【日本的人事システムの先進性 【9】】
日本的人事システムの先進性 【9】
◇上林 憲雄氏(Norio Kambayashi)◇
英国ウォーリック大学経営大学院ドクタープログラム修了後、
2005年神戸大学大学院経営学研究科教授、経営学博士。
専攻は人的資源管理、経営組織。
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■係長職とは
ここ数年、「名ばかり管理職」という用語が話題になりました。十分な権限やそれに見合う報酬も得ていないのに管理職扱いされ、残業代が支払われない状況を揶揄して使われるようになった用語です。
日本の企業において、とりわけ規模の大きな企業では、管理職とは一般に課長職以上を指すことの方が多いようですが、自分の下に管理すべき部下がいる場合においては、係長も中間管理職の末端を担っているといっていいでしょう。配下に自身が管理する部下がいないにもかかわらず、組織上「係長」に就いているような場合は、係長といっても文字通り「名ばかり」です。
では、係長職をきっちり務めるには、どういったスキルや能力を身につけておけばいいのでしょうか。
■R.カッツのテクニカル・スキル論
係長と課長・部長とは、そもそも職責に大きな違いがあることはいうまでもありません。このことを、ハーバード大学のカッツ(Katz, Robert, L.)教授は,マネジメント層によって求められる能力が異なっている点に着目して,次のように説明をしています。
「まず、『テクニカル・スキル』とは、業務を遂行する上で必要な知識やスキルのことで、係長クラスのロワー・マネジメント層に必要なスキルであるとされます。次に、『ヒューマン・スキル』は、相手の言動を観察・分析し、目的達成するために、相手に対してどのようなコミュニケーションや働きかけをするかを判断・実行できるスキルであるとされ、ミドル・マネジメント層に必要なスキルであるとされています。そして『コンセプチュアル・スキル』とは、発生している事象や状況を構造的・概念的に捉え、事柄や問題の本質を見極める力を指すと説明されています」
このくだりだけを読むと、あたかも係長クラスにはテクニカル・スキルのみ必要で、ヒューマン・スキルやコンセプチュアル・スキルは課長・部長になってから身につければよいように思われがちです。果たしてそれでいいのでしょうか。
■年をとってからは身につかないスキル
実は、一見まっとうに見えるこの論法には重要な落とし穴が潜んでいます。それはずばり、ヒューマン・スキルやコンセプチュアル・スキルは、一定以上の年齢になってから身につけるのは非常に困難である、という事実です。
日本企業で係長職に就くのは、早くて20歳代の後半頃、概ね30歳代の前半であることが多いようです。人間関係の機微をとらえてうまく交渉したり、自由な発想でじっくり物事を考えたりすることができるようになるためには、どんなに遅くとも、この20~30歳代の若い感性と頭脳で訓練しておくことが不可欠なのです。
では、そのためには何をすればいいのでしょうか。高校・大学時代にもっと勉強をしておくべきだったといくら嘆いてみたところで、今さらどうにもなりません。
■コンセプチュアル・スキルこそ若い時期に
私は、係長職にいる若い頃にこそ、その会社のいちばん重要な戦略上の問題を考える癖をつけてもらうことを提案したいと考えています。カッツ教授の言説とは順序が逆になりますが、コンセプチュアル・スキルとヒューマン・スキルは頭と感性が若いうちに鍛錬し、テクニカル・スキルについては、もう少し後になってからでも手遅れにはならないのではないかと考えています。
■テクニカルな事象の背後にある意味を考える癖を
それが企業の道理に反するなら、テクニカル・スキルの訓練にあたっても、そのスキルのみを切り離して教育訓練しようとするのではなく、ヒューマン・スキルやコンセプチュアル・スキルもともに高めていけるような教育プログラムであればいいでしょう。一見つまらない、些細なテクニカル・スキルでも、その背後にある深み―意味や構造、その存在意義―を、係長になろうとする若い社員にも考えさせるような教育です。
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