◆インソース講師 平野
◇インソース 小林
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◇今回のビジネスパーソン◇
平野 茂実(Shigemi Hirano)
大手電機会社や大手メーカーで、経理・営業職や新規企画の
仕事に携わる。豊富な経験に基づき、現場ですぐに役立つ知
識やノウハウを温和な話し口で語る。
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◇横河電機ではどのような営業をされていたんですか?
◆営業でスタートしたのが29歳の時でした。
経理から移ったため、遅れてのスタートということで、いろいろミスもしました。営業のことに慣れるまでは、だいぶ時間がかかりました。仕事としては、家電の量販店などで営業もしましたが、メインはCADシステムの営業でしたので、大手の電機メーカーさんに直販することが多かったです。
◇CADシステムというのは、どういったものですか?
◆コンピュータで図面を書くシステムのことです。ただ当時は、コンピュータ自体も値段が高く、CADが1システム1,000万円以上しました。
◇高額なものですので、なかなか売れないということはなかったですか?
◆最初は、バブルが始まった直後でしたので売れなかったですが、だんだん景気が良くなってくるにつれて売れ始めました。飛び込みではさすがに買ってもらえないので、担当の地域を分け、その地域の中で、資本金が一定額以上のメーカーを絞って、リストアップし、一つ一つ当たって、セミナーに来てもらって、デモをやって・・・というプロセスを踏んでいました。
◇この営業方法というのは、平野さんが独自に工夫されたものなんですか?
◆いいえ、高額商品の売り方はだいたい同じような形だと思います。特にCADは扱う会社が限られており、しかも投資額も大きいですから、おのずとお客さんが目に見えてきます。
◇高額な商品はなかなか売れるまで、交渉の時間が長くかかると思いますが、例えば、営業の場合、どのようなステップを積み重ねていって、お客さまの信頼を得ていくのですか。
◆お客さんが商品を購入するプロセスは、「興味」「関心」「試行」の3つに分かれます。
【興味】というのは、「カタログ置いといて」というくらいです。あとは無料のセミナーだったら行ってもいいとか。
【関心】というのは「組織的に導入してみようか」という意向がだんだんお客さんの会社の中で育ってきて、「じゃあ少し、本格的にデモを見てみようか」という段階です。
【試行】というのは、お客さんが自分の所に商品を入れることをほぼ決めかかっているような状態で、「実際に入ったらどうなるだろう」とか、「うちで使ってる図面ってこれなんだけど、ためしに描かせてみよう」というような段階です。
◇段階を上げるためにはどうしていったら良いのですか?
◆そうですね、一番大事なことは、「お客さんのニーズ」を聞くことだと思います。お客さんは、どんな会社でもそうですけど、何らかの理由で困っています。特にCADは設計部門で使うシステムですが、設計という所は本当に忙しい部署で、朝から晩まで図面を描くほど忙しい上、その図面は商品そのものを決定する一番上流ですから、いつも悩んでいます。
◆ただ、悩んでる内容は会社によって違います。「大量にできるだけ早く図面を書きたい」という会社や、「もっと性能のいいものをシミュレーションして作ってみたい」など、いろいろニーズは違うわけです。そういう意味で、細かいニーズをお客さんから聞き出すことが一番重要です。
◆それで、お客さんが「ちょっと興味はあるんだけど、高いからどうしようかな」と思ってるところに、それぞれに合った提案を作って、「実は御社が悩んでるココはこんな形で解決できますよ」と言って見せると、お客さんはグッグッと傾きますね。
◇そういう営業マンの口頭によるアドバイスとかコンサルティングで、お客さんの信頼を積み重ねて売っていくわけですね。
◆そうですね。提案営業とかコンサルティング営業になると思います。ただ、やはりそういう営業方法をとるということは、お客さんのやってる業務をちゃんと理解しないといけないので大変です。
◆私は、最初経理にいたものですから、どうやって設計をするのかなど、詳しいことが分からず苦労しました。ただ、もともと、人の話を聞くことはものすごく好きで、また設計にも興味があったので、バカにされながらも、お客さんのところへよく話を聞きに行きました。
◆そうすると、お客さんはいろいろ話してくれます。特に、ものづくりをする人は、自分の作ってるものがすごく好きなんですね。当たり前ですが、自動車メーカーだったら自動車がすごく好きなわけです。「僕も好きなんです。教えてください」と聞いたり、商品をほめたりすると、すごくお客さんはうれしくなるようで、工場に連れていってくれたこともありました。
◆そういう意味では、コンサルティング営業とか提案営業というような「教えてやる」「問題解決してやる」という立場ではなく、お客さんの好きなことを一緒に好きになって、お客さんとともに仕事のことを考えると、問題が見えてくることがあります。
◆お客さん本人は好きでやっているので近すぎてよくわからないことでも、専門外の人間が全く違う視点から見ると、「ああココが少し効率悪いかな」ということが目につくことがあります。そして、そこをうまくポイントとしてお客さんに教えてあげると、「ああ、なるほど」と言ってくれることが多かったと思います。
◇うちの営業の黒田も「営業は、こちらから上手くお客さんに説明するのも大事だけど、お客さん自身にいろいろと面白い話をしてもらうことも、同じか、それ以上に大事だ」と言っているんですが、やはり今の話も、お客さんの側からこちらにコミットしてもらうことで、お客さんとの距離が縮まることが大切なんですね。
◆やっぱり話をして、お客さんと一緒に仕事を面白がることです。「いい商品作ってますね」と言われると、お客さんはうれしいんです。
◆営業は商品を売るのが仕事ですが、お客さんと親密に話をしていくと、「もしかしたら、これは商品を売らなくても、お客さんが仕事のやり方や仕組みを変えれば済むのではないか」と思うことがあります。
◆これは、今だから言えることなんですが、「高額の商品じゃなくて、もっと安いパソコンでなんとかできますよ」とか、「段取りを変えると、問題が解決できますよ」ということを、チラッと言ってしまったりすることもありました。
◆それで、その時は商品が売れませんでしたが、でも結局、翌期以降の受注に結びついてました。今、考えると、お客さんに信頼されていたのではないかと思います。
◇やっぱり、目先の利益ではなくて、長い目でお客さんと信頼関係を築くことが大切なんですね。
◆まあ、カッコよく言えばそうです。ただ、本当は、そういう戦略的なことではなく、お客さんに対して情が移ってしまっただけなんですが・・・。営業としてそれが "正しい"かどうかは、ケース・バイ・ケースでしょう。