現代の組織には、SDGs/ESGの観点やDXの実現など、前例のない課題を組み込んだ経営戦略を打ち出すことが求められています。また、日本経済を襲う急激な円安、エネルギー価格の高騰などを背景に、経営戦略の見直しを迫られる組織も増えています。そこで今回は、経営戦略を策定するうえで改めて確認しておきたい思考法や、組織の戦う場所や戦い方を決める戦略の「型」をお伝えします。参考にしていただければ幸いです。
そもそも戦略とは、何らかの目的を達成するための、最善・最短の道筋を描いたものです。目指すべきゴールとそこに至るまでの道筋が見えていれば、仮に想定外のことで脇道にそれたとしても、すぐに戻るべき道を判断できます。つまり、スピーディな意思決定ができるようになるというわけです。特に戦略など考えなくても、ヒト・モノ・カネの経営資源を際限なく投入できるのであれば、力任せに目的を達成することもできます。しかし、多くの組織において、資源には限界があります。その限られた資源を有効に使うためには、やはり最短の道筋で目的にたどり着くためのシナリオ、すなわち戦略が必要です。戦略を立てることで、自ずと資源を効率的に活用しようとする動機も生まれます。
オペレーション思考とは、「目の前の問題に対処する」「今のやり方の中で改善策を考える」「目的はともかく、まずは手段を確保する」といったふうに、個別で物事を考える思考法です。それに対して戦略思考は、もっと大局的な視点で物事を捉えていく思考法です。将来の環境変化を見据えつつ、組織が目指すべき姿の全体像を描いていく戦略思考を身につけるには、これからお伝えすることを強化していただくとよいでしょう。
(1)物事を俯瞰的に捉える「メタ思考」
目的に到達するためのシナリオを思い描く姿というのは、あたかも現在地から目的地までの道筋を高いところから見通すようなものといえます。高い視点から物事を客観的に眺めることで本質を捉えようとする考え方を「メタ思考」と言いますが、戦略を考えるうえでは、このメタ思考を鍛えることが重要です。
(2)物事を冷静に見極める「クリティカルシンキング」
「良い戦略」の条件には、独創性があり、実行可能性が一定度合い担保されていることがあります。独創性が乏しいとすぐに模倣されてしまう一方、余りに背伸びし過ぎた戦略ではその実行可能性が疑わしくなってきます。戦略を考えるにあたっては、自由な発想を促すと同時に、冷静に物事を見極めようとする"冷めた視線"も必要となります。こうした健全な疑いの目を向けるスキルが、クリティカルシンキングです。一度決めたことを頑なに押し通すのではなく、今の環境下においてその戦略は本当に正しいかという視点で柔軟に判断していく姿勢が求められます。
(3)物事を「戦略主体」として捉える力
一見合理的に思える戦略でも、いざ自分が実行すると考えると急にリアリティのないものに感じたり、逆に、あり得ないと思うような戦略の中にも、一発逆転のチャンスを見出すこともあります。例えば、創業社長の命を受けて自社の成長戦略案を考えるとします。その際、いきなりフレームワークに則ってセオリー通りの成長戦略を描き始めるよりも、自分が創業社長という「戦略主体」として何を一番実現したいと思うか、あるいは、何に一番危機感を覚えるのか、といったことをイメージしてみるとよいでしょう。
デジタル化やグローバル化、コロナ禍を契機とした人々の行動や価値観の変化に伴い、組織を取り巻く経営環境はこの数年で大きく変わりました。現状の戦略では売上につながらなくなってきているなら、いま一度、自社の商品・サービスの市場における立ち位置を明確にしたうえで、組織が「戦える場所」を見つけることが重要です。それを見つけるために使えるのがマーケティング手法の一つである「STP分析」です。
自社が「誰」に対し「どのような価値」を提供するかを明確にするために、「Segmentation(セグメント化)」、「Targeting(ターゲットの選定)」、「Positioning(ポジションの確立)」の3つの要素から分析します。
「S」~セグメント化
「セグメンテーション」 とは、顧客のニーズを踏まえて、市場を様々な切り口で分けることです。下の図のように、複数の切り口を軸に立ててマトリクスにすると、より市場の全体像が見えるようになります。主な切り口としては、「人口動態変数」「地理的変数」「心理的変数」「行動変数」などが多く使用されます。
※カフェの出店のセグメント例
「商品グレード」 × 「地理的変数」 で、セグメントに分類
高級路線か廉価か、競争相手が少ない住宅地か人が多い駅前か、などの切り口でマトリクス分けをし、セグメントを決めていきます。
「T」~ターゲットの選定
分類した市場の中から、自社の参入すべきセグメントを選択します。このことを、「ターゲティング(ターゲットの選定)」 といいます。「自社の強みが活かせるところ」や、「他社との競合が少ないところ」などの視点でターゲットを選定していきます。
※カフェの出店のターゲティング例
「P」 ~ポジションの確立
選んだターゲットの市場について、さらに競合先がどのような特徴や方針を取っているか、2軸の要素で整理し、立ち位置を決めます。同じようなポジショニングでは差別化ができないので、対象顧客のニーズを満たしつつ、競合他社との明確な違いを打ち出して、独自性を確立することが重要となります。
