「成長企業の人材育成」

安藤弘一講師「管理職に求められる能力について」
 

成長企業における組織改革について

 -組織改革が進まない理由と人の果たす役割-


 

■部門利益と全体利益の軋轢

成長企業は、初期の段階では組織体制の不備によるさまざまな軋轢が発生する場合がありますが、この軋轢がある種の刺激や活性化としてプラスに作用するケースがあります。従って、初期の段階から組織体制を硬直して捉えてしまうと、体制が逆に成長の足枷になることがあります。

ところが、企業組織(企業に限りませんが)は、成長にともない自己増殖してしまうこともあります。

自己増殖とは組織体を構成している人びとそれぞれが属する部門での「部門利益」が、「全体利益」を凌駕して一人歩きしはじめるということです。この傾向は企業組織の初期段階ではあまり気にならないものです。何故ならば、所詮「部門利益」といっても、全体から見渡せる規模であるからです。しかし、組織の成長とともに部門構成も拡大していきますし、権限や役割も機能化してくるに従って、全体から見えなくなりはじめます。すると「部門利益」を優先する意識が頭をもたげてくるのです。

そして、いつしか全体の最適性よりも部門の最適性を追求しはじめたりします。たとえば会社として新プロジェクトチームを形成する場合があります。新プロジェクト形成に向けて各部門から人材を集めることになりますが、部門の責任者は往々にして自部門の第一線級を出し渋り、どちらかというと部門のなかで「もてあましている人材」を送り込むケースがあります。これなどは「部門利益」を優先する典型です。

■組織改革が進まない理由

こうした傾向が進むと、いつの間にか「部門利益」集団が形成されることになります。本来会社組織は、機能体として存在するものであり、組織自体に目的があり、その目的を実現させるために人材やその他の資源を集め、役割分担や指揮命令系統の整備を行っていくものです。ところが、「部門利益」集団が形成されることで、あたかも会社組織がそれぞれの部門を構成する一人ひとりのために存在するかの様相を呈しはじめ、構成員の満足感を高めることが重要なテーマとなった「共同体」組織のように動きはじめる危険性があります。

大組織が幾度も組織改革を試みても気づけば頓挫していることがあります。組織のだれしもが総論としては「改革」の必要性を理解しているが、個々の各論になると自部門の利益が優先するという構図の典型であると思います。

同時にそれぞれの部門を構成する人的要素も大きな桎梏(しっこく)になります。特に部門の立ち上げ時からの構成メンバーの人間的繋がりは全体の利益を凌駕するほど大きなパワーを発揮する傾向があります。いわゆる「同じ釜の飯を食った」関係という極めてウェットな関係です。もちろんこの関係を全否定する必要はありません。しかし、人的関係が強固であればある程、組織の統制は効きにくくなるものです。

■組織改革に必要なのは、シビアな人材配置による事前対処策

組織改革の大前提は、"組織はあくまでもその存在そのものに価値があるのではなく、組織による成果に価値があり、その「成果」を通じて社会に貢献するものである"という位置づけです。それは、ドラッカーも喝破していますが、組織とは「目的」ではなく、あくまでも「手段」であるからです。この前提を堅持しなければ、組織を構成する一人ひとりがいくら「合理的に判断」していると感じていても、それは部分適正に過ぎず全体として「不合理」を形成してしまうということになります。このような全体として「不合理」に見える組織体とは、組織内部では「不条理」がまかり通っていることになります。

そこで、必要になるのが本来の機能体組織であるはずの会社組織において、部門利益の意識を解消させ全体利益に還元させていくための人材配置です。ある成長会社では中途採用も含めて全社員に一度は営業部門から管理部門へ、あるいは管理部門から営業部門へとそれぞれ3年程度の異動を実施しています。一見すると業務に精通した者を他の部門に異動させるのは非常に非効率に思われますが、部門利益集団化が防がれているのは確かです。

また、ある企業では部門利益集団化しはじめている部門の人員を異動させず、新たに既存社員と同数とまではいわないが一定数の中途採用を実施して一気にその部門に投入し、当該部門の既存の社員と拮抗させ部門の空気を入れ替えるという対策を取るなどしています。

さらには、部門のトップをこれまで当該組織の人間と人的軋轢と関係のない全くの外部人材を招聘して入れ替えるなどの方策を取る会社もあります。

巷で語り継がれる組織改革の"有名成功事例"は小説化され感動的物語にもなりますが、大改革を実行する事前対処としては、クールに組織実態を眺めていた適正でシビアな人材配置が必要ではないでしょうか。

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◆本間  次郎◆

株式会社ノイエ・ファーネ  代表取締役

1954年生まれ。大学在学中より出版・編集業務に携わり、主に労働経済関係をフィールドとし取材・執筆、編集業務に携わる。1992年から中小企業経営 者向け経営専門誌の編集および、教育・研修ツール(冊子媒体、ビデオテープ)等の作成、人材の教育・育成に関する各種オープンセミナー・インハウスセミ ナー企画の立案・実施、人材開発事業・人事コンサルティング業務に従事。
2010年11月に『人と企業組織が互いに「広い視野」「柔軟な思考」「健全な判断」に基づいて行動し、最適な働きの場を創り出していく協働に貢献する』を使命とする株式会社ノイエ・ファーネを設立。

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