日本テレビ系基幹4局の経営統合、その背景は?そして未来は?

2024年12月13日

日本テレビ系基幹4局の経営統合、その背景は?そして未来は?

日本テレビ系列の札幌テレビ放送、中京テレビ放送、読売テレビ放送、福岡放送の4社が、共同株式移転による認定放送持株会社「読売中京FSホールディングス」(FYCSHD)を設立すると発表した。これまで再編には手を付けてこなかったテレビ局が、いよいよ本格的に動き出したわけだ。その背景は?


民放テレビに吹き荒れる「逆風」

4社は新会社の完全子会社となり、経営統合を進める。系列キー局の日本テレビホールディングス<9404>が、FYCSHDの20%以上の株式を保有する。発表資料によると、人口減少やライフスタイルの変化により、民間放送事業者を取り巻く環境は厳しさを増している。

そのためスケールメリットの拡大やコスト効率化を進める必要があり、FYCSHDの設立で合意したという。4社は各社の個性を生かしつつ、経営基盤の安定を図る。併せて新規ビジネスへの積極投資や海外ビジネスの展開なども検討。放送エリアやテレビの枠を超えた事業拡大と持続的な成長を狙う。

コスト削減のため、レギュラー新番組や共同制作番組の開発、放送・配信連動コンテンツ制作と広告価値の向上、設備の相互利用促進と要員の協力体制強化も進める。

人手不足対策としても、人事交流促進による人材育成の強化やグループ会社も含めた採用活動の連携、基幹システムの共通化による生産性向上など、組織と人材の強化にも力を入れるという。


ネット動画の成長に脅かされるテレビ局

こうした経営統合の背景には、テレビ局を取り巻くメディア業界の激変がある。その最たるものが動画コンテンツのネット配信からの侵食だ。「YouTube」をはじめとする無料動画サービスとの「視聴時間の奪い合い」に加えて、NetflixやHuluといった有料動画配信サービスとの「コンテンツの質の競争」が激化している。

かつては過去に公開された映画やテレビ番組の配信が中心だったが、最近では「地面師たち」や「極悪女王」といった新作オリジナルのコンテンツが人気と話題を集めており、ネット配信のコンテンツ競争力が飛躍的に高まっている。

さらに2003年からの地上デジタル放送の開始で、ローカル局の設備投資や維持コストが跳ね上がった半面、広告収入はネット広告に押されて伸び悩んでおり、収益は悪化する一方だ。電通が毎年発表している「日本の広告費」によると、2023年のテレビ広告費は1兆7347億円で、ネット広告費の3兆3330億円の半分程度に過ぎない。

NHKはネット配信に軸足を移す動きを見せている。在京キー局がこれに追随すれば、自社番組をネット配信または衛星放送で全国カバーする体制になるだろう。在京キー局の全国中継を担ってきたローカル局の存在価値は失われ、存続の危機に陥る。日本民間放送連盟によると、2022年度に全国127局のテレビ局のうち、すでに23局が営業赤字に沈んでいる。

そのため、ローカル局では在京キー局を軸とした再編の必要性が論じられてきた。FYCSHDは、その本格的な取り組みと言える。ただ、業界再編だけでは、危機の先延ばしに過ぎない。テレビコンテンツのネット配信が完全解禁されれば、経営規模を拡大したところでローカル局を置く必要はなくなるからだ。


IPと地域おこしで救えるか?

FYCSHDも、こうした状況を打破するための具体的な施策を打つ方針だ。放送外ビジネスの拡張を目指し、ストックコンテンツファンドの創設やマルチ展開、配信コンテンツやアプリの共同開発、海外のコンテンツ会社との連携強化といったIP(知的財産権)ビジネスを計画している。併せて地域情報を発信する中核企業として地方創生にも取り組み、地域起こしビジネスの参入も視野に入れている。

国は地デジ化による設備投資負担でローカル局の経営が厳しくなったことから、2008年に放送法を改正。それまで厳格に適用していた「マスメディア集中排除原則」を緩和し、業界再編を認める認定放送持株会社制度を導入した。フジ・メディアホールディングス<4676>が仙台放送やNST新潟総合テレビ、⻑野放送などの地方局に出資したほか、TBSホールディングス<9401>やテレビ東京ホールディングス<9413>も地方局に出資。FYCSHDの設立もその流れと言えるが、「ローカル局救済」よりも「準キー局囲い込み」の側面が強い印象を受ける。

FYCSHDに参加する中京テレビ(経常利益36億1900万円)、読売テレビ(同22億1300万円)、福岡放送(同19億9200万円)、札幌テレビ(同1億2000万円)は、いずれも黒字で政令指定都市のテレビ局。地方局の中でも経営基盤が強い局だからだ。

今後は人口100万人未満の地方都市に本社を置く、経営環境が厳しいテレビ局の再編が課題になる。赤字局の割合も現在の2割から、さらに拡大する可能性が高い。ネット配信で生き残る可能性がある在京キー局にしても、赤字局を経営統合で抱え込む余裕はないだろう。赤字局を「廃業」させるのか、国が民放各社に働きかけて在京キー局の「支局」として生き残らせるのか、それとも他業種からの買収を進めるのか。まだ「着地点」は見えないが、テレビ局の生き残りをかけた再編戦略が始まることだけは間違いない。

配信元:M&A Online

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