「成長企業の人材育成」

安藤弘一講師「管理職に求められる能力について」
 

成長企業における人材採用のポイント

■“優秀人材”願望を捨て“育成コスト”を覚悟する

企業には成長の軌跡があります。勢いがあり事業規模が拡大している企業であっても最初から順風満帆に推移することは稀ではないでしょうか。

企業は新しいビジネスモデルや商材を開発した創業者が、挙手空拳で起業しこの創業の思いや志に共感した人たちが徐々に集まり始めます。そして企業の成長にともない人材確保の必要性に迫られ中途採用や新卒採用を展開してという流れであると思います。

ところが、成長企業の人材採用にあたって意外に忘れがちなのは、「自社の成長段階にそって、求める人材要件も変化する」という点です。つまり、採用する側の意識として経営者を含めて起業時に集まった「打てば響く」ような“優秀人材”としての資質や能力を採用基準として求めてしまう傾向が強いということです。これはハッキリ言って「無いものねだり」です。

この意識が高じてしまうと採用した人材は、優秀な学歴やキャリアを有してさえいれば、「即戦力として通用するはずだ」という“思い込み”にも繋がります。また、採用した人材に対する期待感が僅かの間に落胆に転化してしまうことにもなります。現実には学力やスキルは高いが当然身に付けているはずの「社会人基礎力」に劣る人材も溢れています。

同時に採用する人材に最初から経営者の思い(意識)との同一性を求めることはできません。そこで採用した人材を原石と捉えて「教え、育む」ことを前提にして、自社に貢献できるように成長させていくという“コスト”を覚悟することが必要になっていると思います。

■採用では「職務要件」(ジョブ・ディスクリプション)を明確化させる

成長企業の採用で注意しなければならないのは、採用する人材の職務能力と配属する部門・部署の職務内容のバランスです。とりわけ中途採用では採用した後に「他社では十分機能していた人材なのだが、自社ではさっぱり機能しない」という状況がよく発生します。

この原因は往々にして「一部オーバースペック」な専門人材の採用にあります。つまり、担当してもらう職務内容が必要とする能力・技能以上に高い能力を有した人材を採用してしまうことです。

実際に配属する現場が「定型業務を過不足なく、しっかりと行うこと」が要件であるにもかかわらず、それ以上の職務経験のある人材を採用して配属しても意味がありません。もちろん、配属する部門・部署の職務内容を遂行するだけの職務能力を持たない人材を単に「人柄がよさそうだ」などという理由で採用するのは論外です。

一般的に成長企業の基幹を構成しているのは、基本的に独立(independent)心と自律(self-control)心に長けた幹部人材であるはずです。こうした人材がいたからこそ成長してきた訳ですが、こうした幹部人材であるが故に採用にあたっては、抽象的な「優秀さ」を求めてしまう傾向があります。何故なら自分基準が明確であるからです。

採用にあたっては、「自社の現状において採用する部門・部署で必要とされる職務の要件はいかなるものか」という"仕事の定義"が極めて重要になってきます。

一般的にいわれている"優秀人材"が、必ずしも自社の現状や組織体制にとって必要十分な条件を備えているとは限らないものです。企業の成長・発展段階で必要となる人材の要件は変遷してくるものです。

成長企業の採用は常に自社の現状分析と連動させるという発想が必要です。現状で不必要なオーバースペックの人材を採用すれば、その人材はすぐに転職していきます。逆に職務能力が不足している人材を採用してしまえば、配属先の既存社員の足を引っ張るなどの結果になります。

■会社とベクトルが合わない人材は採用しない

生まれながらにして万事“有能”な者などは、極稀な例外を除いて存在していないでしょう。また、企業組織を構成している個々の人材も育ってきた時代背景も異なっているものです。成長企業に限らず、企業組織は異なる環境や状況の下で育ってきた世代間を横断した人材の集合体です。

個々人の仕事の適正や職務能力は、多少乱暴な表現になりますが、企業内での業務実践を通じて精査、検証していくしかないという割り切り方も必要になってくるのではないかと思います。

採用にあたって企業が譲ってはならない事柄もあると思います。それは、会社の方向性と自らの「働く価値観」とのベクトルが合わない人材は、仮にどんなに優秀だと思っても採用しないということです。

「価値観」で違和感が生じたならば、それは時間の経過とともに大きな溝に発展していくものです。

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◆本間  次郎◆

株式会社ノイエ・ファーネ  代表取締役

1954年生まれ。大学在学中より出版・編集業務に携わり、主に労働経済関係をフィールドとし取材・執筆、編集業務に携わる。1992年から中小企業経営 者向け経営専門誌の編集および、教育・研修ツール(冊子媒体、ビデオテープ)等の作成、人材の教育・育成に関する各種オープンセミナー・インハウスセミ ナー企画の立案・実施、人材開発事業・人事コンサルティング業務に従事。
2010年11月に『人と企業組織が互いに「広い視野」「柔軟な思考」「健全な判断」に基づいて行動し、最適な働きの場を創り出していく協働に貢献する』を使命とする株式会社ノイエ・ファーネを設立。

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