交渉が苦手な方必見!~Win-Winの合意に導く交渉のポイントと実践テクニック

交渉が苦手な方必見!
~Win-Winの合意に導く交渉のポイントと実践テクニック

突然ですが、皆さまは取引先との契約内容の条件や、受注価格を話し合いで決める「交渉」を任されたことはありますか?

多くのビジネスパーソンにとって、交渉の機会は珍しいものではありませんが、苦手意識を持つ方も少なくありません。

その理由として、以下のようなことが考えられます。

・自分の主張を相手に押しつけるのは苦手
・自分が相手に譲歩するのは苦痛
・自社に不利な契約を結んでしまったら、責任を取らされる

しかし、先行き不透明な現代、コスト削減のために既存取引先との契約を見直す、あるいはさらなる成長を目指し新しい提携先を探す、といった目的のために、交渉に臨まなくてはならない場合が増えてきた、という声をお聞きします。

そこで今回は、交渉に苦手意識を持つ方に、どちらか一方が譲歩するのではなく、双方にとってできる限りWin-Winとなるような合意を目指す交渉の進め方のポイントをお伝えします。参考にしていただければ幸いです。

1.双方がWin-Winの合意に至るための交渉のポイントとは

まず始めに、基本的な「交渉のプロセス」を押さえておきます。

交渉のプロセスの図

実際に相手と向き合って話を進める「交渉の場」は、2.のヒアリング以降です。しかし、実際にはその前から交渉のプロセスは始まっています!

(1)事前準備 ~ゴール設定と情報収集

交渉に臨むうえで、自分の勘や経験のみに頼ったり、場当たり的な対応を行ったりするのは得策ではありません。事前準備をどれだけ万端にできるかが、交渉の結果を左右すると言っても過言ではないのです。ポイントは2点です。

ア. 交渉の「ゴール」を設定する
何のためにその交渉を行うのか、合意の結果どのような成果を得たいのか、十分検討することが肝要です。また、交渉が決裂した場合にどのような選択肢(=BATNA※)があるのか、どこで見切りをつけるか(限界値)なども明確にしておくと、心に余裕を持って交渉の場に臨めます。

※「BATNA」とは
「Best Alternative to a Negotiated Agreement」の頭文字で、「最も望ましい代替案や選択肢」のこと。
【例】案件Xについて、A社とB社から同時にオファー
   →先にA社と交渉。たとえ決裂してもB社と協議できる可能性があるこの場合はB社がBATNA

事前にBATNAを準備することは非常に重要です。BATNAの用意があるかどうかで、交渉の進め方や最終的な合意の仕方にも影響します。

イ.相手の情報を集める
相手の主張や交渉に臨む目的を探るために、先方のHPはもちろん、業界の情報サイトや専門誌、書籍などで必要な情報をできるだけ多く集めておきます。既存取引先の場合は、訪問経験のある前任者や上司からヒアリングするのも有効です。

(2)ヒアリング ~相手の話をよく聞き、あいまいな要素を潰す

最初から自分の主張をむやみに押し付けても、相手の納得を引き出すことはできません。ヒアリングの段階で大事なのは、相手の話をよく聞き、相手の言うことにあいまいな要素があればそれを潰していくことです。

あいまいな要素を残さないようにするには、相手の話のまとまりごとに質問するとよいでしょう。相手の発言の理由や根拠、背景・事情などについて、「それは〇〇ということですね」などと自分の言葉に置き換えて問いかけると、認識がずれていないか確認できます。

■具体例
相手「あれは難しいんだよね」
自分「具体的にどのあたりが難しいか教えていただいてよろしいでしょうか」
相手「あまり数字が良くなかったんだよね」
自分「今おっしゃった数字とは、昨年度の第3四半期の『決算短信』の数字のことでよろしいでしょうか」

話し合いで、「あの時〇〇と言ったのは、××という意味だったのに」という思い違いが起きるのはよくあることです。しかし、相手の真意があいまいなまま、「一般的に考えたら大丈夫だろう」と勝手に納得して合意するのは危険です。将来、関係者の間で合意内容に不満が生じ、合意が長く持続しない要因になります。

(3)双方の主張と譲歩の整理 ~相手が最も重視することを探る

相手を納得させるためには、この交渉で相手が何を「成果」として持ち帰りたいのか、あるいは相手が自分の話を受け入れるためには何が必要なのか、質問を通じて見極める必要があります。

■質問例
「こちらの提案についてご説明いたしましたが、気になる部分はやはり価格の部分でしょうか、それとも納入時期でしょうか」
「こちらの提案について、御社の上席の方はどのようにおっしゃっていますか」

相手の「譲れない部分」が明確になると、逆にそれほど重きを置いていない「譲れる部分」も相対的に探ることができます。それが自分の「譲れる部分・譲れない部分」とかみ合えば、折り合いをつけて合意に至る「道筋」が見えてきます。

(4)合意に向けた交渉 ~どちらも「負けない」合意を目指す

双方にとってのWin-Winな状態を目指し、折り合いをつけた合意を図ろうとしても、相手がその内容に納得していなかったら、相手にとって満足できる合意とはなりません。また、相手が一歩も譲歩してくれない場合もあります。そんな場合はどうしたらいいのでしょうか。

