いんそうす商事(仮)の若手社員だった太郎さんと花子さんも、入社してはや4年。同じ部署の後輩もでき、いよいよチームリーダーとして新人や若手を牽引する立場となりました。これまでは上司や先輩の指示を仰ぎながら主体的に自身の仕事に取り組んできた二人ですが、これからは他のメンバーやチーム全体の業務にも、もっと目を配っていかなくてはなりません。
そこで今回は、新任リーダーがぶつかりやすい「4つの壁」と、それを乗り越えるための先輩からのアドバイスを、ストーリー形式でご紹介します。
~二人がぶつかってきた4つの壁~
リーダーの役割を受け入れ、成長してきた二人がこれまでどんな壁にぶつかったか、さらにその壁を克服するために、いつも二人を励ましてきた先輩がどのように声をかけたのか、貴組織における人材育成の参考となれば幸いです。
太郎
「取り立てて大きな実績があるわけじゃないし、後輩からどう見られているのか、ちゃんとリーダーとして認められるのかいま一つ自信がないです」
花子
「上司から『今年から花子さんがリーダーとして若手をまとめて』と言われたけど、自分はどちらかというとフォロワー向きかなと思うし、大丈夫かな......」
◆先輩の言葉◆
これまで上司や先輩の指示や助言を受け、仕事を進めてきた二人が不安に思うのも無理はありません。しかし、上司や先輩は、二人の仕事ぶりをちゃんと見てきたからこそ、リーダーの役割を任せているのです。まず自信を持ってください!
それに、近年求められるリーダーシップは変化しています。いわゆるリーダーとは、組織目標の達成に向け、指示・命令によって人を動かす強い人、というイメージを持つ人も多いかもしれません。しかし、最近はそのような牽引・統率型のリーダーよりも、部下やチームメンバーの背中を押したり支援したりしながら、組織目標の達成を目指す「奉仕型(サーバント)」のリーダーシップが注目されています。
①傾聴
部下が望むことを聴いたうえで、自分がどう行動すれば部下の役に立てるかを考える
②共感
"上から目線"ではなく相手の立場に立ち、部下の気持ちを理解しながら考える
③癒し
一緒にいて相手が元気になれる存在となり、部下が本来の力を発揮できるように導く
サーバント・リーダーシップの特徴は他にもありますが、花子さんのように、これまでもフォロワーとして上司や先輩を支えてきた人なら、サーバント・リーダーシップを発揮できる素養を十分に持っていると考えられますよ。
また、フラットな立場で多様なメンバーの力を引き出し、組織の成果につなげる「インクルーシブ・リーダーシップ」も、現代のリーダーに求められる力です。
①開放性:親しみやすく、ざっくばらん
・多様なメンバーに対して分け隔てなくオープンに接する
・既存の考え方にとらわれず、新しいアイデアを柔軟に受け入れる など
②近接性:メンバーとの距離が近い
・いつもチームにいて、メンバーが困っているときはすぐに相談に乗る
・メンバーと頻繁にコミュニケーションを取り、良好な関係を維持できる など
③有用性:メンバーの"役に立つ"
・メンバーの悩みを実際に解決してくれる
・専門的な質問にも的確なアドバイスをくれる など
こちらは後輩の立場にも近い新任リーダーならではのリーダーシップと言えます。太郎さんもすでに実践しているかもしれませんよ。
二人とも、自分にあったリーダーシップを発揮し、自分らしいリーダー像をぜひ見つけていってくださいね!
