便利な都心近くに暮らしながら贅沢なことだが、窓から遠くに山々が見えるところに住みたい。歩けば整えられた緑の公園もあるが、新しい住まいの窓からは四角いビルしか見えない。せめて遠山や風に揺れる緑が見える場所に足を運ぼう。少し室内の鉢植えを増やそうか。
新幹線や飛行機の開かない窓から、富士山や山系が見えると嬉しいのは日本人だからだろうか。もちろん遠く水平線を従え白い波頭が立つ海岸も嬉しい。旅の楽しみは目的地だけにあるのではなく、通り過ぎる野山や海浜・合間に現れる人間が暮らす風景を垣間見ることにもあると思う。席の指定が叶わず3人掛けの真ん中席に当たった時のガッカリ感は大きい。 両側から押し寄せる他人の圧力、両隣の都合や事情への気苦労で、どっと疲れる。
■真ん中席の貢献
職場には好き嫌いや利害を超えて、仕事のストレスがある。管理職には管理職の、新人には新人の行うべき使命や目標・上下階層の研鑽や礼節があって、それが組織を引き締めて良い緊張が生まれるのだが。こうした中で整然と業績を上げ続ける日本のビジネスパーソンは凄いと、常々思っている。が、全員がはっきりした役職・職務だけで貢献しているわけではない。組織の中で圧倒的に多数の、管理職でも新人でもない中堅層の貢献がある。組織の構成や大方の業務を理解していて、上からも下からも頼りにされクッション役を果たすが、板挟みになりやすい。
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組織の内容・構成によっても違うだろうが、多かれ少なかれ、こういった声をよく耳にする。 まさしく中堅層は、ストレスの多い組織の真ん中席なのだろう。
■曖昧な立場
中堅層は(中堅層という役職はないが)上司のフォローに努め後輩のケアに当たる。他部署との折衝や組織全体の活動にも参加する。自分の仕事も増えているし自身の勉強もしたいのに、何やかや時間を取られて肉体的な負担が増す。上下左右からの板挟みと自身のジレンマでストレスも大きい。その割には曖昧な立場で明確な昇給や昇格に直結するわけではない。何だか損な役回りに思える
■今をチャンスにする
しかし曖昧な立場だということは見方を変えれば、長期計画に沿って経営課題を解決する立場までに、まだ猶予があることともいえる。具体的な役職になれば不自由が増してできないことも、中堅層の今なら今までの経験や知見を活かして、自由に飛び回りやすい。プロジェクトに参加してメンバーを巻き込み、新しい切り口で冒険することも可能だ。将来訪れるだろうさまざまな課題のシミュレーションができるチャンスでもある。今なら上司に仮説や提案を話して弱点や盲点の教えを乞うこともできるし、後輩に仕事を少しずつ振り分けて自分の時間を作る練習ができる。他部署とは交渉の実践テストもできる。今後キャリアアップを目指す人にも、専門分野の資格を目指す人にも、必要で不可欠な経営視点やコミュニケーションのスキルを磨くチャンス期だと思える。多分、中堅層という板挟みの時代は、ビジネスの面白さを体感して、将来への栄養にする素敵な修行の時代でもあるのではないか。
組織内の中堅層の経験がない私が言うのも気が引けるが、多分中堅期こそ自分の将来が展望できる大事な時なのかも知れない。曖昧な時期を負担に感じてただ憂鬱に過ごす人と、自分のためのチャンスととらえて楽しく動く人とでは、将来大きな差がつくだろう。忙しいうえに気苦労が絶えず大変かも知れないが、ここを踏ん張れば視界が晴れてくるのだ。
どんな勉強も手を伸ばせば届く、現代のビジネスパーソンは恵まれていると思う。かつて若い知人が「僕は社長になりたい」と言っていた。単純な希望に周囲は笑っていたが、(本当に社長になるかどうかは別として)彼はちょっとした発見や思い付きを掘り下げて周囲を巻き込んで実行に移し、チャンスを逃さず楽しそうに試行を重ねながら向かうべき方向へ駒を進めているようだ。きっと、中堅期を積極的に活用して、立派に成長するのだろう。がんばれ!真ん中席!
2023年11月27日 (月) 銀子