人的資源管理の源流シリーズの最終回。人間のもつ非合理性とその活用について考察します。
人的資源管理の源流(3)
著者:インソースマネジメント研究チーム
1.生産性には、物的環境に加え、感情や気持ちといった人間くさいソフトな側面が大きく関わっている。
2.人間の非合理性や私生活はマネジメントでは扱えないものと考えられていたが、ホーソン実験により、あらゆる人間の側面やプロセスが、マネジメントの対象と捉えられるようになった。
- ■物的環境と生産性は無関係?
-
ホーソン工場での実験からわかったことを端的に2点にまとめておきましょう。
まず1点目は「生産性の向上は,物的環境に規定されない」という点です。照明実験等の結果がこのことを裏付けています。 - ■人間工学として発展
- ただ,当たり前のことですが補足しておきますと,実際には物的環境もそれなりに生産性と関係しています。例えば「PC入力に適した椅子はどのように設計すべきか」などの課題解明のために,人間工学(エルゴノミクス)という別の領域を形成して今日まで発展してきています。
- いわば,当たり前の物的環境に加え,意外にも人的な要因(それも,感情や気持ちといった人間くさいソフトな側面)が生産性に大きく関わっているということを発見したのが,ホーソン工場実験の1つの成果ということです。
- ■注目されると頑張る
- ホーソン実験での,「変化を導入するたびに,変化の内容いかんに関わらず生産性が上がっていく」という発見事実は,別の角度から「注目効果」と呼ばれることもあります。人間は注目されると嬉しいものです。
- 自分たちは会社を代表して選ばれ,会社のために実験をされているんだという注目こそが,どんどん生産性を高めていく原動力となったのです。
- ■"仲良しグループ"の存在
- 2つ目の発見事実は,実験の最終ステップで明らかにされたインフォーマル・グループの活用です。仲良しグループの存在が,経営的に意味を持っているということを発見したのであり,その点がおもしろいのです。
- その後,経営的にはその仲良しグループを生産性のアップに使ってやろうという発想になっていきます。至極当然の成り行きです。
- ■人間のもつ非合理性
- ここで興味深い点は,このインフォーマル・グループの発見・活用は,2つの対立する観点から評価できるという点です。
- 1つの評価の視点は,メイヨーらのホーソン工場の実験は,人間の持つ非合理的な側面を強調していることから,テイラーやファヨールらによる,組織の構造や指揮命令系統といった,組織のいわば公式的な側面を明らかにした系譜と異なり,それらとは断絶した流れであると評価する視点です。
- ■飛躍的に広まったマネジメントの対象
- しかし,ホーソン実験に対する,より奥が深く正しい評価の仕方は,公式的な側面はもちろんのこと,人間のもつインフォーマルな側面(私生活など)を含めてすべてが,広い意味でのマネジメントの対象になっているとみる視点です。
- 非公式集団をうまく経営に活用するという発想はその1つの表れといえます。こうした視点に立つと,ホーソン実験で明らかにされた点は,テイラーやファヨールの延長線上に,連続して捉えることが可能となります。
- 言い換えるならば,テイラーやファヨールの時代においては,人間の非合理性や私生活はマネジメントでは扱えないものと考えられていましたが,ありとあらゆる人間の側面やプロセスが,直接的であれ間接的であれ,マネジメントの対象と捉えられるようになったということなのです。
- ■今日の人的資源管理論の源流
- 昨今の経営学では,人的資源管理の果たす重要な役割の1つが「組織統合」(それぞれの欲求や思考をもった個々人に,所属組織を好きにさせ,一生懸命働かせること)であることが常識にされています。
- 実は,この常識が生み出された源流を辿っていくと,それはホーソン工場での実験により明らかにされた,人間のもつ非合理性とその活用というところにオリジナルがあるといえるのです。