経営学は会社を経営する上でどのように役立つのか、さらに言うならば、はたして経営学を学ぶことは優れた経営者になるための近道なのかについて、今後数回にわたって考察します。
経営学は実践にどのように役立つか(1)
著者:インソースマネジメント研究チーム
1.経営学とは企業で働く実務家が日々接している多様な経営現象や、その理解を秩序立ててまとめあげた科学である。
2.科学において最も重要視されるのは因果関係であるが、経営学における因果連関の定式化はきわめて困難である。
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■経営学を学ぶと社長になれるか
- 経営学部の学生に「なぜあなたは経営学部に入ったのですか?」と尋ねると、「将来、社長になりたいから経営学部に入りました」と答える学生が多いです。こうした思いの背後には「会社を経営する上で必要になる実践的なことを、経営学部では教えてもらえるのだろう」という思いが込められています。
- ■学問と実務の関係
- そこには同時に、「学問は実践に役立つ(はずだ)」という暗黙の前提が含まれています。当たり前すぎて疑う余地もない命題なのかもしれませんが、実はこの点は深く考えると、とても難しい問題が絡んでいます。
- そもそも大学の学問とは何で、(経営の)「実践」とは何を意味するのでしょうか。学問と実務はどのような関係にあるのでしょうか。この点について何回かに分けて考えてみることにしましょう。
- ■事実や知識をまとめたものが学問
- 学問は、最近では科学と呼ばれることが多くなっていますが、その最も基本的な意味は、事実や知識を一定の方式に基づいてまとめ、体系化したもの、です。つまり、よくわからない日常現象を「こういうように理解したらいいよ」と論理立て、秩序立てて説明したものが学問や科学ということになります。経営学でいえば、多様な経営現象や、その理解の仕方を秩序立ててまとめあげたものが経営学です。
- ■科学的発想の根本は因果関係
- 「科学」の根源にある発想法は、ある現象の構成要素間の関係性を明らかにすることです。関係性の中でもとりわけ重要なのが因果関係です。「AならばB」という原因と結果の関係性を明らかにすることで、その道筋の確実性を高め、意図した通りの結果を導くことができるからです。
- ■モチベーション向上と業績の関係
- たとえば、経営学でいうと、モチベーション論の領域では、「働く人々のモチベーションを上げる→会社の業績や収益が向上する」という因果関係が想定されています。ラフな因果関係ですが、大きくはこの関係が成り立つので、その意味で経営学は「科学」であると言い得るわけです。
- ■経営学の科学性
- しかし、経営学における科学性の水準は、他の学問領域と比較すると、残念ながらあまり高くはありません。なぜなら因果連関が明確に言い切れるほど問題が定式化しておらず、学説が論者によってまちまちだからです。
- これには、経営現象がきわめて複雑で定式化が困難であることが関係しているのですが、なぜ経営学における定式化が困難なのか、次回、もう少し詳しく述べることにしましょう。