社内制度と一口にいっても「法定福利」として義務づけられた制度もあれば、昇進・昇格制度、評価・人事制度など一般的な制度もあります。それ以外にも企業ごとに報奨制度や福利厚生面から実にユニークな社内制度を展開する場合もあります。特に企業ごとに整備されている諸制度は、その整備の目的が企業内で働く人びとのモチベーション維持と向上におかれているはずです。
ところが、制度とは得てして「形骸化」する危険性を常に持っているものです。そして一旦制度化されたものは、その運用が事務的になる危険性もつきものです。つまり、制定当初の目的からいつしかズレが生じてしまい制度それ自体が独自に動き出し、結果的に硬直してしまうということです。こうした状態に陥った制度は、逆に社員のモチベーションを疎外しはじめてしまう危険性もあります。
制度はあくまでも「生き物」であるという位置づけが重要です。企業の成長段階で制度の役割も異なってくるのは当然のことです。とりわけ成長企業では制度に限ることではありませんが「万古不易」という発想を排除しなければならないと思います。ある一定の成長段階に必要な制度であったものが、次の段階では成長の足枷に転化してしまうことさえあります。特に業績評価制度などはその典型ではないでしょうか。古くから存在している制度に縛られていると新たなチャレンジ精神が生まれる素地をなくしてしまうものです。
そこで「業績評価制度」に的を絞って、社内制度整備について考えてみたいと思います。
創業初期の段階では何はともあれ公平性・公正性が原則とされているはずです。しかし、「評価制度」は成長とともに単純な公平・公正だけでは「悪平等」を生みだす可能性があります。そこで、企業によって名称は異なりますが、成長とともに概ね「目標による管理」が業績評価の基本となってくるはずです。ところが、今度は「目標による管理」が一人歩きしはじめると「個々人の目標設定を通した活動を如何にして組織全体の成果に結び付けるのか」という工夫を施していかなければ、健全な組織コミュニケーションが展開されなくなってくるものです。
そこで、業績評価制度においては先ずはその目的とメリットについて社内での周知徹底が重要になります。そもそも業績評価とは働く社員の仕事の質と価値、および会社組織における個々の社員に課せられている仕事への影響度合い(インパクトやパフォーマンス)を測ることに他なりません。従って業績評価制度は必ず報酬に関連させていかなければ意味がなくなってしまいます。これは、単純な成果=報酬という意味ではなく、成果と報酬の関係性をしっかりとバランスよく組み立てる必要があるということです。そのために業績を評価する目的とメリットをしっかりと明確にしなければなりません。目的とメリットは簡単にいえば次のようなことであると思います。
<「業績評価制度」の5つの目的>
1.従業員のやる気の向上
2.従業員の職務能力の向上
3.的確な給与査定の資料として
4.昇給、降格、異動、懲戒、解雇などの人事判断の資料として
5.法的問題が発生した際の重要な証拠資料として
<業績評価で得られる5つのメリット>
1.会社組織の目的とそれに基づく結果の管理
2.社員の、会社組織の方向性において何が最も重要であるかの理解
3.組織コミュニケーションの共通言語化
4.社員間への「公正性・公平性」の浸透
5.業績というキーワードによる社員の意思疎通
「業績評価」については、せっかく整備しても実際に機能していなかければ意味がありません。業績評価が機能しなくなる主な要因は次のようなものです。
1.会社(上司)が評価対象者に対して、定期的かつ適宜適切なフィードバックを怠る
2.評価する側が情意に流される
3.評価項目が曖昧で、職務の内容が不明確なままで評価を展開する
業績評価制度に限ったことではありませんが、社内の諸制度はあくまでも組織コミュニケーションに資するものでなければならず、社員のモチベーション向上に寄与してはじめて機能するものです。他社の事例や流行を自社に単純に移植しても機能するものではありません。あくまでも自社の成長段階にそって会社とそこに働く社員の「価値観の共有」がなければ意味がありません。もちろん価値観の共有とは決して会社への従属を意味しているものではありません。
◆本間 次郎◆
株式会社ノイエ・ファーネ 代表取締役
1954年生まれ。大学在学中より出版・編集業務に携わり、主に労働経済関係をフィールドとし取材・執筆、編集業務に携わる。1992年から中小企業経営 者向け経営専門誌の編集および、教育・研修ツール(冊子媒体、ビデオテープ)等の作成、人材の教育・育成に関する各種オープンセミナー・インハウスセミ ナー企画の立案・実施、人材開発事業・人事コンサルティング業務に従事。
2010年11月に『人と企業組織が互いに「広い視野」「柔軟な思考」「健全な判断」に基づいて行動し、最適な働きの場を創り出していく協働に貢献する』を使命とする株式会社ノイエ・ファーネを設立。