銀子
何歳からシニアで高齢者なのか、各界で見解が分かれるようです。しかし年齢規定はともかく、周囲を見ても60歳を超えると心身状態の個人差が大きいことは確かです。最近、リカレント教育の必要性がいわれる一方、まだまだ多い「年齢による一律な就業制限」をどう思われますか?
S氏
定年など一律の年齢制限で能力のある人材を切り捨ててしまうのは、とてももったいないことだと思います。これからは社会全体の動きとして、ますます高齢人材を無視することはできない状況になりますから。ご本人はもちろん、雇用者側も状況を認識しなおす必要がありますね。
銀子
そうした社会的背景は研修に影響はありますか?
S氏
はい。今までインソースのダイバーシティ研修のテーマでは、女性活躍推進が圧倒的に多かったのですが、ここ最近はシニア層・ベテラン向けに関しても急増しています。また、今までは「企業の中で高齢になった人」が対象の研修が多かったのですが、これからは再就職の「高齢求職者を受け入れる企業」のための研修が増えると思われます。高齢人材に活躍してほしいがどうしたら良いか、人材は欲しいがどのように迎えたら良いのか、とのご相談が増えています。
銀子
私は在学中20歳で創業して、幸運なことに50年経った今も同じ仕事を続けています。でも一時期、仕事量が激減した時は失意のあまり、いっそ何か全く別の仕事をした方が良いのか?などと考えました。結局、他に何もできないので現実的じゃなかったんですが。多くの会社員は特に専門がなくて定年後に進路を考える、それも大変ですね。
S氏
おっしゃる通りです。長く続けた仕事を続けられれば、それが一番良いと思います。しかし、一般の会社員はいくら立派な役職で実績を残していても、その実績を定年後の仕事に結び付けることは容易ではありません。
そこで、40代からは定年後の夢を含んだ大まかなライフプラン、50代には生活を支えるマネープラン、60代には情報収集と意識の転換に重心を置くなど、少しずつ計画や準備を進めるのが良いと思います。定年になってから突然夢を実行しようとしても、なかなかやりたいことが見つからなかったり、スムーズに運ばないことが多いですからね。
銀子
そうですね。では高齢者の就業に際しては、どんなところに注意が必要ですか?
S氏
企業内のシニア層やベテランの場合と再就職で入社した場合では、幾分違うと思いますが、どちらの場合も本人と受け入れる企業の柔軟な姿勢がポイントになると思います。
就業者に関しては、せっかくの豊かな経験を自ら進んで無にする方々がいます。
例えば、
・後進を激励する立場との意識からか、やるべき仕事があるのに職場を歩き回り、他人の仕事に口を出してしまう、“企業内シニア”に多いタイプ。
・定められたこと以外はしない方が良い、と仕事や責任の範囲を強く線引きして譲らない、“再就職者”に多いタイプ。
両者は極端に逆のタイプに見えますが、実は根底には似ている心理があります。今までの立場との待遇や収入面のギャップに胸の奥で納得していない、または良かれと思って出しゃばらないようにしているなどです。多かれ少なかれこうした心理は誰にもあるのかも知れませんが、乗り越えないとうまくいきません。
銀子
なるほど。気持ちはわからないでもありませんが、これから高齢就業者が増えることを考えると軽い話ではありませんね。では、受け入れる側ではどうでしょうか?
S氏
受け入れる側もあまりルールや前例に固執せず、臨機応変な対応が大事だと思います。高齢就業者の心理面を理解したうえで、できる職務の選定やフォロー、また勤務時間や環境など具体的な対応策が必要ですね。しかし、高齢者に対する過剰な心配や遠慮はかえってオープンなコミュニケーションを阻害します。お互いに違う価値観や状況に身を置いて異文化をもっているとしても、敵対するのではなく仕事の同士としてフラットな関係であることが、企業にとってもプラス効果になると思います。
銀子
どちらもムキになったりせず、肩の力を抜いたほうが良いということかも知れませんね。
S氏
あはは、そうですね。さまざまな課題もあるでしょうが、シニア就業者には年齢の固定観念など持たずに新しい仕事にチャレンジしてほしいと思います。仕事は教えられますが、気持ちの納めどころは自分で見つけるしかありません。あまりかたくなに考えず、人生の変化を自発的に楽しんでほしいと思います。
職場にとっては仕事や人生の経験豊富な先輩です。相乗効果が生まれて仕事の幅が広がれば、さらに楽しいですね。現役世代にとっても自身の将来の参考になると思います。
銀子
そうですよね。ちなみに誰もが必ず高齢者になるわけですが、ご自身の将来に関しては、いかがですか?
S氏
私は、働き続けることが良いことだと思っています。自立とは自分で食べていけることですから。できれば長く続けてきた仕事を続けていくのが最善だと思いますが、専門職でなければそれも難しい。高齢になれば、できることできないことが変化するでしょうし。これから私はスキルまたは資格などを増やすことを考えています。人間には「上がり」=定年がないと思っています。「この辺りでいい」ということは無いですね。今後の社会の流れが、企業にとっても高齢就業者の第二の人生にとっても、実りをもたらすものであってほしいと願っています。
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人の一生は「気持ち次第」なんて言えるほど甘いものではありませんが、老いても新鮮な感性を持つ人もいれば、若くして悟ってしまう人もいます。年齢を超えて、自分も含む様々な人がいて面白いと思えば、不運も不遇も不条理も仕事も責任も少し楽しく感じられます。
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