連載「ビジネスに活かすリーダーシップ」の第2回テーマは、「知識社会のリーダーシップ」です。「マネジメント」のイメージが強いドラッカーですが、実は半世紀以上も前に、今日のリーダーシップに通じる大切なことを述べていました。
『ビジネスに活かすリーダーシップ』第2回 知識社会のリーダーシップ
著者:インソースマネジメント研究チーム
1.ドラッカーは半世紀以上前に対知識労働者のマネジメントの重要性を予言していた。
2.組織形態のフラット化が進む今、各得意分野でのリーダーシップの発揮が必要である。
- ■ドラッカーの世界観
- P.F.ドラッカーは経営学者であるとともに、インフルエンサー(影響を与える人)、思想家であり、日本では、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」が脚光を浴びるなど、「マネジメントの先覚者」として著名です。その代表的著作「マネジメント」の前書きでドラッカーは、「成果をあげる責任あるマネジメントこそ全体主義に代わるものであり、われわれを全体主義から守る唯一の手立てである」と述べています。
- ユダヤ系であったドラッカーはナチズムの台頭により、家族とともに米国に逃れ、「経済人の終わり」を1939年に上梓しました。ドラッカーが世に出るきっかけとなったこの著作の中ですでに、全体主義へ警鐘を鳴らすだけではなく、独ソ不可侵条約を予見するなど、社会現象に対する深い洞察力を示しています。
- ■カリスマ的リーダーを否定
- ドラッカーは、それまでの全体主義的組織の在り方を否定、マネジメントによる自律した組織の必要性を論じました。「未来企業(1992年)」の中では、「カリスマ的リーダーはまったく不要」であると切り捨てています。一方でリーダーシップは必要であるものの、それ自体は神秘性もなく平凡で退屈なものと述べています。リーダーシップの本質は行動にあるため、それ自体は良いものでも望ましいものでもなく、手段にすぎないということです。
- ■予言の中のリーダー像
- 1959年、ハーバード・ビジネス・レビュー誌に"Realities of Our World Position"を投稿しています。その中で、国際競争に製造業がさらされ問題を抱え始めたアメリカ経済の新しい現実を浮き彫りにすると同時に、「知識労働者」が増加していくことで、彼らが経済の牽引役になっていくと述べています。知識労働者のマネジメントがより重要になる、というその後の主張につながって行くわけです。組織の構成が非階層となることで、課題はその都度、最も通暁したメンバーがリーダーシップを発揮して解決する、という今日のフラット組織の姿をも予言するものでした。
- ■この予言をどのように考えるべきか
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情報通信技術(ICT)の発展により、21世紀の社会がどのように変化していくか、定かでありません。ただ、組織形態のフラット化は、さまざまなビジネスプロセスの進化による生産性の向上を意味しており、この流れは不可逆的です。そうした組織の中で、われわれは個々に自律的で、それぞれの得意分野でリーダーシップを発揮することが必要となっています。
- 最後に、ドラッカーが否定したのはカリスマ的リーダーシップであり、階層組織を否定しているわけではありません。また、トップのという最高意思決定としてのリーダーの重要性は、この先も否定されるものではありません。