前回ご紹介した「バランス感覚を備えたマネジメント能力」は、実際どのように身につけていけばよいのでしょうか。
マネジメント能力を高めるには
著者:インソースマネジメント研究チーム
1.バランスを考えながらマネジメントするには、長期的視点、および全体性の視点が必要である。
2.長期的視点や全体性を見るという能力を身につける近道は、実は「哲学」を学ぶことである。
- ■なぜバランス感覚が必要か
- そもそも何ゆえに、マネジメントにはバランス感覚が必要なのでしょうか。バランス(balance)とは、天秤、はかりといった計測器の意味から転じて、釣り合いや調和、均衡状態などを指す英単語です。バランスをとるという状況の背後には、異なった原理で動く、互いに矛盾する事物が相対(あいたい)している状態があるはずです。片方を上げればもう片方が下がる矛盾状態なのでバランスをとらないといけないのです。英語ではこうした矛盾状態のことをトレードオフ(trade-off,相殺関係)とも呼びます。
- ■経営実践に矛盾はつきもの
- 経営の実践には矛盾がつきもので、各局面でのトレードオフにどう対応していくか考えるのが経営者の仕事であると言っても過言ではありません。例えば、経営戦略の古典的な課題の1つに、「利益を重視すべきか、それとも成長(シェア)を重視するべきか」というテーマがあります。ご承知の通り、成長を重視する戦略をとれば利益は抑制しなくてはならないことになります。利益が下がれば株主を説得するのは大変です。したがって、利益と成長の関係について、経営者は両者のバランスを考えながら、マネジメントしなければなりません。
- ■利益を上げようとすれば
- 利益を短期的に上昇させたければ、その最も単純な方法は、研究開発や広告宣伝などを全てやめてしまえばいいわけです。しかし、通常、賢明な経営者はそのようなことはしません。なぜなら、短期的に利益が出るとしても、長期的な視点に立つと、企業がやろうとしている事業がそもそも継続できなくなってしまうからです。
- ■長期的視点に立ち、全体を考えることが重要
- この単純な例示からも窺えるように、マネジメントに必要なことは、その都度の短期的な視点ではなく、より長期的な視点に立脚し、全体がうまく廻っていくように留意することです。要するに、(1)長期的視点、および(2)全体性、の2つの視点が、マネジメントには必要ということになります。
- ■哲学の勉強が近道
- そして、意外に思われるかも知れませんが、この長期的視点や全体性を見るという能力を身につけるのにいちばんの近道は、実は「哲学」を学ぶことなのです。哲学ほどいつでも使えて実践的で"有用"な学問は他にありません。
- ■哲学の基本
- どうすれば哲学的思考が可能になるか、ということについて、例えば、貫 成人著『哲学マップ』(ちくま新書、2004年刊)では、(1)現象から一歩離れて考えること、(2)部分ではなく全体に共通のことを考えること、がその基本だと述べられています(同書14頁)。この(1)は、熱い気持ちを抑え、冷徹に長期的視野に立って考えることに他なりません。
- この2点、経営者に必要な態度と全く合致していることがわかるでしょう。マネジメント能力を身につけたい皆さんは、是非、いちど上記著作を読んでみられることをお勧めします。