前回に引き続き、「経営学は役立つのか」を他の学問領域と比較しながら考察します。今回は経営学を含む社会科学とは何か、そもそも社会とは何かを説明します。
経営学は実践にどのように役立つか(3)
著者:インソースマネジメント研究チーム
1.社会科学は、自然科学と人文科学の中間に位置する曖昧さを含んだ領域であり、「緩い因果律」が支配している。
2.社会科学が前提としている「社会」とは、人間と人間の間に織りなされる「関係」のことであり、法律学、政治学、経済学、経営学などの社会科学は、ある特殊な1つの関係に注目し、「社会」を分析している。
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■経営学の科学性
- 前回、自然科学における因果律(「AならばB」の関係)は完璧であるのに対し、人文科学では、原則的に因果律のない(1回限りの)人間の活動に関心がある、ということについて説明しました。今回は、経営学を含む社会科学とはなにか、社会とはなにかを考察します。
- ■緩い因果律
- 到達点をクリアにするため、先に結論から述べると、社会科学の世界では「緩い因果律」が支配しているということになります。緩い因果律というのは、自然科学ほどの完璧な因果関係では無く、また人文科学のように1回限りの個人の活動を取り上げるのでも無い、自然科学と人文科学の中間に位置する曖昧さを含んだ領域・・・これが社会科学です。
- ■文科系学問の特徴
- 社会科学は、人文科学と合わせて、人文社会科学というように合わせて呼ばれる場合もあります。人文社会科学とは、人間によって生み出された様々な社会現象(歴史や文化、政治、経済、法律、社会など)を分析対象とします。自然科学よりも人文社会科学の説明が難しいのは、法則性が自然科学ほど明快に観察することができないためです。
- ■裁判官の判決
- ここで1つ、社会科学の代表選手である法律学の例を挙げてみましょう。例えば、同じ法律違反でも、時と場合によって様々な判断がなされます。Aという罪を犯した場合にはBという判決が下る、という絶対的な規則が定まっているわけではありません。場合によっては裁判官から「情状酌量」がなされることもあります。このように人文社会科学が対象とする人間社会の決まり事を作ったのも人間です。そうであるがゆえに、人文社会科学では完全な法則性が観察されないのです。
- ■文科系の勉強は難しい
- ですから、人文社会科学を学習する場合には、いくら勉強してもわかったようでいて、どこかすっきりしないという印象を持つ人が多いはずです。それは何もその人の勉強が足りないからではなく、人文社会科学の勉強はそもそもそういう性質を持つものだからです。
- このように、経営学をはじめとする社会科学においては、人間社会の現象を支配する「緩い法則性」について解明しようという志向性があります。人文科学では法則性はまず出てきません。その意味で、自然科学と人文科学の中間が社会科学であると見ることができます。
- ■そもそも社会とは
- 社会科学が前提としている「社会」とは、そもそも何でしょうか。実は社会とは、人間ひとりひとりの個々人ではなくて人間と人間の間に織りなされる「関係」のことです。社会科学における諸学問(法律学,政治学,経済学,経営学など)はそれらの関係のうち、ある特殊な1つの関係に注目し、「社会」を分析しています。それぞれどういった関係に注目しているのでしょうか。次回、より詳しく見てみることにしましょう。