太郎
「つい気が引けて、後輩にあまり細かいことを言わないようにしていたら、『太郎さんの指示だとどう動けばいいか分からなくて困ります』と言われてしまった......」
◆先輩の言葉◆
自分が入社して1~2年目だった頃を思い出してみましょう。まだ経験も少なく、指示した側の意図を推し量って動くことは難しかったのではないでしょうか。メンバーに求める具体的な行動や期待水準を伝えることは、リーダーの重要な仕事なのだと意識を変えましょう。
①仕事全体の流れを大まかに教える
作業を効率的に進めるためには、いきなり細部を教えるのではなく、全体像から教えるのが効果的です。部下は仕事の流れを理解することで、不安なく、前向きに行動できます。またこの時、仕事の目的や意味を伝えておくと、大きく間違った行動を取ったり、周囲に迷惑をかけたりすることが少なくなります。
②具体的な行動を指示する
次に、実際の仕事の進め方を具体的に詳しく教えます。その際、1)なぜ、2)誰が、3)いつまでに、4)どのような行動を、5)どのような点に注意しながら、を明確に指示します。
③期待水準を伝える
仕事の完成度、成果物のおおよその量、所要時間などを具体的に伝えます。
<例:資料作成の指示>
・仕事の完成度「箇条書きで要点を示し、誤字脱字がなく、平易な文章で」
・成果物の量 「A4で3枚程度に」
・所要時間 「1時間くらいで」
④指示した内容を確認する
後輩に指示を出した後は、必ずその内容を口に出して確認してもらいましょう。お互いの認識にズレがなく、後輩が正しく理解したことを確認して初めて、指示が完了したと言えます。
花子
「後輩が不注意によるミスをした。リーダーとしてしっかり指導しなくてはならないけれど、今まで同じ立場だった後輩を叱るのは正直気が重いです......」
◆先輩の言葉◆
「叱る」こともまた、リーダーの仕事です。仲の良い後輩を叱るのは気が重いことですが、伝えるべきことを伝えない方が「悪いこと」だと理解しましょう。
後輩の成長につながる上手な「叱り」にするには、内容だけでなく、タイミングや切り出し方も重要です。基本的な叱り方の手順を紹介しておきますね。
ステップ1 叱るべき内容を判断する
・叱るべきことに対する判断基準をもつ
・叱る前にちゃんと教えたかどうかを振り返る
・原則として、一回に叱る内容は一つにする
・特に新人への指導は、本当に本人に原因があるのかをきちんと確認する
ステップ2 叱るタイミングを慎重に決める
・緊急なトラブルや、重大な規則違反 ⇒直ちに
・それ以外
⇒部下の仕事が一段落したときに「10分くらい話したいんだけど」と切り出す
ステップ3 考え・気持ちを伝え、フォローする
・いま改善しないとまた同じ失敗を繰り返す、お客さま・利用者や本人にも危険が
生じるなど、いま指導しなくてはならない理由を簡潔に話す
・「あなたともあろう人が、そんな言動をとるのは残念だ」という気持ちを伝える
・自分の経験談(失敗談)や後輩への期待を伝え、フォローする
また、叱り終わった後は、リーダーがまず気持ちを切り替え、すぐ通常の会話、日常会話に戻ることも大切です。相手のことを思って叱っているという姿勢が伝われば、相手との関係も悪化しないので心配しなくて大丈夫ですよ!
花子
「後輩の前で失敗しちゃった。ダメなリーダーって思われたかな......」
太郎
「言うことを聞いてくれない年上のメンバーがいて、内心イライラする。顔に出てないか心配......」
◆先輩の言葉◆
リーダーの感情が不安定だと、さまざまな影響を及ぼします。例えば、後輩が「今日はリーダーが落ち込んでいる」と思ってトラブルの報告を控えてしまうと、後にもっと大きな事故が発生するリスクが生じます。また、「うちのリーダーは機嫌の波が激しすぎて疲れるな」と感じさせるのは、職場の人間関係を悪化させることにつながりかねません。
感情コントロールのコツを身につけ、安定力のあるリーダーを目指しましょう。
以下のような言葉が自分の口から出るのは、感情的になっている「サイン」です。
・「いつも」「全員が」「毎回」などの決めつけの言葉
例:「だって、みんな絶対反対だと思ってますよ?」
・白か黒かの「極論」
例:「みんながそう思うなら、この企画はやめます」
感情のコントロールができていないという状態に気づき、冷静に自身の状況を振り返れるようになることが重要です。
ABC理論とは、すでに発生してしまった状況・出来事(A)でも、ものの見方や受け取り方(B)次第で、その後の感情や行動(C)を変えられるという考え方です。これをうまく使えば、思考と行動のパターンを否定的なものから肯定的なものに変えることができます。
例1:後輩の前でお客さまから怒られた
例2:後輩から身勝手な文句が飛んできた
相手の言動がどんなに不当であったとしても、他人をコントロールすることはできません。自分の考え方や感情を整理し、コントロールすることで、生産的な対応が取れるようになるといいですね!
