女性活躍推進研修や女性リーダー育成研修をご検討されている組織からは以下のようなお悩みをよくおうかがいします。
- 「管理職やリーダーになりたくない女性が増えており、管理職比率が一向にあがらない」
- 「結婚や出産を機に離職する女性が多く、どうにか歯止めをかけたい」
インソースでは、これまで数多くの組織で女性リーダー育成や女性活躍推進の支援を行い、さまざまなお悩み・ご要望にお応えしてまいりました。また、弊社は全従業員数のうち%が女性で、管理職の割合も%と「女性が活躍する会社」でもあります()。
今回は、女性リーダー育成および女性活躍推進の現実をおさえた、効果的なアプローチについて、豊富な実績をもとにお伝えいたします。女性リーダー育成研修、女性活躍推進研修の実施をご検討される際の参考になる内容となっておりますので、ぜひご一読ください。
女性活躍推進の理想と現実
(1)日本における女性活躍推進の課題 ~女性リーダー・管理職の育成
日本における女性活躍推進の現状は、先進国の中でも著しく低く、ジェンダーギャップ指数(2017年)※における日本の順位は144カ国中114位でした。また、2017年の課長相当以上の管理職に占める女性の割合は12.1%であり、「2020年までに30%」という政府目標からは遠い結果となりました。
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ジェンダーギャップ指数
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世界経済フォーラム(World Economic Forum)が「The Global Gender Gap Report 2017」において、各国における男女格差を測るジェンダー・ギャップ指数(Gender Gap Index:GGI)を発表しました。本指数は、経済、教育、政治、保健の4つの分野のデータから作成され、0が完全不平等、1が完全平等を意味しています。2017年の日本の順位は、144カ国中114位でした。
出典:「共同参画」2017年1月号(内閣府男女共同参画局)
女性の社会進出は進みましたが、意思決定の場における女性の台頭はまだ遠いのが現状です。
政府は女性活躍推進法を2015年に定め、大企業に対し自社の女性の活躍状況の分析を義務付けました(中小企業は努力義務)。その指標として用いられたのが「女性の採用割合」「勤続年数の男女差」「女性管理職の割合」です。女性管理職比率の引き上げを目的とした施策の一環でした。
(2)女性活躍推進に係る現状 ~就労継続する女性の増加
女性活躍推進における課題が着目される一方で、女性を取り巻く環境に少しずつ変化が出てきていることも事実です。
①М字型カーブの解消、ライフイベントに左右されず就労継続する女性の増加
日本の女性の労働力はM字カーブと言われるように、20代から30代にかけて大きく下がる傾向にありました。現在もM字カーブを描いてはいますが、カーブは以前に比べて浅くなっています。M字の底となる年齢階級も上昇しています。
②少しずつ着実に増加する女性管理職
政府の目標数値には遠いものの、管理職に占める女性の割合は増加傾向にあります。これは雇用の長期化に伴い、今後も増えていくと考えられます。
③性別役割分業も少しずつ解消し、共働きが主流になりつつある
ア.「男は仕事、女は家庭」に対する意識変化
「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に対し、「反対」「どちらかといえば反対」と回答する割合は年々年々増加し、男女とも約半数を占めるようになりました。
イ.共働き世帯の増加
雇用者の共働き世帯数は、男性が働き女性が専業主婦となる世帯数と、平成8年に逆転。平成27年時点で1,114万世帯となり、男性が働き女性が専業主婦となる世帯の倍近い数となっている。「共働き世帯」こそ現代の主流となる働き方、家族の形となりました。
女性は家を守るといった従来の考え方が薄れ、ライフイベントを迎えても就労継続を選択する女性が増えています。
(3)組織における女性リーダー育成における現状と課題
①女性活躍推進に取り組む企業の増加
政府の指針と働き続ける女性の増加を踏まえ、組織として女性活躍推進に取り組む企業は増えました。「ダイバーシティ推進室」「ワークライフバランス推進室」といった名称で、経営戦略の一環として施策を打つ企業の増加です。一方で、政府の目標数値を受け、女性活躍推進は数値で語られることが多くなりました。現場で働く自社の女性社員の内実よりも、目標達成の有無を重視する組織が多くなったのも事実です。
②女性リーダーの育成に苦戦の様相
女性活躍推進とその先のリーダー育成・管理職育成の難しい点は、昇格・昇進の内示を出せば数値達成というように、一朝一夕には進まない点です。家庭運営の中心を担う女性社員は、業務負荷の大きい管理職を、そう気軽に受けることはありません。冷静に今の状況を見極め、今の生活維持を上回るメリットがなければ昇格・昇進の打診を断る方も多いのが現状です。また、男性中心の組織構造を前提としてきた企業では、女性に要職を任せるための育成や準備をしてこなかったため、昇格・昇進の対象となる女性が育っていないという現状もあります。
なぜ女性活躍推進が求められるのか?
