前回まではカリスマ的リーダーシップの弊害についてお話ししてきました。今回からは組織に有効なリーダーシップについて論じます。
『ビジネスに活かすリーダーシップ』第4回帰納的思考の現場型リーダーシップのすゝめ
著者:インソースマネジメント研究チーム
1.「フロネティック・リーダーシップ」は、仮説設定と修正を反復することで実現される。
2.「率先して試せること」は、イノベーターとして、また、組織の中でリーダーシップを発揮する上で、最も重要な能力のひとつ。
- ■フロネティック・リーダーシップ
- 「フロネティック・リーダーシップ」とは、アリストテレスのフロシネス(賢慮)という概念に基づいて野中郁次郎一橋大学名誉教授が提唱したものです。この賢慮型リーダーシップには、①「善い」目的をつくる能力、②場をタイムリーに作る能力、③ありのままの現実を直観する能力、④直観の本質を概念化する能力、⑤概念を実現する政治力、⑥実践知を組織化する能力、の6つの能力が必要とされます。
- フロシネスは理念と実践の相互作用がなくして生成されることはあり得ず、その方法論は実践的推論です。実践的推論による結論は、演繹的三段論法のように論理的真偽ではなく、仮説検証型フィールドワークなどにより、仮説設定と修正を反復することにより導かれます。
- ■失敗する組織の本質
- 旧日本軍の戦史研究でも有名な野中教授は、第二次世界大戦における「戦い方の失敗」を招いたのは、「悪しき演繹主義」をはびこらせた官僚的組織原理に本質的な原因があるとしています。一方、失敗するリーダーとして例示される多くの愚将への数少ない反証として、イノベーティブな現場型リーダーとして数は少ないながらも名将の存在が指摘されています。その共通点は、自らが現場に足を運び、その中で考え抜き、真理に近づくためのアプローチを取ることです。
- ■イノベーションに発揮する現場型リーダーシップ
- ビジネスにおいても、論理分析的に正しい答えを導こうとする演繹的思考ではイノベーションを興すことは難しく、多数の試行錯誤の中からまぐれあたり的に発生することがほとんどです。新しいコンセプトや物事の枠組みや見方を樹立しようとする帰納的思考が重要です。
- 本田宗一郎氏は、「人生は見たり、聞いたり、試したりの3つの知恵でまとまっているが、多くの人は見たり聞いたりばかりで一番重要な“試したり”をほとんどしない。ありふれたことだが失敗と成功は裏腹になっている。みんな失敗を恐れるから成功のチャンスも少ない」と述べています。イノベーターとしてだけではなく、組織の中でリーダーシップを発揮する上で「率先して試せること」が最も重要な能力のひとつと考えられます。