地球沸騰化に向かう高気温が続いた。35℃を超す日々を経験すると、30℃を涼しいと思える。「慣れ」という順応力のおかげだが、何とか凌いでしまうことによって危機を看過し、さらなる環境悪化を許容している気もする。地球は沸騰にどこまで耐えられるのだろう。
外界の環境変化・状況変化は、年齢・性別に関わらず同じように個人に直接影響するが、加齢による心身の変化は高齢者層特有の課題かも知れない。視力・聴力・握力・脚力など体力とともに、記憶力や発想力など社会人またはビジネスパーソンに必要なさまざまな能力も劣化していく。もちろん豊富な経験値から胆力は増すのだが、世間や行政が定める高齢者の枠とは別に、多くの人は自分が思っている自分と現実の自分が乖離していくことを認めざるを得ない。
■誰もがハマるひとごと沼
ある元気な知人がバスで席を譲ってくれようとした若者に「(失礼な!)そんな年寄りじゃありません!と断った」と胸を張った。(失礼なのは、どっちかしら。どこから見ても年寄りなのに、若者の優しい気持ちにお礼も言わず悪態をつくなんて)
定年後に家族から冷たくあしらわれ、家庭内で孤立していると愚痴る元会社役員の知人もいた。(正義は自分にあると思い込んで他人の話に耳を傾けず、一方的な文句や命令ばかりだからじゃない?)
他人の気持ちより自分の主張だけを優先する。多くの人が自分は絶対こんな年の取り方はしないと思っているが、知らぬ間に最盛期のプライドが身についていて、他人事だったはずの「だから年寄りは...」の証拠を自覚なしに曝してしまう。他人事ではないのだ。
■60代からの壁
先頃、当社で20代・30代・40代・50代の各年代別に『壁を乗り越えた経験』のエッセイ大賞の募集があった。各世代でそれぞれの壁を各々のやり方で超えた受賞作を読んで、経験談を共有することは同世代の励みになるだろうと思えた。が、60代以降がないことに気づいた。
既にビジネスの最前線を退いたとはいえ、今の60代はまだ元気で若い。しかし活躍中の現役でも、内心そろそろ次の世界を計画しているだろう。次のステップではなく、次の世界であることを認識したいと思う。科学技術は進歩し、時代の趨勢も変化している。自分が望むことも自分に望まれることも、従来とは違っていることを重々理解したい。
起業・転職はもちろん、自社に在籍し続ける場合も(積み上げた経験は自分の財産として置き)、いったん今までの自分を捨てて現時点の社会または組織での初心者だと考えた方がいいのではないか。上手に新しい世界の1年生になれるかどうかが、60代以上の層にとっての壁に思える。
■幸せになるスキル
先日、ATMに眼鏡ケースを忘れた。別の日には、買ったばかりのレターパックをスーパーのサッカー台に忘れた。幸い両方ともすぐに戻ったが、暑さのせいか・加齢のせいか、(生来のウカツもあるのだが)我ながら自分の不注意にガッカリした。
しかし私はかなり前、経年劣化を自認した頃から、別の世界に入ったことを理解して考え方を変えた。他愛ない生活上のことであっても、ミスはない方がいい。まして仕事上なら、なおさらにミスは避けたい。が、ミスを皆無にすることは年齢に関わらず不可能だ。自助努力は必要だが、ミスになるべく早く気づくこと・ミスを正しく直すこと・分からないことは若い先輩のアドバイスに従ってみることを心掛けている。つまりミスや不出来に固執し数えあげて不機嫌になるより、不備に気づいたこと・修正できたこと・相談して解ったことを喜ぶことにしている。何かを失くしても見つかってよかった、良くないことがあっても勉強ができた、この程度で済んでよかった、と思うことにしている。すると日々の幸せが増えて、楽しく反省し感謝できることになる。
歳を経たら、どいつもこいつもと肩肘を張ったり、助けを拒んで耳を塞ぐよりも、今なお新たに成長する機会があることを誇りに思おう。私にはこれが60代からのビジネスパーソンの品性・必要なスキル・上手な壁の乗り越え方ではないかと思えるのだが。どうかなあ。
2023年8月23日 (水) 銀子