前回に引き続き、「経営学は役立つのか」を考察します。今回は経営学とよく似た学問領域である商学との違いについて説明します。
経営学は実践にどのように役立つか(6)
著者:インソースマネジメント研究チーム
1.経営学は、製品が生み出されるまでを対象とするが、商学では、製品が生みだされ、それが最終消費者に届けられるまでの過程を対象とする。
2.商学の対象領域において、サービス業は、企業がサービスを産み出すのと同時にそれを消費者が消費する。それゆえ、サービス業では、サービスを実際に産み出す人的資源が決定的に重要になる。
- ■経済学部と商学部
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日本の大学には、「経営学部」という名称の学部と「商学部」という名称の学部の双方があります。経営学部と商学部はどこがどう違うのかよくわからずに受験された方も多いと思います。
その違いは、ずばり「製品」ができあがるまでのプロセスが経営学、そこから先、消費者の手元にまで製品が届けられるまでが商学です。 - ■製品ができあがる前か後か
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経営学の対象は、企業の内部です。つまり、ヒト・モノ・カネ・情報等の経営資源が具体的に結びついて生産をしていく仕組みを学ぶのが経営学です。つまり、簡単にいってしまえば、経営学とは、製品が生み出されるまでが対象になるといっていいでしょう。
これに対し、商学という学問領域では、この製品が産み出され、それが最終消費者に届けられるまでの過程を対象にしています。ここでいう最終消費者とは、一般の個人消費者はもちろんですが、それ以外に他企業や政府等の組織体も当然含まれます。 - ■製品ができた後のプロセス
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企業が作った製品を消費者の手元にまで届けようとすれば、企業はどのようなことを考えなければならないでしょうか。
まずはどのような製品をいかにして誰に売り込むかを考えないといけません。これがマーケティングという活動です。そして、製品が消費者の手元まで届くための流通経路を考えなければなりません。例えばトラックで運ぶのか、飛行機で運ぶのかといった交通の仕組みについて考える必要があるでしょう。外国に住む消費者に届けるためには、貿易や為替の仕組みも知らなければなりません。 - ■商学の成り立ち
- 流通の仕組みを整えたり、製品を運搬する運賃を支払ったりするには、銀行や証券市場を通じて当面の資金を工面することも必要でしょう。また、製品を運搬している途中に、例えばトラックが交通事故に巻き込まれたり、船が沈んだりというような万一の事故が発生すれば、企業は大きな損失を被ってしまいますから、それを回避するために保険を掛けておく必要があるでしょう。
商学系列の授業科目の中には、マーケティング論や流通論、交通論、貿易論、外国為替論、金融論、保険論などの諸科目が含まれているのはこのためです。 - ■製造業とサービス業
- ところで、製造業とサービス業は、「商学」の対象領域で大きな違いがあります。製造業では、必ず形のある製品が作られますから、流通の経路を通じてから消費者の手元に届けられます。時間的に必ず生産が消費の前段階に来ます。
しかし、サービス業では、形のないサービスを産み出しているわけですから、この経路を通じて伝達されるわけではありません。つまり、サービス業では、生産と消費が同時進行するのです。企業がサービスを産み出しながら、それと同時に消費者が消費するのです。サービス業では、サービスを実際に産み出す人的資源が決定的に重要になるゆえんです。