ブルー・オーシャン戦略の「ティッピング・ポイント・リーダーシップ」について考察し、リーダーシップ論への理解を深めるための足がかりをつかみます。
第5回 戦略実行のためのティッピング・ポイント・リーダーシップ
著者:インソースマネジメント研究チーム
1.「ティッピング・ポイント・リーダーシップ」では、戦略の実行にまつわる4つのハードルを乗り越えることがその要諦となる。
2.「ティッピング・ポイント・リーダーシップ」の発揮とは、部分的な変革を、最終的に組織全体へ波及させる「人を動かすレバレッジ効果を狙う戦略」といえる。
- ■ブルー・オーシャン戦略にみるリーダーシップ論
- INSEADのキム教授らが提唱したブルー・オーシャン戦略とは、既存の競争市場が血で血を洗う「レッド・オーシャン」であることから、未開拓で競争のない市場である「ブルー・オーシャン」の発見、ないしは創造を目指す戦略であることはとても有名です。ブルー・オーシャン戦略では、戦略実行のための重要な概念として、組織面のハードルを乗り越えるための大転換を実現する「ティッピング・ポイント・リーダーシップ」と、組織内の共鳴を導き出す「フェア・プロセス」が提示されています。今回はリーダーシップ論への示唆を得るため、ブルー・オーシャン戦略の「ティッピング・ポイント・リーダーシップ」について考えます。
- ■ティッピング・ポイント・リーダーシップとは
- ティッピング・ポイントとは、転機という意味でターニング・ポイントと同義語ですが、ティッピング・ポイントには大きな転換点というより強い変化の意味が加わります。M・グラッドウェルは、売れなかったモノが突然爆発的に売れたり、犯罪率が著しく増減したりといった謎の多い社会現象を説明しようと、この概念を提唱しました。
- 一方、ブルー・オーシャン戦略では、組織における戦略実行の手段として「ティッピング・ポイント・リーダーシップ」が位置づけられています。そのコアとなる「どのような組織でも、一定数を超える人々が信念を抱き、熱意を傾ければ、そのアイデアは大きな流行となって広がっていく」という考え方は、上述のティッピング・ポイントに基づいています。組織の中でバリュー・イノベーションが起きたとき、多かれ少なかれ起こる既存勢力からの抵抗を抑えるため、「ティッピング・ポイント・リーダーシップ」では、戦略の実行にまつわる4つの障害(意識のハードル、経営資源のハードル、士気のハードル、政治的なハードル)を乗り越えることがその要諦となります。
- ■人を動かすレバレッジ効果
- 組織変革にまつわる従来の理論は、大勢のメンバーの心に直接訴えかけようとするため、経営資源の膨張を招きます。また、抵抗勢力に改革の存在を認識させ、その芽を早い段階で摘まれかねません。せっかくバリュー・イノベーションが起こせたとしても、組織においてそれを結実させるためには、人の問題と対峙することは不可避であると考えねばなりません。
- 人と組織に関わる人間が、戦略思考を備えたリーダーシップが発揮できなければ、戦略実行も覚束ないものとなります。今回取り上げた「ティッピング・ポイント・リーダーシップ」を発揮するということは、局地戦により仕掛けた変革を、最終的には組織全体へ波及させるという、ある意味「人を動かすレバレッジ効果を狙う戦略」ともいえます。こうした戦略思考のリーダーシップを備えることが、変革が必要とされる組織では重要となります。