時代が要請する主体性とは

コロナ禍を機に、「働く場所」「仕事の仕方」「コミュニケーション方法」など、これまでの働き方は一変しました。この環境の変化を乗り越え、成果を上げ続ける組織をつくるためには、「上司の指示に忠実に従うフォロワー」ではなく、自分で仕事を見つけ、推進できる「主体者」を育成する必要があります。本ページでは主体者を育成する3つのステップ「情報」「経験」「教育」について解説いたします。

本内容は、インソースENERGY FORUM 2021「時代が要請する主体性とは」の内容を書き起こしたものです。ENERGY FORUM 2021にご参加いただけなかった方や、もう一度じっくり振り返りたい方はぜひ、本記事をご活用ください。

ニューノーマル時代に求められる「主体者」とは

(1)コロナ禍における変化とは

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、これまで当たり前だった働き方が大きく変化しました。

  • テレワークが浸透し、「会社に行かなければ、仕事ができない」という考え方が薄れた
  • 昨日まであった仕事がなくなる可能性を常に意識し、激しい環境の変化に適応しなければならない
  • オンライン商談・Web会議が浸透したこともあり、ビジネスシーンにおけるコミュニケーションの取り方が変化した

ニューノーマル時代を生き抜くビジネスパーソンには、前例にとらわれず「今できること・やるべきこと」を主体的に考える力が求められています。

(2)成果主義の加速

コロナ禍の影響でテレワークが浸透する中、成果主義が加速してきています。これまでは働いている様子が見えたため、成果が出なくても努力の過程で評価されてきました。しかしテレワークになると、仕事のプロセスが見えにくくなるため、成果を中心に評価せざるを得なくなります。

また、働いている様子が見えなくなると、働いている時間ではなく、どれだけ成果を上げ、組織に貢献できたのかで評価されるようになります。成果がシビアに問われる時代になるからこそ、受け身な姿勢では評価されません。

(3)求められるのは「作業者」から「主体者」

主体性を発揮できる部下は、チーム全体に良い影響を与えます。

部下が主体性を持つメリット

  • 当事者意識を持ち、自分のやるべきことを考え、実行できる
  • できる仕事が増え、部下に任せられる仕事の幅が広がる
  • アイデアや意見が活発に出る
  • 自ら知識を吸収していくことで、部下の成長スピードが上がる

環境の変化を乗り越え、成果を上げ続けるチームをつくるためには、「上司の指示に忠実に従うフォロワー」ではなく、自分で仕事を見つけ、推進できる「主体者」を育成する必要があります。

主体者育成の3つのステップ~「情報」「経験」「教育」

(1)主体性ある学生採用の難しさ

主体者が求められる今、「主体性が元々備わっている人材を採用できれば、良いのではないか?」とも考えられますが、主体性のある人材を採用するのは非常に難しいです。大学教育の中で、アクティブラーニングなどを活用して、学生の主体的な学びを支援しようとする動きもありますが、「単位の取りやすい授業」「講義形式の授業」を選ぶ人が多く、受け身姿勢の学生が多いのが現状です。

また、採用面接で良い人材として評価されやすい「高学歴で、コミュニケーション力があり、アルバイトやサークルを頑張った学生」に主体性が備わっているとは限りません。採用する時点で、ビジネスの勘所を知っていて、主体性のある人材はほとんどいないでしょう。したがって現実的には、入社してからの教育で、主体性のある人材を育成する必要があります。

(2)主体者の育成の鍵は「情報」「経験」「教育」

「情報」「経験」「教育」とはなにか

主体者を育成するためには、「情報」「経験」「教育」の3つの要素が必要です。次章より、主体者を育成する3つのステップについてお伝えします。

ステップ①「情報」~主体性発揮の土台をつくる

(1)情報不足が主体性発揮を妨げる

「業務知識が不足していて、上司の指示を待つ時間が長く、仕事が進まない」「マニュアルがないため、上司に頻繁に質問しなければならない」と悩む部下は非常に多いです。

その一方で、部下に情報を与えることは上司にとって負担となります。「マニュアルにないことは口頭で伝えなければならないため、時間がとられる」「知識伝承は口頭なので、同じことを何度も言わなければならない」などの悩みを抱える方も多いでしょう。

必要な情報がなければ、主体的に行動したいと思っても、なかなか思ったように行動することができません。まずは上司が積極的に情報を開示する姿勢をもつこと、また継続できる形で、情報を共有する習慣をつけることが大切です。

(2)他者の経験を共有する

経験が不足していると、「こういうときには、こうすればよい」という判断ができません。そのような部下に対して有効なのが、他者の経験を共有することです。失敗談を含めた経験談を部下に共有することで、部下は他者の経験を自分のものにすることができ、成長スピードが速まります。

