楽しみのタイプ~仕事に必要な楽しみ方
楽しみのタイプ―仕事に必要な楽しみ方―
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筆者:上林 憲雄氏(Norio Kambayashi)◇
1981年 (株)三和銀行(現:三菱東京UFJ銀行)入行。
英国ウォーリック大学経営大学院ドクタープログラム修了後、 2005年神戸大学大学院経営学研究科教授、経営学博士。専攻は人的資源管理、経営組織。
感情と経営学
人間は「喜・怒・哀・楽」という4つの感情を有しています。古来、中国ではこの4つに加え、怨(うらみ)を加え五情と呼んだり、立場によっては,愛(いつくしみ)や憎(にくしみ)を加えて六情と呼ばれたりすることもあるようですが、喜怒哀楽の4つはいずれの立場でも共通して挙げられる基本的な感情です。
昨今、経営学でも感情に関する研究領域が新しく確立され始めています。例えば、肉体労働や精神労働といった従前の分類には収まりきらない精神的ストレスを対象とした労働を「感情労働」と呼び、飛行機の客室乗務員や看護師など、精神的ストレスの高い業務のあり方が科学的に分析されるようになってきています。
使う楽しみと作る楽しみ
ただ、以下で紹介したいのはこうした感情労働の具体的中身についてではありません。喜怒哀楽の4感情の中でもポジティブに捉えられがちな「楽(楽しみ)」の感情に関して、私が自己流に考えた個人的な分類について、紹介したいと思います。
結論を先取りしていうと、楽しみには2つの相対するタイプがあり、仕事をするにあたってはそのうちの1つの楽しみが深く関与しているということです。2つの楽しみを、便宜上、AタイプとBタイプと仮称しておくことにしましょう。
Aタイプの楽しみは、使うことで楽しむタイプの楽しみです。卑近な例でいえば、例えばゲームをしているとき、食事をしたりお酒を飲んだりしているとき、このAタイプの楽しみ方をしています。
このAタイプは、すでに存在する何かを消費することの楽しみと言い換えることができるかも知れません。
それに対しもう1つのBタイプは、作るタイプの楽しみです。何もないところを自分で作り上げていく、創造するタイプの楽しみです。
ここでいう作るとは、何も物理的なモノを作るだけではありません。形のないものであっても、例えば概念的・抽象的なことがらを作り出すのも、ここでいう作るに含まれます。人間のクリエイティブな創造活動はすべてこのBタイプの楽しみです。
仕事で得られるのは作る楽しみ
AタイプとBタイプは、同じ「楽しみ」といってもその特徴がかなり異なっています。
楽しみの持続時間に注目すると、Aタイプの楽しみは刹那的でその場限りであることが多いです。消費しているときはめちゃくちゃ楽しく刺激的だけれど、終わればたちまちその楽しみは消えてしまいます。
それに対し、Bタイプの楽しみはじわじわと長時間にわたり継続するタイプの楽しみです。その瞬間の刺激は高くなくても、比較的長期にわたり幸せに感じる時間が続きます。普段私たちが感じる達成感や充実感も、このBタイプの楽しみと大きく関係しています。
仕事で得られる楽しみは、実はBタイプの楽しみです。働くことは労働とも呼びますが、この労働は英語ではlabor(原義は骨折りの意味)です。すぐに楽しいことはほとんどないのですが、じわっとくる作り上げるタイプの楽しみが、そこにはあります。
創意工夫で仕事を「楽しく」する
日々の仕事のちょっとしたことに、自ら何らかの創意工夫を加えることは、実にクリエイティブな作業です。骨は折れるのですが、そこには創造するタイプの、あとで達成感や充実感が得られる楽しみがあるはずです。
仕事を「楽しい」ものにしようと思えば、普段からこのBタイプの楽しみを(仕事以外の場でも)できる限り体験することが重要です。Aタイプの楽しみ方をよくする人の場合、「楽しみ」にはこうした2種類存在することすら、そもそも気づいていません。極力そうした場を意識的に設け,Bタイプの楽しみの深さを知るべきです。
今ある現実を見つめ、疑い、考え、その枠を壊すこと、そしてできれば自分なりのやり方を創造すること―これがここでいうBタイプの楽しみの本質なのです。