ア.自分の主張に重みを持たせる
相手に実際の利益を与えてしまうと、自分のデメリットが大きくなる場合があります。自分に損失なく、交渉を有利な形に持っていくには、弁術(レトリック)で自分の主張に重みを持たせ、"仮想の利益"として与えるテクニックも有効です。

■具体例
「今回、弊社の社長決裁で20%割引をしました。本来はとてもできないことですが、社長が御社を大切な取引先と考えているために実現できたことです」
「〇〇の条件は、1週間上司を説得し続けてやっと実現できました」

イ.無理な要望に対して「イエス」「ノー」の二択で即答しない
「値段を下げて欲しい」「納期を早めて欲しい」といった、こちらの譲歩を求める相手の要求が出ると、条件反射的に「イエス」「ノー」の二択で即答したくなるものです。そんな場合は即断せず、まずは話題を変えると効果的です。

■具体例
「その前に少しだけご説明することがあります」
「当社の販売システムの利点について、少しだけ補足をさせていただいてよろしいでしょうか」

安易に反論をして両者が敵対関係に陥るよりも、イエスとノーのどちらかを選ばないといけないという状況から脱出することが肝要です。

相手の要求を受け入れることができない場合は、相手との軋轢を最小限にできるよう、相手のメンツが保てる理由を添えて返答するとよいでしょう。

■具体例
「ご提示いただいた金額を承諾することは今の段階では困難ですが、これは御社の条件が悪いのではなく、一度、社内に持ち帰って上司に相談する必要があるためです」

また、たとえダメもとでも、こちらから相手の要求に対する代替案や交換条件を出して相手にぶつけることによって、状況が打開できる場合もあります。相手がその条件を承諾してくれたら最高ですが、そうならなくても、相手もこちらの要望を断ったことで、心理的にお互いにイーブンとなります。

2.覚えておくと便利な交渉テクニック

ここまで交渉についての本質的なポイントをお伝えしてきましたが、さらに実践的なテクニックや理論も覚えておくと、スムーズに相手の決断を促すことができます。

(1)フレーミング

特定の条件(枠=フレーム)を設定し、相手の印象を操作することをフレーミングといいます。客観的には同じでも、状況の違いや表現の仕方等によって、異なった印象を与えることができます。例えば、以下の例はどちらも同じことを言っていますが、得になるのか損になるのか表現を変えるだけで、聞く側の印象が変わります。

■メリット(利益)を強調するフレーム
「すぐに購入されると2割安くお買い上げいただけます。来月には通常価格に戻ります」

■デメリット(損失)を強調するフレーム
「来月になると特別セールが終わるので、お安くご購入いただけなくなります。購入金額が2割高になります」

行動経済学では、「〇〇をしないと、△△ができなくなります」など損失を強調した方が、利益をアピールした場合よりも2倍の影響を与えられると考えられています。これを「プロスペクト理論(損失回避性)」と言います。そこで交渉では、相手のデメリットを強調したうえで、損をしないためはこちらの主張を認めるべき、との流れを作り出せると効果的です。

(2)アンカリング(係留効果)

最初に基準となる「アンカー(=錨)」を提示し、交渉結果に影響を与えることをアンカリングと言います。例えば、こちらの希望価格よりも少し高めの提示金額を出すと、その値段が基準値となり、値引きが抑えられる場合があります。

■具体例(自社の希望価格は最初から35,000円)
自分「今回は50,000円でお見積りをつくりました」
相手「ちょっと高いね」
自分「今申し上げたのは定価です。御社にはお世話になっていますので、1割引かせていただきます」
相手「もう少しなんとかならないの」
自分「上司に15%オフが可能かどうか、自社に戻って相談してご連絡します」
相手「それだけ値引きしてくれるなら、こちらも前向きに検討します」

(3)自己説得

人は、相手から押し付けられたことより、ある程度自由に判断できる(選択肢などがある)なかで、自分で決断したことを重視する傾向があります。

そこで交渉では、自分が相手に一番伝えたいこと、説得したいことを「相手に言わせる」流れに持っていくのが効果的です。相手も自分で発言したことには責任を感じるので、そこを基準値として交渉をスタートすることができます。

■具体例
自分「いま一番売れているのはAですね。販売価格は30,000円です」
相手「うちでも目玉になる商品を探しているんですが、予算が厳しいんですよ」
自分「ヒット商品なのでお値下げは難しいです。御社にはお世話になっているので、少し勉強させていただきたいのですが......」
相手「2,000円割引をしてくれるならすぐに買いますよ」

まとめ

いかがでしたでしょうか。 合意を急ぐあまり、どちらかの一方的な譲歩が必要となった相手との取引は、決して長続きしません。逆に納得いくまで話し合い、お互い満足のいく合意を取り付けることができた相手とは、将来にわたって持続的な取引が見込めます。様々な企業とのアライアンスによって成果が上がり、組織の業績向上につながるよう、交渉力を磨くことは全てのビジネスパーソンに求められていると言えます。

今回ご紹介した交渉のポイントやテクニックを上手く活用し、双方にとってメリットがあるWin-Winの合意を目指しましょう!

<関連リンク>

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