では、「成果主義をどのように考えていくべきなのか」「成果とは何なのか」ということですが、成果とは平たく言いますと、「いい仕事」のことです。いい仕事をした時にその人を評価して、社員全体をいい仕事へと仕向ける考え方が、本来の成果主義にあるべき姿です。
「いい仕事」の定義は各社各様で、状況に応じて変わるわけですが、一般的な条件としてはいくつか考えられます。「会社のビジョン、バリューとの調和」や、特に民間企業ですと、「顧客満足に寄与する行動」、また、「本人の動機特性との整合性」などです。ポイントは結果だけを見るのではなく、プロセスも評価をする仕組みが存在することが、いい仕事をするための必要条件であります。
ある会社の行動評価基準ですが、項目の中に、「物事を自分自身で判断し誰に対しても率直かつ明確に意見を述べているかどうか」、「高い目標を掲げ失敗を恐れず積極的に取り組んでいるかどうか」などがあります。ただ、具体的に評価するために、評価者の主観がどうしても入り込んでしまう割合が高いことが難点です。
日本企業に導入すべき「成果主義」とは、社員が顧客満足と企業価値の拡大に直結する「いい仕事」を行いたいと動機付けられるような、成果指向型"組織風土づくり"のポリシーです。MBOや業績連動型賞与などの単なる「仕組み」ではありません。
特に人事制度を導入する上での注意点は、仕組みや制度を動かすのも、それらに動かされるのも人であるということです。
人間には慣性というものがありますから、急には変われません。ある日突然、「今日から成果主義を導入します」と言って、急に評価の仕組みを変えられても、すぐに行動に移すことはできません。
成果主義導入実現のためには、まず社員各自、上司・部下の双方が"自律"という姿勢を持つことが非常に重要になってきます。
成果主義を導入し成功へと導く上でのキーポイントについてですが、成果主義を単なる人件費削減の手段として考えないこと、そして成果主義導入は組織風土を変革させるチャンスであると捉えることが重要だと考えます。
そして忘れてはならないのは、日本企業の強みは協働力・組織力にあり、成果主義の導入でこの強みをそぐようなことがあっては逆効果であるということです。本当の日本型成果主義は、「いい仕事」を評価基準とする、人材育成を伴ったものである必要があります。
成果主義とともに、最近エンプロイヤビリティー(雇用されうる能力)の話がされる機会が多いのですが、時間の関係上ごく簡単にポイントだけ申し上げます。
従来の日本的経営の企業と従業員との関係においては、従業員が企業に依存しておりました。それが自分の能力開発に対して、従業員自身もある程度責任を持たなければならないという時代になってきています。これがポイントです。
エンプロイヤビリティーの議論と関わりがあるのが、ビジネススクール教育です。神戸大学でもビジネススクールはやっているのですが、大事な点はアメリカと同じビジネススクールをやってはいけないということです。アメリカでは受講する段階ですでに転職のことを考えていますが、日本の場合はどちらかというと、他の会社の人とのコミュニケーションなり人脈作りがメインの目的として来ておられる方が多いようです。