リモートワークが一般化したことは、育児や介護、心の病気などが理由で働き方に制約がある方が、出社する必要がなくなったことで勤務可能となったり、通勤時間がなくなり時間の有効活用ができたり、ハラスメントなどの職場の問題がなくなったりと、働き手に多くのメリットをもたらしました。
一方、経営層や管理職からは、「働くチームメンバーが分断され、一体感や絆が失われてしまった」、「自宅など一人で働く機会が増え、仕事に対する能率や責任感、オーナーシップ(当事者意識)が低下した」などの新たな課題もお聞きします。
今回は、そうした理由で、現在、関心がさらに高まっているオーナーシップ(当事者意識)について詳しくみていきたいと思います。
オーナーシップは、直訳すると「所有権」という意味ですが、ビジネスでは、自らの属する組織、部署、チームの仕事や課題に当事者として責任をもって関わる意識のことを指します。
もう少し厳密に定義すると、オーナシップ(当事者意識)は、「率先性」「使命感」「熱意」の3つに因数分解することができます。
(1)率先性
まず、率先とは、人より先んじて行動することで、自分が担当している仕事はもちろん、何か「こうすれば良い」という新たな気づきがあった際に、誰よりも先に行動することです。
(2)使命感
使命感とは、組織からの重要なミッションや自分で目標設定したことなどについて、責任を持って最後までやり遂げる意識、気概のことです。自分に求められていることを継続してやり遂げることも当事者意識の重要な要素となります。
(3)熱意
「熱意」は、本気さの度合いのことで、自分のモチベーションの核となる気持ちのことです。熱意は、自分自身を突き動かす原動力となるとともに、人の心も動かす熱量ともなり、自身の行動、頑張り、ひたむきさに影響されて、「一緒にやってみたい」、「力になりたい」、「助けてあげたい」という他者を巻き込む力にもなります。自分一人の力は限られていますので、当事者として、物事をやり遂げるためには、他者の協力は不可欠なものとなります。
また、熱意には、諦めない「粘り強さ」や「執着心」といったマインドも含まれています。
(4)オーナーシップとは逆のマインド
オーナーシップについてコントラストを使って説明するために、自分だけでなく、周りにも良くない影響を与えてしまう、マイナス思考の意識、マインドについてみていきたいと思います。
まず、一つ目は他責ですが、言動として具体例を出すと、以下の通りです。
また、責任回避の姿勢も当事者意識とは対極にあるものです。
諦めることも当事者意識と対極にあるマインドとなります。
自分を守ることが先に立つと、行動が鈍ります。
上記のようなマインドでは、何か困難に直面した際に、「どうやったらその困難を乗り越えられるか」という前向きな解決策ではなく、失敗した時を恐れて、「なぜうまくできなかったか」を説明するような他責、責任回避、諦めの気持ち、自己防御になってしまいます。
冒頭で、オーナーシップ(当事者意識)は、率先性(誰よりも先に動く)、使命感(責任を持って継続できる)、熱意(自身のモチベーションの源、他者の協力も得られる)の3つの要素で構成できていると説明しましたが、このように、逆の視点から、オーナーシップをみると、「人のせいにしない」「諦めない、チャレンジする気持ち」「守りに入らずチャレンジする」という意識もオーナーシップの要素ということができます。
オーナーシップとはどのようなものかについてみてきましたが、次に、現場でオーナーシップをどのように実践するかについて具体化していきます。
(1)率先力を生み出せるマインドをもつ(率先性の実践)
まずは、率先力を生み出せるマインドについては、メンタルタフネスの前提でもあるように、良い心理状態が良い行動を生み出します。自分事として職場で率先力を発揮するためには、以下のような意識、マインドを持つ必要があります。
①何事も成長できるチャンスだと考えられる
自分を追い込むようなマイナス思考はせず、楽観的で、どのような困難や挑戦でも、それに関わることで自身の成長につながると考え、積極的に行動する姿勢のことです。
②変化を受け容れるマインド
自分の得意なことだけでなく、例えば、異動や職種転換などで、自分の苦手なことやあまり気乗りしない仕事をしなければならなくなった際にも、変化を楽しめるような柔軟性やチャレンジする姿勢が重要となります。
③自分のテリトリーを作りすぎない
自分の仕事を丁寧に慎重に行うことはもちろん大事ですが、自分の仕事の領域を明確に決め過ぎると、視野が狭くなるとともに、仕事の幅を広げたり、新たな経験やスキルを獲得したりする様々なチャンスを逃すことになります。