そもそも、なぜ女性活躍推進が求められるのでしょうか?
背景には少子高齢化と生産年齢人口の低下があげられます。
(1)女性活躍推進が求められる背景
①2030年、生産年齢人口は1千万人減少する
②長時間労働の是正、人材の多様化
これまで
- 男性社員による長時間労働が一般的
- 時間と人材を必要なだけ活用することができた
これから
- 長時間労働≠一般的
- 労働人口の不足、育児・介護による時短勤務者の増加
組織として対策を打たなければ業績は落ちる一方。女性社員の活躍が鍵に。
⇒ライフイベントを迎えた女性が働き続けることができ、キャリアアップできる環境が必須に。
(2)これからの組織運営における大前提
女性をはじめ、あらゆる人が働きやすい組織をつくることは、組織の成長戦略である。
あらゆる人が働きやすい組織をつくることは、組織の生存戦略であり成長戦略です。今、日本企業は「働く」ということに対する前提の変更を迫られる過渡期にあります。
(3)女性活躍推進のもたらすメリット
このように、環境変化や働く女性の要請を受けて進められる女性活躍推進ですが、組織にもたらすメリットも多くあります。
①優秀な人材の獲得と離職防止
女性をはじめ多様な人材や多様な働き方を尊重する組織では、優秀な人材の離職を防ぎ、長く活躍してもらうことができます。また、組織評価が高まるごとに優秀な人材を獲得しやすくなり、結果として組織成長や拡大が促進されます。
②組織に対するロイヤルティ(忠誠心)が高まる
組織が「働き方の多様性」を認めることは、従業員一人ひとりを大切にする姿勢と捉えることができ、自ずと従業員の組織に対するロイヤルティ(忠誠心)が高まります。
③多様な人材で構成される組織の「変化への対応力」と「リスク耐性」
同種の人材で構成される組織は、外部の変化に鈍感になりやすいといわれます。その点、多様な人材で「混成」されている組織では、多様な視点から変化を発見することができ、また多様な側面からリスクを判断することができます。
ポイント
女性活躍推進は組織力向上の取り組みであり、組織に大きなメリットをもたらす取り組みであることを、女性社員当人だけでなく、上司や経営層が理解することが重要です。
女性リーダーに寄せられる期待とは
(1)女性リーダーに寄せられるたくさんの期待
①キャリアの開拓者
意思決定の場における男性の比率が高い中、役職者や経営層に女性が参入する意義というのは想像以上に大きいものです。女性リーダーやその候補者には、自組織および日本におけるキャリアの開拓者として活躍することが期待されます。
②女性の視点を活かした価値創造
女性の視点を活かした商品開発や価値創造の事例は多くあります。女性だからこそ持てる視点や気づくことのできる点を活かした活躍に対しても、期待が寄せられています。
③ロールモデル
女性リーダー・管理職の母数が少なく、キャリアの道筋が描きにくい現状を背景に、女性社員のキャリアや働き方におけるお手本、希望としての期待が寄せられています。
④後進育成
自身が女性リーダー・管理職として活躍するとともに、メンターとして相談を受けたり支援を行うなど、後進を引き上げることが期待されます。
(2)自分らしいキャリアを前向きに築いた結果が、期待に応えるということ
「こんなにたくさん期待されても・・・」と思う方も当然いるでしょう。しかし、完璧である必要はありません。上記のようなたくさんの期待をプレッシャーと感じるのではなく、チャンスとして捉える視点が大切です。キャリアを開拓することも、(自分が納得いく)ロールモデルとなることも、簡単ではありません。ここで大切なのは「自分が何をしたいか」「自分がどのようなキャリアを築きたいのか」ということです。
(3)完璧である必要はない、自分らしく挑戦を続ける
周囲の求める型にはまるのではなく、チャンスや転機をポジティブに受け取り、自分らしい挑戦を続けた結果が、後進育成につながりロールモデルのひとつとなり、キャリアの開拓につながります。
ポイント
期待の受け止め方と自分らしいキャリアの築き方・考え方を女性社員が理解しておくことで、女性のキャリアアップが進みます。
