◇上林 憲雄氏(Norio Kambayashi)◇
英国ウォーリック大学経営大学院ドクタープログラム修了後、
2005年神戸大学大学院経営学研究科教授、経営学博士。
専攻は人的資源管理、経営組織。
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■わからない時は本を読む!?
前回はダイバーシティ・マネジメントをネタに,何となく心地よい概念や考え方をちょっと疑ってみることの効用について述べました。今回は,ちょっとした「疑い」からさらに進め,ビジネスをする上で管理職の皆さんが直面する「どうやったらいいかわからない」時に,どう対応したらいいかの基本戦略について考えてみることにしましょう。
多くの皆さんは,「わからない」という状況に直面した際,知識の量が少ないからだと思って書物や雑誌,あるいはインターネットなどを駆使して情報を収集しようとされるでしょう。
では,この「わからない」ときに「情報を収集する」という対処法は果たして万能といえるのでしょうか?
■読んだら読みっぱなしでは・・・
こうした多読家の人が陥りがちな罠は,「自分は多くの本を読み,それだけ知識が増えたのだから,それだけ幅が拡がり,困難に直面しても他人よりもうまく対応できるはずだ」という思い込みです。確かに,多くの情報に接することでその分,他者より物知りになれます。
そして,さらにたくさんの情報を求め,次から次へと(あまり考えることなく)新しい本に手を出していきます。そうした行為を漫然と続けていくうちに,頭の中にはいろいろな知識や情報が混在し,どれが重要で本質的な情報なのかわからなくなってしまいがちです。初めの方に読んだ書物の情報は当然忘れていってしまうことにもつながります。
■整理する力
そこで重要となるのは,混然とした状況を自分なりにうまく整理し,秩序だてる力です。ある事象について書かれた書物を読むと,その読んだ冊数分だけ違ったものの見方やその人なりの考え方が得られます。この時点で「いろいろなことが書いてあった」と満足したり,あるいは「どれが正しいのかわからない」といってさじを投げたりするようではいけません。こうした雑多な情報の山を,どれがより本質的で根源的な情報であり,どれがその具体例であり,あるいはどれが著者の主観に過ぎない情報であり・・・といった按配に自分なりに分類し,整理してみることこそ重要なのです。
一枚の用紙に,その人の主張を一言で簡単にまとめ,それらの関係性を線や矢印でつないでみましょう。このように図式化することで,雑多な情報をよりクリアに,構造的に捉えることが可能になります。「構造的」というと小難しく聞こえるかも知れませんが,要は,いろいろな要素があってその要素間の関係性がわかっている状態が「構造」です。構造がわかれば,全体像の理解が容易になります。こうなればしめたものです。
複雑な事象の細部を捨象して簡単に捕まえる,言い換えると「構造化力」ないし「要約力」こそ,仕事のできる人が身につけている最大の武器なのです。
■知識の量は「考える力」の妨げになる!
読んだら読みっぱなし,次々と情報を求めてやまない人は,知識量がどんどん増えていきますが,逆に「深く考える力」は落ちていってしまいます。逆説的ですが,従来にはなかったイノベーティブな発想をしようとすれば,知識はむしろ少ない方が望ましいとさえ言えるのです(これと類似の点は,外山滋比古氏の『自分の頭で考える』中央公論新社,にも書かれています)。
ある事象についての知識や情報が少ないと,自分自身で「これについて自分はどう考えるか?」と深く熟考する姿勢につながります。立ち止まることなく,次から次へと情報を収集するという態度を,少しばかりやめてみましょう。すると,「自分の頭で考えることしか方法はない」ことに気づかされるはずです。
実は,真のイノベーティブなアイデアは,他人が既に書いた情報からではなく,それらをもとに(あるいは,それらから離れて)自分の頭で,自身の経験を踏まえながら考えるスタンスからこそ湧きだしてくるものなのです。
■立ち止まって考えてみよう
「わからない」時には,すぐに本に飛びついて対処法を探すのではなく,まずは立ち止まってじっくり自分の頭で考えてみましょう。自分なりに考え,"仮説"をもった上で書物を読み,それらから得られる情報を自分なりに整理してみましょう。――何の変哲もないごく当たり前のことのようですが,実行はなかなか難しいかも知れません。しかし,これができるようになると,世界が変わって見えてきます。読者の皆さんに是非チャレンジをお奨めします。
☆次週もお楽しみに!
「きみは営業に向いてない」
周りの人にさんざん言われていながら入社早々営業担当になってしまった中島が伝える、営業の頑張り方