グローバル化を考える際、初めに英語力の問題を気にする方が多く見受けられます。しかし、初めから英語ができなかったとしても、半年から1年くらい海外で仕事をしていれば、普通の会話はできるようになります。
語学力よりも大切なのは仕事ができるかどうか、つまり現場でいかに力を発揮できるかの方が重要なのです。
現在の日本の出生率は依然として低く、人口減少が進んでいます。そのため、日本の産業を守るためには、多様な人を受け入れていくと同時に、それに対応する変化(=イノベーション)が必要になります。
アメリカは、先進国でありながら今でも人口は増えています。これは、移民(その中でも特に優秀な人)の受け入れが進んでいるからです。
例えば、IT業界では特にインド人の割合が増えています。日本のIT関連の技術者(学部生、マスター、ドクター)は毎年1.5万人~1.8万人輩出されています。これに対し、インド人のIT技術者は、約20倍の30万人が輩出されています。しかも彼・彼女らの多くは優秀で、多くの人たちは母国語、英語だけではなく、日本語を話すこともできます。インドの他に、中国も多くのIT関連の人材を輩出しています。また、IT業界に限らずブラジルやバングラデシュ、アフリカなど、ざまざまな国・地域も台頭してきているのは、皆さんご理解されているでしょう。こういった方々と共に仕事をしていくことを考える必要があるのです。
ダイバーシティの推進について、グローバル化以外にも考えておくべきことがあります。
例えば、女性の雇用促進に関しては、数十年前から議論がなされてきています。しかし日本では、上場企業の社長や大学の学長に女性が少ないのが現状です。また、障がい者雇用に関しては、最近ようやく法整備が進み、「2%」という具体的な数字も決まっております。
「イノベーション」とよく言われますけれども、多様性がなければイノベーションは起きません。これまでと違った何かを起こそうと思ったら、多様性が必要ということで、日本でも最近ようやく変わってきています。
例えば、最近では自動車の会社にも女性が増えつつあります。背景は、車の購入を決定するのは女性が多い、ということがあるようです。このような状況を踏まえて、車の設計にも女性の目線を取り入れようということが進んでおります。
また、障がい者雇用に関して、私が以前勤めていた大手IT企業には、全盲の社員がいました。しかしITのおかげで、プログラミングをはじめ、通勤や出張にも何の支障もありませんでした。
このように、皆さまの会社でも、例えば障がいのある方を雇われる時、経営者がきちんと方針を決めて、現場の人が動けるような仕組みをきちんと作っておけば、いろいろなことができるようになります。
社員の○%を女性にする、障がい者にする、という数字的な話ではなく、ダイバーシティを取り巻く環境を考えてみましょう。ここでは、ステージ0(ゼロ)から4までの段階に分けて考えてみます。
ステージ0は、一番日本で典型的な、日本語のみを話す日本人で65歳以下の健常者による、年功序列によって階層された状態です。
ステージ1は、日本の法律、および人事政策によって、女性、障がい者などの日本人マイノリティの雇用が守られている状態。今の日本はだいたいこのステージにあります。
ステージ2は、マイノリティや海外の人材が、日本人と同じ雇用システムのなかで仕事の機会を与えられている状態です。経営陣が、経営理念によってマイノリティの話を意識はしている段階です。
ステージ3は、日本人の意思決定システムのもとに、世界共通の雇用システムで、あらゆる人が仕事の機会を与えられている状態です。このレベルでは労働人口の確保などが目的になっています。しかし今のところ、なかなかそこまでも出てこないですね。
ステージ4は、人種、国籍、性別などの外的要因に加えながら、あらゆる人が潜在的能力、問題意識、知見、やる気によって仕事の機会を与えられ、イノベーションが生まれている状況。ただ、このステージは、イノベーションの進歩という意味では良いのですが、それが必ずしも幸せとは言えないかもしれません。
このように段階に分けて考えることは、自社の現状や、求めるレベルを把握するのに有効だと考えています。ぜひ自社に当てはめて、「うちの会社はステージ2だから、3を目指しましょう」という風に、考えてみてください。
先ほどお伝えしたように、イノベーションがあれば必ずしも世の中良くなる、というわけではありません。職をとって代わられ仕事がなくなったり、環境が変わってしまう人もいるかもしれません。
しかし、世界的にイノベーションが重視されている状況で、日本人だけやらない、という環境は、おそらく不可能でしょう。イノベーションを起こし対応しなければ会社の将来もないと理解しなければなりません。
どのような形でグローバル化やダイバーシティ化に対応していくのか、どういう形でイノベーションを進めていくのか。自社の現状を踏まえ、皆で考えていかなくてはいけない話であると思います。ダイバーシティの推進は会社の経営の戦略であり、経営者が決断すべき問題です。
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プロフィール
◆田中 芳夫◆
東京理科大学大学院教授
略歴