「成長企業の人材育成」

安藤弘一講師「管理職に求められる能力について」
 

成長企業における労務管理

 -自己管理を徹底させ残業時間の削減をはかる-


■前提は長時間労働をさせないスタンス

成長する企業の従業員は得てして寝食を忘れて仕事に邁進しているケースが多いものです。自らの働きが「会社の成長とシンクロしている」と実感している従業員であれば尚更だと思います。心理的にはある種の「ノリ」で長時間労働を厭わないケースもあるかもしれません。しかし、労務管理の視点からするならば、こうした従業員の働きには裏面があると同時に、すべての従業員が一律にこうした志向をしているとは、限らないものであると認識しておく必要があります。

従業員にしてみれば、ひとたび会社の方向と自分の働きに一体感を見出せなくなった場合には、容易に「会社」対「従業員」という二項対立の構図を持ち出す危険性も十分に秘めているものです。また、成長企業に入社してくる従業員の中には、その企業の持っているビジョンや理念、価値観を共有することなく、単に「成長している」という理由だけで会社選択して入社してくる者も少なからず存在していることも確かです。

一般的に在職中の従業員は仮に「サービス残業だ」と思っていても、自分自身の雇用を脅かすような争いは避けるのが常です。しかし、何かの理由で会社を辞める判断をした途端に一転して、二年前にさかのぼって未払い残業代の支払い請求をしてくるケースもよくあります。おまけに残業代の未払い(サービス残業)を理由にしたネット上で会社批判を展開し始めるケースも後を絶ちません。

そこで労務管理上では、常に従業員の安全配慮面と業務効率の観点から従業員の就労時間の管理を明確に実施する必要性があります。特に現場の管理者は部下の「寝食を忘れた仕事ぶり」を評価してはならず、間違ってもサービス残業を奨励し、肯定するスタンスを取ってはならないのです。あくまでも従業員に対して法定労働時間を遵守する時間管理を自己管理意識の強化として実行させていく指導を怠ってはなりません。

■残業時間が減らない理由

例え会社として「ノー残業デー」を決めたとしても、それが守られていないケースが多くの職場で散見されています。その理由のほとんどは「仕事量が多く、とても早く帰れない」、あるいは「上長が残っているので、帰ることができる雰囲気ではない」というのが殆どです。こうした理由付けの多くは、現場の管理者が自らの職場での総業務量、個々の従事者の業務量とその処理能力の把握が出来ていないために発生するものです。

そして、この種の職場では得てして「残業申請」なき「残業」が日常的に行われているケースが多くなっています。つまり、本来は上長に対して残業をする者が「事前申請」を行い、上長の許可の下で残業を行い、その残業内容に対して上長が「事後確認」を行うという一連のマネジメント行動が無視されているわけです。こうした職場では「なぜ残業をしなければならないのか」「残業した結果のアウトプットは何か」という時間管理や業務管理が一切行われていないのと同じです。これではいくら「ノー残業デー」などを設定しても残業は減りません。

往々にして残業削減ができない職場では「業務フロー」が明確にされず、誰が何をやっているかが不明確になっているものです。つまり、極端な「分業化」が一人ひとりの業務のブラックボックス化を招いてしまっているということです。そのため、自己管理も当然に曖昧になってしまいます。

OJTをはじめとする部下育成の不備によっても無為な残業も発生します。適正な業務指導を行わず部下に業務を振り分けて、出来の悪さを指摘してやり直しを繰り返させるなどを業務指導と勘違いしている管理職をいまだに見かけますが、これこそ時間の浪費をしているといえると思います。最初から個々の成長度合いを見越して適時・適量の業務配分を行わなければ、時間ロスが発生するばかりか部下の成長に資することにもならないのは当然です。

■残業時間削減の基本は適正マネジメントの実施

残業削減のポイントはあくまでも業務の効率化に向けた日常的改善運動の一環であるとの位置づけが不可欠となります。そのために「人員の適正配置」と「従業員の行動管理」、「ルール遵守」という労務管理の基本を現場管理者に周知徹底させて行かなければなりません。

残業時間の削減が上手く出来ていない職場の特長は、個々の従業員の業務内容が曖昧で、「誰が」「何を」「何時までに」という基本的な業務行動が弛緩しているものです。また、部門・部署・個人のそれぞれの単位での「目標」も明示化されていません。残業時間削減の基本はあくまでも時間に対する一人ひとりの管理意識強化をはかり、以下の3点のマネジメント行動を展開していくことにつきるのではないかと思います。

 1.どの部下に何をやらせるか(仕事の割り振り)
 2.具体的な指示を出す(指示の明確化)
 3.進捗の管理の徹底(報告・連絡・相談の周知と遵守)


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◆本間  次郎◆

株式会社ノイエ・ファーネ  代表取締役

1954年生まれ。大学在学中より出版・編集業務に携わり、主に労働経済関係をフィールドとし取材・執筆、編集業務に携わる。1992年から中小企業経営 者向け経営専門誌の編集および、教育・研修ツール(冊子媒体、ビデオテープ)等の作成、人材の教育・育成に関する各種オープンセミナー・インハウスセミ ナー企画の立案・実施、人材開発事業・人事コンサルティング業務に従事。
2010年11月に『人と企業組織が互いに「広い視野」「柔軟な思考」「健全な判断」に基づいて行動し、最適な働きの場を創り出していく協働に貢献する』を使命とする株式会社ノイエ・ファーネを設立。

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