ。大学在学中より出版・編集業務に携わり、主に労働経済関係をフィールドとし取材・執筆、編集業務に携わる。1992年から中小企業経営 者向け経営専門誌の編集および、教育・研修ツール(冊子媒体、ビデオテープ)等の作成、人材の教育・育成に関する各種オープンセミナー・インハウスセミ ナー企画の立案・実施、人材開発事業・人事コンサルティング業務に従事。
2010年11月に『人と企業組織が互いに「広い視野」「柔軟な思考」「健全な判断」に基づいて行動し、最適な働きの場を創り出していく協働に貢献する』を使命とする株式会社ノイエ・ファーネを設立。