チーム内でこういった会話を増やすためには、お互いがお互いを理解していること、そして各自の特性に合わせたコミュニケーションを取ることです。

(3)組織で情報を共有する体制をつくる

主体的に行動できる人は、部署を横断して、周囲を巻き込みながら仕事をすることができます。部署を超えた情報共有が加速することで、自分の部署の枠にとらわれずに仕事をすることができるのです。また、「これは自分には関係ない」といった他責思考を抑止することにもつながります。組織内で情報共有を徹底する体制・仕組みをつくりましょう。

ステップ②「経験」~仕事を任せる

(1)経験を積み重ね、判断軸・経験則をつくる

主体者となるためには、自分で判断・決断する力が求められます。決断力は以下のプロセスを通じて高められます。

決断力を高める3ステップ

自分の実力を少し超えた仕事の中で、失敗しながら経験を積み重ねることで、経験則ができ、自分で判断し行動できるようになっていきます。

(2)「何を」経験してもらうかを考える

「何を経験させるのか」が主体者を育成するうえで重要です。「新しい仕事」「未知の仕事」「本人の実力を少し超えた仕事」にチャレンジしてもらい、仕事の幅を広げてもらいます。特に、最近の新人の傾向としてよく挙がるのが、失敗を極端に恐れ、自分からチャレンジしようとしないことです。そのような部下に対しては、上司が介入し、経験をコントロールしてあげることが必要です。

(3)業務采配は、部下の強みに着目する

業務采配の仕方にもポイントがあります。まず、部下を観察し、どのような特性やスキル、経験、強みがあるのかを見極めます。そして、部下が強みを活かして取り組める、少しレベルの高い困難な仕事を采配していきます。組織の役割期待と個人の得意分野を一致させると、部下もモチベーション高く仕事に取り組むことができます。

(4)仕事の任せ方を工夫する

仕事を任せるときには、ただ指示を出すだけでは不十分です。主体性をもって仕事に取り組んでもらいたいのであれば、仕事の任せ方にストーリーを持たせることが有効です。仕事を任せるときには、部下に前向きな動機付け(ストーリーの付与)をします。

伝えるべきこと

  • この仕事に取り組むことで、部下にとってどのような経験と成長につながるか
  • 強みはどのような場面で活かすことができるのか
  • 成果を出すことで組織にどのように貢献するのか
  • 経験をもとにどう成長していってほしいと考えているのか

面倒な仕事を押し付けられたと感じるのか、自分を信頼してチャンスを渡してくれたと感じるのかは、仕事の任せ方にかかっています。

ステップ③「教育」~指導で、部下の成長を促す

(1)現場における指導者の悩み、部下の悩み

インソースで実施した研修受講者アンケートを分析した結果、指導者は以下のような悩みを抱えていることが判明しました。

指導者の悩み

  • 部下が自分で考えようとしない(受け身・指示待ち)
  • 部下のレベルに応じた指示を出すのが難しい(指示内容が上手く伝わらない)
  • 部下のモチベーションが下がっている
  • イマドキ世代との常識の違いに戸惑う
  • 部下が何に悩んでいるのか分からない

このように指示の出し方やコミュニケーションの取り方、モチベーション向上など、部下指導のお悩みは多岐に渡ります。一方、部下の側では以下のような悩みを抱えています。

部下の悩み

  • 業務知識が不足していて、仕事が進まない
  • 仕事をどう進めたらよいのか、分からない
  • モチベーションを保つのが難しい
  • 周囲とうまくコミュニケーションが取れない
  • 上司に質問しにくい

このような部下に対しては、次節からご紹介する方法で戦略的に関与すれば、主体者へと育成することができます。

(2)行動経済学を活用し、部下を後押しする

行動経済学とは

行動経済学とは、「人は感情で動く」ということに着目した学問です。コロナ禍でマスク不足に伴い、トイレットペーパーなどの他の紙製品もなくなるかもしれないというデマが流れました。合理的に判断すれば、買いだめせず普段通りに購入するはずですが、実際には多くの人が店に殺到しました。このように人は感情で動き、時には非合理的な行動をとります。

部下も同様に、「モチベーションが下がったために、自分で考えようとしない」「失敗したくないから、言われたことしかしない」など感情に左右されてしまうことがあります。このような感情を行動経済学で分析すると、主体者へと育成する方法を見つけることができます。

ナッジ理論のフレームワークEASTを活用し、主体性を引き出す

行動経済学を現場でより使いやすくしたのが、ナッジ理論です。ナッジ(Nudge)の元々の言葉の意味は、「ひじで軽く突く」です。2017年にノーベル経済学賞を受賞した経済学者のリチャード・セイラー教授が提唱しました。「強制することなく、相手がより良い選択をできるように促すアプローチ」のことを指し、相手をそっと後押しして、行動を促します。

