企業における中堅社員の役割は、一言でいうと「上下のパイプ役に徹する」という一点に尽きるのではないかと思います。つまり、管理職である上司の片腕ないし、ブレーンとしての意識をしっかりと持ち、組織を構成するメンバーの中心に位置しながら積極的に上席者を補佐して、新入社員を含む若手社員と管理職との触媒機能を果たしていくことです。
とりわけ、成長企業においては、組織の拡大に伴い常に新たな人材を組織に迎え入れるため、管理職を補佐する中堅社員の存在が、組織の帰趨を決定することになります。
ただし、これは「言うは易し、行うは難し」です。何故ならば、中堅社員には、新人の気持ちや考えを汲み取り、それを管理職に具申しつつ、一方では管理職の指示や考えを新人にわかるように過不足なく伝えるという立場が求められます。もし、中堅社員が管理職と距離を置き、比較的年齢の近い後輩たちと同じ意識のままの発想しかできないでいるならば、それは単に「仲良しクラブのなかの年長者」の一人でしかすぎません。
管理職にとって中堅社員は、本来的には組織目標を達成するための戦力としての機能を期待します。それは管理職の指示命令を単に忠実に実行するだけではなく、管理職の意図する事をくみ取り、積極的に補佐しながら若手社員をリードする役割を担うということです。
もとより、管理職は中堅社員よりも多くの職責を背負っています。昨今では、管理職は現場の第一線をも担っています。つまり、管理職の職務内容は管理面に限定されることなく、プレイングマネージャーとしての機能まで求められることが一般的となっています。それだけに、すべての部門や部署全体への目配りには限界があります。中堅社員はこうした管理職の行き届かない面の穴埋めをし、ときには管理職の代行機能としての役割も担っていかなければなりません。管理職が若手社員に直接注意しにくい事柄なども代弁し、厳しい指摘もしなければならない立場だということです。
「役職者として権限もない自分が、何故管理職の代行をしなければならないのか・・・」と疑問をもつ中堅社員も存在するものです。確かに、管理職の補佐機能たる役割を果たすからといって、それに見合った役職手当などを提供できる企業は極めて稀であると思います。
敏感な中堅社員であるならば、管理者を含む周囲からの「期待」を適確に感じ取ることができます。ただし、中堅社員の全てが敏感であるとは限りません。
そこで、企業は中堅社員に対して「期待」をしっかりと明示化して伝える必要があります。「期待する内容」は企業ごとに異なるのは当然ですが、可能な限り具体的に示しておくことも必要です。この「期待する内容」は、つきつめるならば、一人ひとりの職務要件にも繋がってきます。
企業が中堅社員に期待する内容を列挙するなら、おおよそ以下に収斂されると思います。これらを敏感に受け止め、有形無形に応えていくことが中堅社員の役割であると、企業側が、管理職を通して、積極的に教え諭していくことが喫緊の課題となっていることも現実的なところではないでしょうか。
・職務内容について熟知し、積極的な行動力、実行力を身につけてほしい
・チームワークの確立に努め、後輩のお手本として、報告・連絡・相談を適切に行ってほしい
・チャレンジ精神を持ち、仕事は責任を持ってやりとげる行動規範を身につけてほしい
・大局的な視野に立ち、常に問題意識を持って仕事の改善、改革に努めてほしい
・仕事をこなすだけでなく、戦略的発想で積極的に仕事を創り出してほしい
これらの中堅社員への期待役割は、会社組織が現場を動かしていく上で欠かせない基本です。管理職は中堅社員に対して、この基本的な役割を日常的に明示する情報発信を怠ったならば、何時までたっても中堅社員は、「仲良しクラブのなかの年長者の一人」というフィールドに甘んじ、一歩踏み出さない存在で終わってしまいます。中堅社員が育たず、適正な階層化ができない企業組織は、結果的に管理職も育たない「烏合の衆」となってしまうものです。
◆本間 次郎◆
株式会社ノイエ・ファーネ 代表取締役
1954年生まれ。大学在学中より出版・編集業務に携わり、主に労働経済関係をフィールドとし取材・執筆、編集業務に携わる。1992年から中小企業経営 者向け経営専門誌の編集および、教育・研修ツール(冊子媒体、ビデオテープ)等の作成、人材の教育・育成に関する各種オープンセミナー・インハウスセミ ナー企画の立案・実施、人材開発事業・人事コンサルティング業務に従事。
2010年11月に『人と企業組織が互いに「広い視野」「柔軟な思考」「健全な判断」に基づいて行動し、最適な働きの場を創り出していく協働に貢献する』を使命とする株式会社ノイエ・ファーネを設立。