前回に引き続き、「経営学は役立つのか」を他の学問領域と比較しながら考察します。今回は自然科学との違いについてです。
経営学は実践にどのように役立つか(2)
著者:インソースマネジメント研究チーム
1.自然科学において、因果関係はきわめて明確で、真理は一つしかないが、人文科学や経営学を含む社会科学はそうはならない。後者には説明の難しい「人間」という要素が入り込むからである。
2.とりわけ人文科学は、例えば歴史ならば、「○○があったら必ず戦争が起こる」というように、定式化することはできない。つまり、予測不可能性が高い(即ち科学性が低い)のが人文科学である。
- ■経営学の科学性
- 前回、経営学の科学性が他の学問領域より低く、その原因の1つは経営現象が非常に複雑で、因果関係の定式化・明確化が困難だからであると述べました。今回はこの続編です。
- ■経営学のテキストブック
- 自然科学(物理学、化学、工学など)や、社会科学でも経済学や法律学では標準テキストは大概1つです。たとえ複数のテキストブックがあったとしても、目次の構成はほぼ同一です。
- ところが、経営学ではテキストブック類は多種多様、千差万別です。問題は、どうしてこういう状況なのか、そして学問としての体系がない経営学は本当に役立つのだろうか、ということです。他の学問領域と比較しながらこの問題を考えてみましょう。
- ■物理学での完璧な因果関係
- 自然科学では、因果関係はきわめて明確で、真理は1つしかありません。例えば、ニュ-トンの「万有引力の法則」は、数式できっちり定式化が可能です。空中で手に持っている物体を手放すと、その物体は条件が同一であれば必ず同じスピードと衝撃で、地上へと落下します。つまり、方程式y=f(x)の式にxをあてはめて計算すれば、必ず同一のyが出てくるわけです。
- ■人間が要素に入るか否か
- このように自然科学の世界は鉄壁の因果関係を提示しますが、人文科学(文学、美術学、歴史学など)や社会科学(法律学、経済学、政治学など)ではそう簡単にはいきません。この端的な理由は、自然科学の世界では原則,構成要素の中に「人間」が出てこないからです。要するに、説明の難しい「人間」という要素が入り込むと、途端にモデル化が難しくなるのです。
- ■歴史学での曖昧な因果関係
- まず人文科学を考えてみましょう。例えば、歴史学において、「戦争はどういった条件があるときに発生するか」という問いに、正確に答えることは極めて困難です。外交上の紛争が起こったときにも戦争は起こるでしょうし、飢饉やちょっとした揉め事が戦争に発展したこともあります。つまり「AならばB」の形できっちり定式化することができないのが人文科学です。よって、予測可能性が高い(即ち科学性が低い)のが人文科学だといえます。
- ■科学性は低くても意義はある
- ただし科学性が低いこと=学ぶ価値がないこと、ではありません。むしろ、人間社会にとって非常に重要な意義を人文科学は持っています。科学だけでは世の中すべての現象を説明できないのです。では、社会科学の因果律はどうでしょうか。次回、説明することにしましょう。