今回は、ナッジ理論のEASTというフレームワークを活用して、戦略的に部下を主体者へ育成する方法をご紹介いたします。

フレームワークEASTの具体例

(3)Easy:行動のハードルを下げる

行動経済学からみると、人はどうしたらよいか分からない、先の見えない状況に対し、「行動しない」という選択を取ると言われています。先が読めていない部下が主体的に動けないのは、当然のことです。先の読めない困難な仕事に対して、部下は高いハードルを感じますが、スモールステップに分解することで、超えられる壁になります。

スモールステップに分解するときのポイント

育成計画を立てる

育成計画を立てることで、目標を細分化でき、上司としてどのように部下をフォローすべきかが明確になります。以下のような育成計画目標シートを活用するとよいでしょう。

育成計画目標シート

仕事を因数分解する

仕事を主体的に推進できない部下に対しては、「マイかんばん」を活用し仕事のプロセスとゴールをイメージさせることが有効です。「マイかんばん」とは、何を、何のために、どれだけ、いつまでに、どのようになどを明文化した、仕事内容の指示・確認書のことを指します。

マイかんばんの内容

(4)Attractive:目的意識を持たせる

アンケートを分析すると、モチベーションについて部下は以下の悩みを抱えていることが分かりました。

モチベーションに関わる部下の悩み

  • 単純作業ばかりで、何のための仕事なのか分からない
  • やりたい仕事ができない
  • 仕事へのやりがいを感じられない

部下本人がセルフモチベートできればよいのですが、自分のモチベーション低下を周囲の環境のせいにしてしまうケースが多くあります。モチベーションが低下している部下には、「何のためにやるのか」という目的を明示することが有効です。

キャリアの視点から業務をとらえることで、「自分の仕事は、今後のキャリアとつながっている」という実感を持たせることができます。普段のコミュニケーションが少ない場合には、1対1面談の活用がおすすめです。時間をとりじっくり話すことで、部下は自分の業務から気づきや学びを発見し、次のアクションを自発的に考え、仕事に対する意欲を高めることができます。

(5)Social:周囲の期待を伝える

主体者になるためには、周囲の期待することを察知して、先回りして行動できなければなりません。行動経済学では、人は、周囲からどう思われているのかを気にして、期待通りに動こうとすると言われています。したがって、「周りがどう思っているのか、何を期待しているのか」が本質的に理解できれば、その期待に応えるように動けるようになります。

周囲の期待することを伝える方法

期待を伝える質の高いフィードバックを行う

周囲の期待を理解できていない部下に対しては、期待を伝える質の高いフィードバックが不可欠です。<Can:できたこと、Keep:維持すること、Change:変えること、Try:挑戦すること>の4つの視点から、仕事に取り組む姿勢、進め方、成果に対してフィードバックを行います。

部下の行動を観察し、「ほめる・叱る」を徹底する

自分の行動のどこがダメでどこが良かったのかが分かると、徐々に周囲の期待に応えるような行動ができるようになります。上司が日々、部下の行動を観察して、粘り強く「ほめる・叱る」を繰り返すことが大切です。

ほめ方のポイント

成果で評価されるような時代になってきているものの、なかなか思ったように成果が上げられない部下に対しては、プロセスをほめることが有効です。悪い結果に終わったこと(部下にとって報告したくないこと)でもしっかりと報告した場合は、報告したという行動を評価してほめましょう。

叱り方のポイント

ほめるだけでは、悪い行動をしたときに何が悪かったのかに気づくことができません。叱るときには、事実を具体的に伝え、それによって引き起こされる影響も含めてフィードバックします。

  • 悪い例:「~しなさい!」「~するのはだめだ」
  • 良い例:「今あなたは~だったね。それによって周りは~と感じていたよ」

(6)Timely:適切なタイミングで介入する

「与えられた業務は卒なくこなすが、主体性は低い」「やる気はあるが、成果に結びつきにくい」など、様々なタイプの部下がいます。個々人のタイプやスキルに合わせ、適切なタイミングで介入することで、主体者へと育成することができます。

部下のタイプやスキルに合わせた適切な介入のタイミング

本記事では、情報・経験・教育の3つのステップで、主体者を育成する方法をお伝えしました。まずは部下の経験不足を補うために、情報を浴びる環境を整え、経験を重ねながら仕事の幅を広げ、判断軸・決断力を蓄積していきます。また、個々のタイプやスキルに合わせて、周囲が介入し、成長スピードを加速させていきます。まずは、部下をよく観察し、コミュニケーションをとることからはじめてはいかがでしょうか。一人でも多くの主体者を生み出すことが組織の成果につながっていきます。

ニューノーマル時代の主体者の育成に挑むプラン

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ニューノーマル時代の主体者の育成に挑むプラン

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