経営学の産みの親であるF. W. Taylor(テイラー)が行った効率的な体の動きの研究法は、現代の人事管理でも通用する考え方です。
仕事の効率を上げるには ―斜め読みする経営名著:F. W. テイラー(1)―
著者:インソースマネジメント研究チーム
1.テイラーは、一流作業員の動きを、1つ1つの動作へと分解し、緻密に計測することで、作業の最短化と効率化を探究した(時間-動作研究)。
2.「時間-動作研究」は、現代の人事管理の評価ツールとして導入されている「コンピテンシー評価」と基本的発想法が似ている。
- ■経営学で最も重要な人物
- 「経営学」は比較的歴史の浅い学問領域です。その100有余年の歴史の中で最も重要な人物を1人上げよと言われれば、F. W. Taylor(テイラー)であると答えます。テイラーは、もともと実務家です(作業現場で技師をしていました)が、同時に経営学という学問の産みの親で、経営学の歴史はテイラーとともに始まったといわれています。
- ■マネジメントに“科学”を導入
- 経営学説史上、テイラーが果たした役割は、「科学的管理」というマネジメント手法を編み出したことであるといわれています。作業現場でのマネジメントは、経営者の経験や勘、コツといった極めて主観的な手法に委ねられていたのですが、そこに「科学的」なものの見方を導入し、マネジメントをより客観的・相対化しようとしたのがテイラーだったのです。
- ■効率的な体の動きの研究
- テイラーがまず取り組んだのは、作業員の作業効率を上げるために、体(からだ)の効率的な動かし方について調査することでした。このための調査方法がユニークです。テイラーは、作業現場でいちばん優秀な労働者を1人選びだし、どのように体を動かしているか、つぶさに観察しようとしました。
- 例えば「手を動かして金槌で釘を打つ」という作業を考えてみましょう。釘をどのように持ち、金槌はどの辺りを握り、どの程度の力で、どこまで振り上げて下ろしているか、しかも1つ1つの動作に、最も有能な労働者が何秒かかっているか、ストップウォッチで実際に計測しようとしたのです。
- このように、テイラーは、一流作業員の一連の作業での動きを、1つ1つの動作(要素作業)へと分解し、それぞれを緻密に計測することで、作業を最短の時間で無駄なく効率的に仕上げるにはどうすればよいかを探究したのでした。こうした調査は、「時間-動作研究」(time-motion study)と呼ばれます。
- ■現代の人事管理でも考え方は通用
- 実はこの時間-動作研究は、現代の人事管理上、評価ツールとして一部企業に導入されている「コンピテンシー評価」と通底する考え方です。コンピテンシー評価は、皆さんご存じの通り、職場で最高の業績を上げている従業員の行動特性を分析し、その行動特性をきっちりとモデル化(客観化)して評価基準を作成して職場全体に拡げようとするものですから、その基本的発想法はテイラーの時間-動作研究と非常に似通っています。