※カフェの出店のポジショニング例
既にライバルが大勢いる市場においては、新規参入者はもちろんのこと、既存事業者にとっても、そこで勝ち抜いていくことは簡単なことではありません。ましてや市場規模がこれ以上あまり広がらない成熟市場であれば、なお、その競争は熾烈なものとなります。
バーバード・ビジネススクールのマイケル・E・ポーター教授は、こうした競争環境で勝ち抜いていくための戦い方として、「3つの基本戦略」を提示しました。
競争優位を創出するためには、競争相手よりコストを下げる、あるいは競争相手以上の付加価値を提供する、という2つの方策があります。前者を、「コスト・リーダーシップ戦略」、後者を、競争相手との差をつくる意味で、「差別化戦略」といいます。これら2つはいずれも幅広いターゲットに対して競争優位を創出するための戦略です。
一方、競争範囲を狭く限定することで、その市場において競争相手より優位性を創出する戦略もあります。これを「集中戦略」といいます。集中戦略は、ターゲットを狭く設定したのち、低コストを指向するか、差別化を指向するかで、「コスト集中戦略」と「差別化集中戦略」に区分されます。
(1)コスト・リーダーシップ戦略
業界内で最低コストを実現することで市場価格の決定権を握り、競合他社と価格競争に陥った場合でも利益が出せる体質を目指す戦略です。基本的に 「規模の経済効果」が戦略の中心となり、「大規模な投資」「大量生産」「高いシェア」を前提として、「仕入れコストの低減」「低コストでの大量販売」が行われます。
また、コスト・リーダーシップ戦略では、間接販売から直接販売への変更等、管理可能なあらゆるコストを見直していきます。
クラウドサービスの中でも有名なアマゾン(Amazon.com, Inc.)の「AWS」とマイクロソフト(Microsoft Corporation)の「AZURE」は、将来的に最終価格が競争になった時に「どこまで耐えられるか」を計算し、データセンターの立地や給電・発電方法などのすべてのコスト要素を、将来に渡った時間軸を前提とした緻密な計画を元に、運営されています。
(2)差別化戦略
業界の中で特異性のある価値や、競合他社よりも高い付加価値を提供することで、自社の商品の差別化をし、高いマージンを取る戦略を差別化戦略といいます。圧倒的な差別化により、「高くても売れる」を実現させる戦略ということもできます。
例えば任天堂株式会社は、体を使って遊べる家庭用ゲーム機の開発や人気ゲームキャラクターのライセンス化など、ゲーム業界の中のブルーオーシャン市場を狙う戦略で成功しています。
(3)集中戦略
集中戦略とは、特定の顧客層、商品、地域などの限定されたセグメント、あるいは戦略ターゲットに、経営資源を集中させる戦略です。特定顧客に対して、徹底的にコスト削減をはかる「コスト集中戦略」と、他社が真似できない製品・サービスを提供する「差別化集中戦略」の2つのアプローチがあります。経営資源が比較的限られた企業でも、間口を広げず集中することで、大資本にも対抗できるようになります。
集中戦略の事例として有名な企業は、軽自動車の生産・販売に特化するスズキ株式会社や、20~50歳の主婦層を主なターゲットとして他社よりも低コストを実現する株式会社しまむらなどです。特に株式会社しまむらは、コスト集中戦略のお手本のような存在といえます。
また、規模が小さい企業が規模の大きい企業と戦うためのジャイアントキリングの戦略として「ランチェスター戦略」があります。ランチェスター戦略とは、1914年に英国のエンジニアであるフレデリック・W・ランチェスターによって発表された戦闘の数理モデルを経営戦略に応用したものです。資源の少ない中小企業、つまり弱者が大企業、すなわち強者に勝つための戦略として知られていますが、逆に、強者が弱者に反撃の隙を与えないための戦略も与えてくれます。
弱者が勝つためには、強者との差別化を図る「差別化戦略」を取るのが基本です。それに対して強者は、差別化ポイントに追随してそれを無効化する「ミート戦略」を取ります。
例えば、弱者は強者に対し、ニッチな地域、顧客、市場を狙う局地戦を行うのが有効です。それに対して強者は、広い地域や事業領域で戦う広域戦に持ち込むのが効果的です。
また弱者は、決裁者とのリレーションを高め、受注確度の高い動きをする接近戦が得意です。それに対して強者は、うなる財力で広告を使って幅広く顧客を取り込む遠隔戦をとることで、弱者に隙を与えないようにします。
ここまで、戦略を策定するにあたり求められる思考法や、具体的な戦略の型についてご紹介してきました。この後、練り上げられた戦略を実践していくには、メンバーの力が必要です。しかし、頭では理解してもらえたとしても、実際に行動に移してくれるかどうかはわかりません。
そこで大事になってくるのが「共感」です。強い意思と熱意を持ち、メンバーに対して自分の言葉で戦略を示し、共感を引き出すことができれば、組織やチームの力を一つの方向に進めることができます。自らに課されたミッションを成し遂げられるように 「戦略思考」 を駆使して、メンバーをエンゲイジしながら、組織・チームを成功へと導いていただければと思います。
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