【―日本におけるMBA教育を考える―】
―日本におけるMBA教育を考える― 【4】
◇上林 憲雄氏(Norio Kambayashi)◇
英国ウォーリック大学経営大学院ドクタープログラム修了後、
2005年神戸大学大学院経営学研究科教授、経営学博士。
専攻は人的資源管理、経営組織。
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■MBAを学ぶことの現実
私が勤務している神戸大学では,大半の受講生がMBAコースに入学する前に経営戦略や人的資源管理,会計,ファイナンス,テクノロジー・マネジメントなどMBAの主要領域で企業経営に必要な一通りの理論や知識を学習し,それを実際の企業経営にフィードバックして実務に活かすことを期待しているようです。
しかし,授業で習った理論がそのまま当てはめて解ける問題など,現実には滅多に存在しないのです。現実の企業における実務上の1つ1つの問題には,その背後に実に多種多様な要因が複雑な形で絡み合っていて,そう単純には教科書に出ている理論を当てはめることなどできません。
■理論は「役立たない」ことがわかる!
理論や知識がダイレクトに実践に役立つことが少ないとすれば,大枚を叩いてMBAスクールに通い,身につけられるのはどういったことなのでしょうか? ―その問いに対する私の答は,ずばり「(これまで自分が考えてきたような)単純な一筋縄では決して問題は解決しない」ことがわかる,ということです。あるいは,1つの問題に対するアプローチも複数あり,どれが優れた解決法であるかは,その論者や立場によって主張がまちまちで,唯一最善の解決策は存在しないことが理解できる,ということと言ってもいいかも知れません。要は「簡単には解決できない」ことがわかるのです。
■自社の常識は非常識!?
神戸大学のMBAでは,10数名程度の比較的少人数のゼミで,ディスカッションをしながら,最終的には学位論文を書き上げることが最終目標となります。受講生は,ゼミでの経験を通じて,1つの問題であっても実に多種多様な物事の捉え方があり,自社では当たり前だと信じて疑いを挟まなかった社内常識や職務命令を相対化し,客観視することができるようになること,換言すれば,自分の頭で考えられるようになることが,MBAで得られるべき最大の収穫といっていいでしょう。決して「MBAに行けば,我が社の問題の解決策を手っ取り早く教えてもらえる」わけではないので,要注意です。
なお,経営学の大御所H.ミンツバーグも,文脈は違いますが,MBA取得者が会社に与える影響について述べています(池村千秋訳『MBAが会社を滅ぼす』日経BP社)。興味のある方にはご一読をお勧めします。
☆次回もお楽しみに!
「きみは営業に向いてない」
周りの人にさんざん言われていながら入社早々営業担当になってしまった中島が伝える、営業の頑張り方