前回に引き続き、「経営学は役立つのか」を考察します。最終回は経営学を学習し、経営実践に役立てるためのアプローチ法を説明します。
経営学は実践にどのように役立つか(7)
著者:インソースマネジメント研究チーム
1.経営実践にいちばん有益なアプローチは、実践からは少し離れて冷静に、経営学で説明されている概念や理論の世界をじっくり見てみることである。
2.現象や実践の陰に隠された世界を、本当に「腑に落ちた」というレベルでの理解にまで到達する上で、概念や理論の世界が非常に役立つ。
- ■「正解」のない経営学
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前回まで数回にわたって、経営学という学問領域の特徴について、他の諸学問領域とも比較しながら説明してきました。
いろいろな論点がありましたが、そこでのいちばん重要なポイントは、経営学では「正解」がきっちり出ないということです。 - ■正解がもしあるなら
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誰から見ても客観的に「正解」と呼べるようなものがもし存在すれば、どの企業もその手法を採用して経営戦略を策定しようとするでしょう。しかし、現実には「勝者」と「敗者」がれっきとして存在するわけですから、正解など存在しないということはむしろ当たり前だともいえるでしょう。
では、経営学を学習し、経営実践に役立てるためには、いったいどのようにアプローチすればよいのでしょうか。 - ■概念的に考える
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一見遠回りのようですが、実は経営実践にいちばん有益なアプローチは、ダイレクトに経営実践に役立ちそうなことを躍起になって追求するより、むしろ実践からは少し離れて冷静に、(経営学で説明されている)概念や理論の世界をじっくり見てみることです。
概念や理論の世界と対置されるのが現象や実践の世界です。概念について学ぶということは、例えば「差別化戦略」とか、「組織構造」といったような経営用語の意味や意義について、深く知るということを意味します。 - ■役に立つか立たないか
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ビジネスパーソンの方々の中には、こういった概念や理論体系についての説明は往々にして抽象的でわかりにくく、実践には役立たないと感じる方も居るかもしれません。
確かに、概念を知ることよりも、他社の経営や社会の現実を1つでもたくさん知り、知識を増やすことの方がはるかに刺激的で「役に立つ」ようにみえます。 - ■現象・実践はすぐ古くなる
- ただ、注意しないといけないのは、こうした事実を知ることは確かに私たちの知識を増やしてくれるのですが、個々の事実はそれらの事実単体としては「知ってしまえばそれでおしまい」ということです。また明日になれば別の新しい事実が出てきます。そして、昨日知った事実の多くは、古びた知識として脳裏に定着することもなく忘れ去られてしまうことになります。
現実や現象のみを追いかけているとこれの繰り返しになりがちで、頭の中には何も定着しないのです。 - ■新聞を読み知識を得ること
- 例えば、新聞を読むという行為を想定してみてください。いくら新聞を毎日、隅から隅までくまなく目を通したところで、それらは日々起こった事件の現象の羅列に過ぎませんから、それらの事象が生じた背景や、現時点はこの事件の全体像の中のどういう位置を占めているのかといったような点の体系的な理解は、単に日々新聞を読んだだけでは不可能なのです。
- ■概念・理論の役立ち方
- このような現象や実践の陰に隠された世界を、本当に「腑に落ちた」というレベルでの理解にまで到達する上で、概念や理論の世界が非常に役立つのです。概念や理論の世界は、以前このメルマガのコーナーでも紹介した「論理」を通じて事象や世界を理解することと言い換えることも可能です。