ENERGY vol.14(2024年夏号)掲載
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採用アセスメント~面接を信頼してよいか
採用時の優れた選抜方法とは
採用において、企業と求職者の間でやりとりされる情報には、①学生時代の勉強内容のように、ありのままの自分を語ることが自然なタイプのものと、②自身の能力・資質のように、求職者にとって、自らを魅力的に見せるインセンティブが極めて大きいタイプのものとがあります。
後者のような場合に、「既知の情報に基づいて、人材の優秀さや魅力度を推測すること」を一般にアセスメントと呼びます。面接、適性検査、エントリーシート(ES)など、アセスメントのツールには実に様々なものがあるわけですが、そうした中で、優れた選抜手法とは「目の前にいる求職者が、現時点あるいは将来時点で優秀になる人であるかどうかということを判断するために、企業にとって有益な情報を提供する手法」に他なりません。
アセスメントツールを評価するために
では、この場合の「有益な情報」とは具体的にどのようなものなのでしょうか。この点について考える際、採用の科学的研究でしばしば取り上げられる、①妥当性②信頼性③当事者の納得性という3つの観点が役に立ちます。それぞれについて説明していきましょう。(図1参照)
採用時に有益な情報 ①妥当性
そのアセスメントは、測りたいものをちゃんと測れているか。
①業績予測:アセスメントの結果は、実際の職務業績と相関しているか
②十分な情報の収集:採用を判断するために必要な情報をその手法で集められるか
●採用時の評価と入社後の業績評価に相関があるかが重要
まず重要になるのが、そのツールによって評価した結果と入社後の職務業績との間に一定の相関があるか、ということです(①業績予測)。
厳密には、面接や適性検査といった採用時の評価と入社後の業績評価との関係性を統計的に分析することをお勧めしたいのですが、難しい場合には、採用時の評価の高低が入社後の社員評価の高低の実感とあっているかを確認するというのもありでしょう。
●面接時の多様な質問は業績予測の精度を低下させる
悩ましいのは、業績予測を追い求めるともう1つの基準である十分な情報の収集が犠牲になり、反対に十分な情報収集を追い求めると今度は業績予測が犠牲になるというように、妥当性を構成する2つの基準の間にトレードオフの関係があるということです。
例えば、面接を行う際、求職者の人となりを多角的に理解するためには、過去の経験や価値観、趣味に至るまで、質問を出来るだけ多様化し、その場の当意即妙なやりとりも含め、様々な情報収集を試みる必要があります。
ところが、多様な質問から構成され、かつ質問内容が柔軟に変更されるタイプの面接は、面接官の焦点を本来測定しようとしている能力・資質以外の部分に向けさせてしまい、結果、業績予測の精度が低くなるということが過去の実証研究からわかっています。
●アメリカ企業の採用では能力や資質のみを問う
こうした反省から、アメリカ企業の採用においては、面接を能力や資質のアセスメントに限定し、過去の経験や価値観、趣味などの話題については、面談や座談会など別の機会で取りあげる、といったことが行われています。対して日本企業においては、業績予測と十分な情報の収集の二兎を追い求めようとした結果、前者が犠牲になる、というケースが散見されます。
採用時に有益な情報 ②信頼性
そのアセスメントは、どこまで信頼のおけるものか。
①再テスト信頼性:同じ人を同じツールで別の時に評価した時、同じ結果になるか
②評価者間の一貫性:同じ人を他の人が評価したとしても、同じ結果になるか
③情報汚染への対応:測定したいことと別のノイズ情報が混入していないか
次に、そうやって測定された優秀さが、採否を決定する基準として信頼に足るものになっているのかを考える必要があります。具体的には、以下の3つの基準について検討することになります。
●質問内容のばらつきによって結果の相違が生じる
1つ目の「再テスト信頼性」は、同じ求職者を全く同じツールで評価した場合、同じ結果になるかどうかということです。
例えば、質問内容が全く統一されていない非構造化面接の場合、面接官がその場の流れに合わせて質問内容を考えることになり、結果、求職者の応答にも差異が出てしまいます。そのため、同じ面接官と求職者の組み合わせであるにもかかわらず、面接の結果が全く異なる、ということがありうるわけです。
●曖昧で多義的な評価基準は結果が分散する
2つ目は、評価者間での評価の一貫性です。「コミュニケーション能力」のように、曖昧で多義的な評価基準を設定した場合、同じ会社内であっても面接官によって、「何をもってコミニケーション能力が高い」とみなすかに関するコンセンサスが得られず、評価結果にかなりの分散が出るということが多々あります。そもそも「コミュニケーション能力」とは何かという点についてコンセンサスがないのですから、当然といえば当然です。
●測定外の情報混入によって精度が低下する
3つ目の「情報汚染への対応」は、企業側が測定しようと思っていた情報以外のノイズが混入したことにより評価に影響が出ていないかどうか、ということです。先に述べたように、相手について、多くのことを知ろうとすればするほど、本来知るべきことのアセスメント精度が低下するということです。
採用時に有益な情報 ③当事者の納得性
各種アセスメントの結果を求職者と企業側双方が信頼しており、その結果を納得のいくものとして受容しているかどうか。
①求職者の反応:求職者はそのアセスメントの結果に納得できるか
②評価者の反応:評価者はそのアセスメントの結果に納得できるか
●求職者は面接結果に納得していない
学生たちと話をしていて、「面接で落とされたのだが、理由がよく分からない」とか、「自分自身は出来が悪いと思っていた面接に、なぜか受かった」といった感想を耳にすることが多々あります。少なくとも日本の求職者は、「一度や二度の面接で、本当に自分の能力や資質を見抜けているのか」と考えており、面接の結果に対して素直に納得していないことが多いようです。
●企業側は面接結果を信頼する
興味深いのは、評価者である企業側が、これと逆の反応を示すということです。日本企業の採用担当者は、総じて、能力や資質の測定ツールとして、適性検査よりも面接の方を信頼する傾向があるようです。自分自身の目で、実際に求職者を見た方が、その人の「優秀さ」について確信が持てる、ということなのでしょうか。
このような基準に従って、自社の既存のアセスメントがいかなる意味で「有益な情報」を提供しているのか、確認してみることをお勧めします。
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