太郎
「つい自分でやった方が早いと思って、後輩に仕事を頼めません。これではリーダーとしての仕事にも手が回らず、一日の業務が終わらない......」
◆先輩の言葉◆
説明すれば後輩にもできる仕事だけど、「説明の時間がもったいないから」「後輩がやるより自分がやる方がうまくいくから」と自分でやってしまっていては、太郎さん自身も分かっているように、「自分でなければできない仕事」にかける時間が削られてしまいます。
これまで自分しかできないと思っていた仕事を、複数人で、かつ非熟練者でもできるようにすることは、1)仕事の属人化が防げて作業効率が高まる、2)リスク管理が容易になる、3)次世代へナレッジを継承できる、など様々なメリットがあります。任せることがリーダーの仕事だと意識を変えたうえで、後輩たちにどんどん任せていきましょう!
①自分がやらなくてもよい仕事
自分自身が他の業務をやることによって大きな成果が得られるのであれば、今までやってきた仕事は思い切って任せましょう。他の人に任せることで、新たに効率化が図れるようになるかもしれません。
②ルーティン化している仕事
日次・週次・月次で行っている定例的な業務は、一番任せやすい仕事です。イレギュラーも発生しにくいため、任せられる部下も予定の見通しが立てやすく、精神的な負担が軽くなります。
③育成につながる仕事
例えば、アルバイト社員の仕事の管理、社内プロジェクトの調整役など、後輩にとって良い経験となるような少し難しめの仕事も任せてみましょう。初めての業務に悩むかもしれませんが、リーダー自身もかつて通ってきた道のはず。うまく動機づけられるよう、後輩の得意・不得意なこと、これからのキャリア志向などを知っておくといいかもしれません。
④突発的な仕事
突発的な仕事は緊急性が高く、重要度も高い仕事になりがちです。しかし、いつも自分で対応していては状況は変わりません。クレーム対応や、緊急対応が必要な場合は、判断だけを自らが行い、実務を他の人に任せるという切り出し方も有効です。
花子
「後輩たちと一緒に進めている企画を通すには課長の承認が必要。花子さん頼みます!と言われたものの、どうやって課長を説得しようかな......」
◆先輩の言葉◆
リーダーとして、上司への説得や意見具申の機会は頻繁にあるものです。相手に拒まれる可能性もあり、勇気がいると思いますが、大事なのは「誰かに頼まれたから」ではなく、「私がそうしたいと思うから、最後まで責任を持ってやり遂げます!」という覚悟で臨むこと。リーダーである花子さんの本気が伝われば、上司も真剣に話を聞こうと思いますし、たとえ上手くいかなかったとしても、後輩たちからの信頼は揺るがないはずですよ。
ここでは、上司を"アサーティブに"説得するためのポイントを紹介するので、参考にしてみてください。
「お客さまに対して、とにかく早く対応することを第一に考える」「深く意図を考えないまま、言われたままに実行すると不満を抱く」など、上司が何に優先順位を置いて判断をしているのかを理解しましょう。上司の判断軸に合った内容・流れで説得を進めることで、上司は納得し、賛同することができます。
②アサーティブな説得の4ステップを身につける説得の目的は、意図した行動に相手を導くことです。そのためには、説得を受ける相手の心情の段階に合わせて話を進めることが重要です。
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