女性リーダーに求められるスキルとは
女性リーダーが活躍していくために強化したいのは以下3つのスキルです。
(1)安定力
リーダーは心理面での「浮き沈み」の表面化を抑え、常に前向きな姿勢で業務に臨むことが必要になります。周囲との良い関係を構築するため、自分の感情をコントロールするスキルを身につけることが必要です。
(2)判断・思考力
現場で自分が「判断」、「決断」をしなければならないことが多くなります。おそらく、リーダーになるまでは、自分が最終判断をすることはなかったでしょう。そのため、プレッシャーも大きくなります。その際に、組織における様々な判断軸を考慮することで適切な判断ができるスキルを身につけます。
(3)指導力
リーダーは、最小限の資源で最大の効果を出すことが求められます。効果的かつ効率的な指導をするスキルを身につけます。また、好きな部下、嫌いな部下によって指導頻度、内容を変えることなく、どの部下に対しても、公平に成長支援をする意識を持つ方法を身につけることも求められます。
ポイント
女性リーダーとして飛躍するためのスキル向上も欠かせません。「安定力」「判断・思考力」「指導力」は、女性社員から悩みとして出ることの多い項目です。
多様なリーダーシップスタイルの実現に向けて
このように、女性リーダーの育成には多大な期待が寄せられ、たくさんのことを求められています。これをプレッシャーに感じ、新たなキャリアステージに踏み出すうえで躊躇する女性がいるのも事実です。大切なのは、周囲の期待に応える完璧な自分=女性リーダーになることではなく、自身の特性や強み、経験をもとに、自分らしいリーダーとしてキャリアを築くことです。
(1)多様化するリーダー像
リーダーに求められる役割は多岐に渡ります。そのため「リーダー」と聞くと、カリスマ性だったりビジョンを示す力だったり、「すごい人」をイメージするかもしれません。確かに従来「リーダーシップ」と言えば、命令・指示によってメンバーを管理する「ボス・リーダーシップ」が主流でした。
しかし、メンバーの多様化に伴い、リーダー像も多様化しています。コミュニケーション能力が高く、周囲と円滑な関係を保ちながら調整をすることが上手なリーダーや、メンバーの私生活のことをきちんと考慮したうえで冷静に業務の割り振りができるリーダーなど、多様なリーダーが求められ、また認められるようになりました。
(2)新たなキャリアステージに向けて一歩踏み出す
自身のありたい姿や、リーダー像のイメージが沸かないという方が多いかもしれません。背景には、女性リーダー・女性管理職の比率、絶対数ともにまだ少なく、女性が働ける環境構築に向けた組織の取り組みが不足しており、家庭、仕事、プライベートなど踏まえた先のキャリアを積極的に考えられないといったこともあるでしょう。
しかし、仕事を通じて得られる充実感、達成感は大きいものです。これからの社会では、女性としての人生とキャリアは二者択一ではなく、どちらも手に入れることが可能です。あこがれの上司・先輩がいないのであれば、部下・後輩のためにも自分自身がそうなれるよう、目指すべき姿について今一度考えてみましょう。
女性リーダーになって得られることとは
女性リーダーになるということは、ただ責任や負荷が増えるだけではありません。女性リーダーとしてキャリアを歩むことによって、得られるものはたくさんあります。
(1)高い目線で経営にかかわる面白さ、社会へのインパクト
管理職として高い目線から組織を捉え、裁量をもって経営に係る面白さは、経験をしてみないとわかりません。社会への影響の大きさはやりがいや貢献の実感につながります。
(2)組織を変え、働きやすい組織をつくる裁量の獲得
管理職になるということは、マネジメントにおける責任を持つと同時に、働きやすい組織をつくるうえでの意思決定権を持つということでもあります。
(3)マネジメントの経験による能力開発
マネジメントを通して得られるスキルは多岐に渡ります。プレイヤーやチームリーダーとして仕事をしていた頃よりも、より多角的な視点で、業務に取り組む必要性が出てきます。管理職として業務に臨む濃密な時間は、飛躍的な能力の開発に直結します。