ただし、何事にも率先して取り組むことは、自分の負担を増やし、自分のキャパシティの限界を超えてしまうこともあります。自分の限界を見極め、安請け合いしないことや、自分で引き受けた仕事で、解決できないことについては、自分で抱え込まず、上司に相談するなどして、自分一人でそのことに深入りしすぎて疲弊しないことも重要となります。
※参考:メンタルタフネスとは~能力を最大限に発揮する、コンディション調整
(2)継続的に行動し、成果を出す(使命感の実践)
次に、当事者意識の2つ目の要素である使命感の実践として、自分で責任を持って継続的に行動し、成果を出すために必要なことについてみていきます。
①継続できるために、仕事の面白さを感じながら仕事をする
組織で自分が担当する仕事について、初めから興味、関心が高かったり、「ずっとやってみたかった」仕事に就いたりということはまずありません。最初は嫌だと思っても、一度はじめたら、手応えや結果を出すまで、あきらめず続けてみましょう。
皆さんも、これまで、最初は嫌だったが、やり続けるうちに/やり切ったら自分の大きな力となった、自分の新しい強みができたという経験もあると思います。仕事を続けるうちに仕事の勘所や深さ、面白さに徐々に気づいていきます。そのためには、先ほどもみましたが、「何事も成長できるチャンス」と捉え、それに一生懸命取り組むことが重要です。
人が仕事を通じて成長するフローは、下記の繰り返しと思っています。
a.まずは自分でやってみる
b.仕事の難しさと奥深さを知る(壁を感じる)
c.課題について、自分で本を読んだり、研修を受けたり、職場のその道の達人に話を聞いたりして成長を図る
d.仕事の本質を知って、自分なりの工夫ができるようになる
e.また自分なりに仕事の難しさや課題を感じる(新たな壁)
f.壁を乗り越えてさらに成長する→g.また新たな壁が現れる
h.乗り越えて成長する......
また、普段から、広く自社の事業に関わる事や、自分の仕事に関する最新の知識、技術の情報に常にアクセスし、吸収するように心がけましょう。
②当たり前のこと、やるべきことを粘り強く確実にやり続ける
仕事で大きな成果を上げることは素晴らしいことですが、なかなかそれを一足飛びに行うことは難しいです。まず、心がけたいのは、当たり前のこと、本来やるべきことを地道に続け、成果を生み出すことです。仕事で成果を出すには、一定の時間がかかります。その間、粘り強く努力を続けられることが、当事者意識をもって仕事をやり遂げることにつながります。
③一過性の頑張りでなく、継続して安定的にパフォーマンスを発揮できる
仕事で夜遅くまで働いたということは頑張った証ですが(残業時間をできるだけ少なくすることが奨励されている今では評価されないかもしれませんが)、それが原因で翌日体調を崩してしまったのでは意味がありません。
ものすごく頑張ることがやり抜く力ではありません。継続して頑張れることがやり抜く力です。ある特定の1日に無理をして頑張るより、継続的に一程度の成果を残せることがやり抜く力であり、当事者意識の醸成につながります。
(3)周りを巻き込み、集団で力を発揮する(熱意の実践)
仕事は一人でできるものではありません。
その意味で仕事のオーナーシップ(当事者意識)は、自分事だけではなく、周りのメンバーにも伝染させて、当事者意識を共有することまで含むと考えます。
それでは、自ら周りを巻き込むためにはどのようなことが必要なのでしょうか。
相手を巻き込むためには、熱意をもって相手を説得する必要がありますが、熱さだけでも人はついてきません。相手を説得するためには、以下の点に留意する必要があります。
①納得性 (根拠のある話)
あいまいな話だと人は動きません。実際に相手に協力してもらうことで「どれくらい成果が上がる見込みがあるのか」、「期限や業務の進め方など、プロセスに無理がなく、計画内容に安心感がある」、「実現可能性が十分にある」というようなことで、相手は話を承諾するかどうかを決めます。
②インパクト(新奇性が感じられる)
相手がサプライズを感じるような新しい内容や切り口、深さなども必要です。
③受け入れやすさ (共感できる内容)
「相手に関わること」や「相手がイメージしやすいこと」、「相手がメリットを感じること/できるだけデメリットを感じないこと」、「仕事のコンセプト・方向性が納得できること」、「相手が協力しやすいようなスキームであること」など、相手の受け入れやすさも重要です。
その他、④成功を予感させるイメージを伝えられる、⑤自分に協力しても相手の負担はそれほど増えない、⑥仕事の意義を具体的、論理的に説明できるなども相手を納得させる重要な要素となります。
以上、本章では、オーナーシップ(当事者意識)を具体的に実践するためのマインド・行動として、「率先力を持続して生み出せるマインドをもつ」、「責任を持って継続的に行動して成果を出す」、「周りを巻き込み、集団で力を発揮し、成果を大きくする」ことについてみてきました。どれも当たり前のことが多いですが、これを実践したり、継続したりすることは容易ではありません。
