『世界の経営学者はいま何を考えているのか』を読み、改めて「経営学はビジネスの役に立つのか」について考えてみました。
「経営学はビジネスの役に立つのか」
著者:インソースマネジメント研究チーム
1.イノベーションを促すためには、「知の探索」と「知の深化」の2つのバランスを保つ「両利きの経営」が重要。
2.経営学はビジネスの役に立つが、ユーザー側に相応の知性が不可欠であると自覚することも必要。
- ■世界の経営学者はいま何を考えているのか
- 本書では「日本で一般的にはあまり知られていない米国などの経営学研究において、その先端では主に何が議論されているのかを、可能な限り平易に解説」されています。しかし、ドラッカーを米国経営学者は読まない(引用しない)、ハーバードビジネスレビューは学術誌ではない、といった著者の見解に対して、国内メディアが注目し、評判を集めています。むしろ本書では、ひたすら科学となることを目指す米国の経営学と、ケーススタディ中心の日本の経営学、という「米国と日本の経営学におけるアプローチの違い」を、あらためて浮き彫りにしている点に注目するべきでしょう。
- ■実践と理論のバランス
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個人的な話ですが、経済学と経営学を学問として捉える価値があるのか疑問に感じた時期もあります。しかし、科学でさえも、その前提となる仮説を実証することは現実には困難、と考えると気が楽になり、以降はビジネスにおいて大きく道をはずさないために、概ね正しいであろうという「導き」を研究成果に求めたいと考えるようになりました。
現場でひたすらに帰納的に解を探しているだけでは、絶望的な気分に至ることもある一方で、机上の空論よろしく演繹的な議論に拘泥していても、「失敗の本質」のように日本軍の轍を踏む可能性が高まります。本書でも、「知の探索」と「知の深化」の2つのバランスを保つ「両利きの経営」がイノベーションを促すうえで重要であることを指摘しています。企業組織が「知の探索」を怠り、本質的には「知の深化」に傾斜しがちであることは宿命で、これは演繹的思考に囚われることと通底していると思われます。 - ■役に立つ研究成果を発見し、正しく利用すること
- 日本の経営学が、いわゆる「ガラパゴス状態」にあるのであれば、それは利用する側(ビジネス界)に需要がないことが原因かも知れません。あるいは、見るべきものが多くないと考えられ、結果的にあまり重視されていないのかも知れません。いずれにしても、日本でドラッガーやビジョナリー・カンパニーを好んでいるのは、どちらかというと経営学者よりも実務家ではないかというのが個人的な実感です。どんな学問領域でも、「役に立つ研究成果を発見し、正しく利用することができる」というユーザー側の資質が問われることは当然です。よって、「経営学はビジネスの役に立つのか」という冒頭の命題に対しては、「真なり」と考えるべきですし、ユーザー側にも相応の知性が必要であると自覚するべきと思います。