◇上林 憲雄氏(Norio Kambayashi)◇
英国ウォーリック大学経営大学院ドクタープログラム修了後、
2005年神戸大学大学院経営学研究科教授、経営学博士。
専攻は人的資源管理、経営組織。
■仕事をさぼる口実!?
ビジネスの時流を読み解くキーワードの1つに「ワーク・ライフ・バランス」があります。ご存じの通り、この語は「仕事と生活の調和」と訳され、ワークに比べてライフが軽視されがちな生活スタイルを改め、私生活を犠牲にしない働き方の推進を目指したキャッチフレーズで、目下、官民挙げた取り組みがさまざまな形で行われています。ワーク・ライフ・バランスの推進に取り組むことは私たちの生活が豊かになることを意味しますから、そのこと自体とても素晴らしいことです。
しかし、私はこのキャッチフレーズに関連して、若干気がかりな点があります。それは、目下のワーク・ライフ・バランスへ向けた各種の取り組みが、就労形態や労働時間短縮などワークの"外枠"に関わる問題がことさらクローズアップされる嫌いがあり、この結果、肝心のワークの"中身"、すなわち働き方そのものや仕事内容の豊かさの側面がなおざりにされがちなことです。
また、この語を持ち出して、仕事を怠けるための口実や方便に使おうとする間違った行動をとってしまう従業員もいるやにうかがいます。
■「振り子」は欧米的発想法
そもそもバランス(balance)という語は振り子や天秤を想起させる語で、したがってワーク・ライフ・バランスとは、即ち「ワークの量や時間をなるべく軽減し、ライフにあてる時間を増大させる」という意味であるとしばしば理解されがちです。実際、欧米諸国では労働とは骨折りそのものであり、なるべくその量は少ない方が人間にとって望ましい、と考えられているようです。そして、その延長線上にくる考え方として、「ワークはいくら大変で骨が折れるものであっても、(ライフさえ充実していればそれで)構わない」という発想法が出てくることになります。しかし、特に日本企業のコンテキストで、本当にこれは適切な考え方といえるでしょうか。
■日本的発想の根底にあるもの
欧米的発想法では、仕事は分業すればするほど効率が上がると考えられ、できる限り作業を分割し、従業員各自の責任範囲を明確に定めて仕事をこなす習慣があります。しかし、それでは仕事が楽しくなく、すぐに離職してしまうという逆機能があることがわかってきました。
これに対し、日本企業にはこれまで、ワークとライフを完全に分離せず、その双方の間の線引きを敢えて曖昧なままに残しておく風土特性がありました。こうした日本文化は、最近では副作用の側面ばかりが強調されて語られる傾向にありますが、このワーク・ライフ・バランスという側面に絡めていうと、私は「日本的なるもの=悪」という短絡的図式で考えるのは得策ではないと思います。
☆次回もお楽しみに!
「きみは営業に向いてない」
周りの人にさんざん言われていながら入社早々営業担当になってしまった中島が伝える、営業の頑張り方