オーナーシップ(当事者意識)を自分が担当する部下・後輩にも持ってもらうためには、自分が職場で役に立っている、活躍できている、やりがいをもって仕事ができているという「自己効力感」を部下・後輩本人が感じているということが重要となります。
自己効力感とは、「組織に貢献できている/役割を果たせている」という実感を持って、自信をもって熱心に仕事に取り組んでいる状態のことです。
自己効力感の高い状態を維持することで、「仕事の質を高めたり」、「目標達成まで粘り強く やり遂げたり」、「困難なミッションに対して前向きに取り組むこと」ができるようになります。
それでは、以下で、自己効力感を部下・後輩に感じさせるポイントについてみていきます。
①組織の共通目標に対する個々の役割認識を明確にするメンバーは、自分に求められている役割期待に応えられるという実感を持つことで、チームの中での自分の存在意義を感じられるようになります。そのためには、組織の共通目標を果たすための個々の役割を明確にしておく必要があります。
働き方に制約がある人材は、様々な事情から、一連の業務プロセスを完遂することができないケースもあります。逆に、「この一部分なら誰よりも上手にできる」といった、「得意分野」もあります。画一的にマネジメントしようとするのではなく、できることとできないことをくみ取ったうえで、共通目標の達成のために貢献できることを部下・後輩とともに考え、公正に評価することが大切です。
②本人の「役割認識」と組織の「役割期待」をすり合わせる自分に求められている役割を果たし、貢献意欲を満たされることで、「自分もチームの一員」だという意識が一層高まります。
しかし、部下・後輩が自分で「頑張っている」「組織に貢献している」と感じていても、上司であるあなたや組織が評価しなければ、組織貢献をしたことにはなりません。そこで、上司の「役割期待」と、部下の「役割認識」がずれないように、下記のことを行う必要があります。
上記を行うことで、上司の役割期待と自分の役割認識がミスマッチなく、成果が確実に評価につながり、メンバーが自己効力感を持つことができるようになります。また、そのすり合わせをするために、定期的に実施したいのが「1対1面談」となります。
③こだわり、やりがいを仕事で実現させる多くの場合、相手の強みにマッチングさせて業務を依頼することは困難なことが多いと思います。それでも、自分の仕事に対してこだわり・やりがいを見出していくことができるよう、メンバーを導くのがリーダーの務めです。
実際は、下記の2点のような形で、こだわり・やりがいを仕事で発揮してもらうのが現実的でしょう。
1対1面談の場で、メンバーに任せる業務の目的や意義について、リーダーが熱く語ることで、やってみたい!と思わせ、本人のモチベーションを引き出すことが重要です。
このように、部下が組織に対して貢献していることを具体的に実感し、根拠ある自信をつけることが、自己効力感が増すことやひいては当事者意識を高めることにつながります。
④感謝の言葉が部下の継続的な自己効力感を生み出す仕事をアサインされ、その仕事が完了した後、上司や先輩から感謝の言葉を部下に伝えることで、部下・後輩は「このチームに貢献ができた」、「価値のある仕事ができた」という実感を得ることができます。
そうすることで、部下・後輩は自信がつき、次の仕事にも前向きに取り組もうという気持ちになります。結果、良い循環が生まれ、仕事のレベルやチャレンジするスピリットを高めることができるのです。
感謝の言葉は、「ありがとう!」「助かったよ!」「感謝するよ!」などのシンプルなもので十分ですが、部下・後輩の良い行動を具体的に伝えましょう。
・・・など、自分が見て確認した状況や事実を、臨場感がでるようになるべく具体的にほめると、より相手の自己効力感が高まり、効果的なので、是非試してみてください!
部下・後輩に対して、「責任感が弱い」「当事者意識がない」という上司の嘆きはよくあるビジネスの一コマですが、「責任感とは」「当事者意識とは」何かということについて、相手にしっかりと説明できる上司もほとんどいないと思います。
今回は、このような当事者意識(オーナーシップ)について、職場で実践するためには、どのようなマインドや行動が必要かについて中心にみてきました。
そんなことはわかっているという当たり前のことも多かったと思いますが、それを愚直に、日々繰り返すことはとても難しいことです。「べき論」ではなく、できるだけ具体的にオーナーシップの話をしましたので、是非、職場で実践いただければ幸いです。
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