今回は神戸大学大学院、上林憲雄教授より「ヒト、モノ、カネ、情報」の四大経営資源の相互関係についての考察をお伝えいたします。
経営資源考―4つの経営資源とその関係―
著者:インソースマネジメント研究チーム
1.「ヒト・モノ・カネ・情報」という順序には、れっきとした意味がある。
2.「モノ」や「カネ」・「情報」は、「ヒト」が動かすことによって初めて意味をなす経営資源である。
- ■4つの経営資源
- 周知のように、一般に企業経営にとって役立つさまざまな要素や能力のことを「経営資源」と呼びます。ヒト、モノ、カネ、情報の4つが四大経営資源と呼ばれていますが、これ以外に新技術や企業文化・風土なども、最近では経営資源に含めて議論されることがよくあります。
- 読者の皆さんは、この4つの経営資源の関係について考えてみたことはおありでしょうか。
- ■意味のある順序
- この4つの経営資源は、必ず「ヒト・モノ・カネ・情報」という順序で書かれます。つまり、「ヒト」が必ず最初にきて、最後は必ず「情報」で終わります。実はこの順序にはれっきとした意味があるのです。
- ■情報資源はいちばん最後
- まず簡単な方から説明しましょう。「情報」がこの4つの最後にくることについてです。それには、情報技術(IT)がコンピュータとして企業経営に適用されるようになったのが概ね1980年代から、という事情が大きく関係しています。ヒト・モノ・カネよりも後に認識され始めたため、いちばん最後に挙げられるのです。では「ヒト」が最初にくるのはなぜなのでしょうか。
- ■他の資源を動かす原動力としてのヒト
- この問いに対する皆さんの解答は、おそらく「ヒト」資源が最も重要で基本的な資源だから、ということでしょう。・・・正解です。ただし、どういう意味においてヒト資源が重要で、基本的であるかをきっちり説明できるでしょうか。
- 実は、「モノ」や「カネ」・「情報」は、「ヒト」が動かすことによって初めて意味をなす経営資源です。いくら大金を持っていてもそれを使うのはヒトですし、たとえ最新鋭の設備を備えた自動化工場であっても、最初にボタンを押すのはヒト、即ち機器を動かす従業員が必要となるはずです。
- ■ヒトがデータに意味づけをして情報になる!
- 同様のことが「情報」についてもいえます。例えば、表計算ソフトから、はじき出された数値は、単なる「データ」に過ぎません。それを「このデータは、こういう観点からみるとこうだから、今後の販売促進に役立つはずだ」とヒトが解釈を付けると、ようやく生のデータから情報へと進化を遂げるのです。
- ちなみに、「情報」がさらに進化を遂げると「知識」(ナレッジ、knowledge)となります。一時、日本企業でも「ナレッジ・マネジメント」の必要性が盛んに叫ばれていました。
- ■昔は重視されていなかったヒト資源
- ただ、ヒト資源の有用性が前々から認識されていたわけではありません。むしろ、ヒト資源は以前の経営(特にアメリカの経営)では全くつまらない一資源と思われてきたという経緯があります。そこでは、ヒトは単なる「労働力」として認識されていたのです。この労働力という言葉には、「誰がやっても同じ結果が得られる」というニュアンスがあります。また、"力"という字が入っていることからしても、そもそも肉体的な作業を含意する用語であることが窺えるでしょう。