成長企業における若手・中堅社員の育成で留意しなければならないのは、経営陣が「自分がやれたこと、やってきたことは他人もできるはずだ...」との思い込みをしないことです。若手・中堅社員に対し、この種の「要求」をすることは所詮不可能です。今日の若手・中堅社員を構成する世代に「自分にできたことは他人にもできるはず...」という姿勢で臨むのは、彼ら彼女らに「無いものねだり」をしているようなものです。「無いものねだり」を繰り返してしまうと、結果的にパワハラを誘因させてしまうことにもなってしまいます。そこで、重要となるのは、会社組織という「機能集団」をいかに育成し、この集団を効率よく機能させていくかという問題に注意を注ぐことです。
今日の若手・中堅社員層が育ってきた環境は、日本社会全体が成長軌道であった時期とは異なる価値観を持っています。その価値観が良いか悪いかではありません。まずは、その価値観の違いを理解する必要があります。もちろん、「理解」とは「迎合」することではありません。このことを前提に、会社組織において、若手・中堅社員の一人ひとりが果たすべき役割機能として「自分には何が必要であるか、何が不足しているのか」という課題を明確化してあげる必要があります。
若手・中堅社員の育成は、一日も早く「自分の頭を使って動けるようになってもらう」ということに尽きると思います。中堅社員には特に、この要素が必要です。いつまでも「どうしましょうか...」と繰り返している中堅社員は、会社組織の戦力にならないばかりか、新人に悪い影響を与えてしまいます。そこで、中堅社員には「何を求めるのか」「何を期待するか」という"会社として期待する課題"を明確に示していくことが重要になります。
そして、"期待する課題"の基準になるのが「会社理念」であり「会社ビジョン」であることはいうまでもありません。しかし、形式的に「会社理念」や「会社ビジョン」を共有することを強要する必要はないと思います。あくまで、若手・中堅社員一人ひとりの「働き」や自己の将来にとって、会社が掲げる「会社理念」や「会社ビジョン」がどのように作用していくのか、自分にどのような関わりを持ってくるのか、という問題意識を持たせていくことが重要であると思います。
そこで重要となるのは、経営陣や幹部が、事あるごとに「発信」を繰り返していくことであると思います。会社に限らず、組織構成においては、職位が上位になればなるほどその役割の抽象度は増し、組織が掲げる目標が自らの目標にシンクロし始めるものです。逆に、下位になればなるほど個々人の役割は担当業務に絞り込まれ、会社の掲げる「目標」から遠ざかってしまいます。そのため、職位の下位の者は、組織全体が掲げる目標から乖離し始め、「いま自分のやっている業務」だけしか視野に入らなくなるものです。内的モチベーションにとって重要なのは、"ある目的に向かって努力した結果として何が得られたのか"ということですが、「会社全体の目標から遠い存在」としての若手・中堅社員は、必然的に自分のやっている業務を俯瞰して捉えがたく、得てしてモチベーションの低下を招いてしまいます。
成長企業では人的資源の層も薄く、勢い組織全体の底上げを期待しがちです。ところが、若手・中堅社員の育成に当たって、全員一律的の育成を思考するのは、逆に組織を弱体化させてしまう危険性があるということを捉えておく必要があると思います。なぜならば、一律的な育成は、個々の成長度合いをカウントしない「悪しき平等」に陥る危険性もあるからです。あくまで「育成」とは、一人ひとりに対して、"公平な機会"ないし、"機会の平等"を提供したうえで、一人ひとりの自覚の度合いや自助努力を前提にした、個別課題として提示していくことが重要です。そのうえで、一人ひとりの見極めを組織的に展開していく必要があります。
この観点は、育成を「投資」として考えるか否かということにもつながります。育成は、短期的な利益を期待して"チャンス"をとらえた「投機」であってはなりません。会社組織の将来の資産を増やすために長期的な視点で行う「投資」なのです。
つまり育成とは、採用した人材がたまたま定着した結果、会社の利益に貢献している、という偶然性への依拠を排除していくことである、とも言えるのではないでしょうか。
◆本間 次郎◆
株式会社ノイエ・ファーネ 代表取締役
1954年生まれ。大学在学中より出版・編集業務に携わり、主に労働経済関係をフィールドとし取材・執筆、編集業務に携わる。1992年から中小企業経営 者向け経営専門誌の編集および、教育・研修ツール(冊子媒体、ビデオテープ)等の作成、人材の教育・育成に関する各種オープンセミナー・インハウスセミ ナー企画の立案・実施、人材開発事業・人事コンサルティング業務に従事。
2010年11月に『人と企業組織が互いに「広い視野」「柔軟な思考」「健全な判断」に基づいて行動し、最適な働きの場を創り出していく協働に貢献する』を使命とする株式会社ノイエ・ファーネを設立。