前回に続き、内田樹氏の著作『修業論』(光文社新書 2013年)から経営実践に役立つ視点をご紹介します。
「見える化」で見えなくなるもの(2)
著者:インソースマネジメント研究チーム
1.「原因→結果」という因果論的な思考には落とし穴がある。
2. 経営実践においては、「指標」を常に見直す習慣を付けることこそが有益である。
- ■哲学がビジネスに役立つ
- 内田樹氏の考え方はビジネスに従事しておられる方々にとっても,広い視点から是非参考にして頂きたい点が多々あると感じています。哲学の発想法が,広くビジネスに「役立つ」のです。
- ■科学的な思考様式の落とし穴
- 内田氏の根底にある考え方は,私なりに要約するなら「科学的な思考様式には落とし穴がある」ということです。
- 自然現象であれ社会現象であれ,現象をつぶさに観察し,そこに潜んでいる法則を発見しようとするところに,科学の考え方の基礎があります。しかし,こうした法則定立の考え方にこそ,大きな問題が隠されていると内田氏はいうのです。
- ■「入力→出力」という発想法
- 法則定立とは,入力(A)があれば,出力(B)が生まれるというように,「原因→結果」という因果論的な思考で,現象を見つめるということを意味しています。こうした「入力→出力」という図式は,あまりにシンプルでわかりやすいため,現代社会の至るところにこうした発想法が根付いてしまっています。スポーツ選手の鍛え方には,こうした因果論的発想法が典型的に見られます。
- ■体を"鍛える"スポーツ選手の落とし穴
- しかし,スポーツ選手の持つ,努力すれば成果が得られるという相関スキームには,重大な欠陥が隠されています。人間をシンプルなメカニズムとして捉え,努力と成果の間の相関を数値的に表現したいという欲望に駆られてしまう,という欠陥です。
- ■努力すれば必ず成果に繋がるか
- 自分の意思や努力で"成果"が,数値という目に見える形でわかりやすく成し遂げられたという事実に,多くのスポーツ選手は"アディクト"してしまいます。その結果,「もっと入力を」という要請以外の発想を思いつけなくなる・・・このことこそが,「体を鍛える」スポーツ選手の陥穽であると,内田氏は述べています。
- ■ビジネス実践への含意
- 内田氏の言説は,経営実践に対しても深い含意があります。1つには,「単純にAならばBという因果論的な発想法をとらない」ということでしょう。
- そして,もう1つは,いま用いられている「見える化」等の「指標」を,常に見直そうとすることです。その指標や測定尺度でよいか検討する習慣を付けることこそが"有益"なのです。