(4)後進や家族へ見せるビジネスパーソンとしての姿
一人のビジネスパーソンとして自立し、組織を牽引しながら社会に影響を与える姿は、後進や家族にも影響を与えます。キャリアアップは当然自分自身にとってのテーマですが、その結果が周囲にもたらす影響は大きいことを意識しておきましょう。みなさんの働く姿は、今日も誰かの希望や勇気につながっているかもしれません。
女性リーダー育成のために上司ができること
(1)「女性」ではなく、「個人」として見る
①無意識の思い込みを取り除く
人は誰でも「無意識のバイアス」を持っています。例えば、
- 女性は家事、育児をする
- 女性は献身的である
- 女性はこまやかである
- 育児中の社員は、仕事より家庭が大事
- 女性は管理者に向いていない
- 男性は決断力がある
- 男性はリーダーシップがある
- 男性は一家の大黒柱である
- ゆとり世代は根性がない など
少しでも思い当たるものはないでしょうか。無意識のバイアスは、部下のチャンスや意欲を奪い、結果として組織の生産性を低下させます。
②部下を「個人」として見る
部下と向き合う際、「女性」「育児中」「介護中」等の属性にとらわれず、冷静に部下の仕事力や意欲を見極め、限定条件を理解し、マネジメントをする必要があります。
③対話を通じて部下を理解する
部下を理解するうえで、部下との対話は不可欠です。しかし、日ごろの信頼関係なくしては、必要な情報を部下から得ることはできません。信頼関係を築くための時間づくりや意図した会話、面談を行うことができているか振り返ってみましょう。
(2)経験を積む業務配分
①スキルや経験の不足が、キャリアに対する不安につながる
様々な企業でアンケートを実施すると、女性社員が今後のキャリアを考えるうえで不安なことに「自身のスキル不足」が多くあげられます。特に責任ある仕事や、矢面に立って問題解決にあたるような業務に携わってこなかったことからくる"自信のなさ"が、キャリアに対する不安となり、「私はリーダーにはなれない」という思いにつながっています。
②若手のうちから、性別関係なく、スキルと経験を積む環境をつくる
女性社員の活躍とキャリアアップを後押しするためには、意識してキャリアアップにつながる仕事を与え、自信と実力をつけていくことが必要です。属人化した高度な業務を、部下の成長を見越していかに配分するかが求められます。
③ひと皮むけた経験・節目をいかに与えるか ~「女性だから」でチャンスを奪わない
部下の成長には「ひと皮むける」経験が欠かせません。そして成長の節目となる大きな契機は上司が戦略的に用意をしていくものです。特に女性部下は、「女性だから無理だろう」というバイアスをかけられることが多く、男性社員よりも節目となる決断や判断を課せられるような仕事を任されにくい傾向があります。ちょっと難しいかな?と思う仕事をあえて任せることが、部下のキャリアアップには欠かせません。
(3)キャリア面談のすすめ
①部下のキャリア形成支援 ~就労継続・キャリアアップ
部下のキャリア形成支援は、上司の責務です。今後どうなっていきたいかを確認するとともに、希望するライフイベントや働き方についても把握します。長期的な視点で部下のキャリアアップを考え、対話をしながら道筋を立てることが必要です。
②悩みの把握 ~仕事・プライベート
ワークとライフのバランスは変化していきます。しかし、ライフイベントの課題に直面したとき、部下は「今の大変さ」という短期的な視点で離職を考えます。組織にとって優秀な人材、経験を積んできた人材の流出は大きな痛手です。キャリア面談では、女性部下がそうした悩みを抱えていないかを確認します。
プライベートな事柄について話したり、たずねるときは、部下に配慮して行いましょう
③期待を伝える ~「情」をもって伝える
部下の状況や希望を把握したうえで、組織からの期待を伝えます。一方的にならないよう部下の気持ちを汲みながらも、期待を伝える際は迂遠な言い回しでなく、当人にしっかりと伝わることを意識しましょう。